日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG067] 道徳授業を通した児童の価値観の変化

「社会貢献」をテーマとした授業に着目して

三輪聡子 (東京大学大学院)

キーワード:道徳, 価値観, 初等教育

【目的】
道徳授業で児童が対峙する価値観の多くは,児童が自分なりに生活の中で考えたり感じたりしたことがあるものである。道徳授業(道徳の時間)の目的には,「道徳的価値の自覚(文部科学省, 2008)」が含まれるため,児童が事前に持つ価値観を揺さぶり,他の側面にも目を向けさせながら,道徳的思考や判断をできるように促すことは重要である。ただし,道徳授業内で児童の価値観に生じる変化を検討した研究はほとんどみられない。そこで本研究では,「仕事」に関する道徳授業を実施し,児童の価値観がいかに変化するのかを検討する。具体的には,「自己実現」と「社会貢献」という2つの働く意義(押谷・立石, 1991)のうち,「社会貢献」の側面を強調した授業を実施し,授業前後での児童の「仕事」に対する価値観の変化を1)抽象的仕事観と2)具体場面に即した仕事観(具体的仕事観)の2つの観点から明らかにする。
【方法】
対象:都内小学校6年生1学級(30名)を対象に,2013年11月に授業観察を行った。
調査方法:読み物資料「ぼくの仕事は便所そうじ」を使用し,「社会貢献」の側面を強調した授業を担当教員に実施して頂いた。また,価値観の変化を検討するため,授業前と授業後に課題プリントを実施し,未記入・未提出者2名を除く28名の記述を分析した。
課題プリント:(a)抽象的仕事観(Ex「仕事とは,( )だと思う」)と(b)具体的仕事観(仕事(Ex 係)をする際の気持ち)を問う課題を分析の対象とした。
分析枠組み:抽象的仕事観は,以下のカテゴリーに分類した。a)自分のために行う活動として考える「自己実現的意義」,b)他者のために行う活動としての「社会貢献的意義」,c)双方について触れている「自己+社会的意義」である。上記に分類できなかった解答は「分類不可」とした。また,具体的仕事観は,「社会貢献的視点」の有無で分類を行った。
【結果】
抽象的仕事観の変化 授業前に仕事に対して社会貢献的価値づけを行っていた児童13名中8名(61.5%)は,授業後も同様の価値づけを行っていた。その一方で,授業前に自己実現的意義から価値づけを行っていた児童7名中5名(71.4%)は,自己実現的意義に加えて,社会貢献的意義もふまえた価値づけを行っていた。
具体的仕事観の変化 授業後では,授業前に自身の実際の仕事について社会貢献の視点から捉えていなかった児童10名中8名(80%)が社会貢献的視点から振り返っていた。
2つの仕事観の関連 授業前後での抽象的仕事観と具体的仕事観の変化の仕方の関連を検証するため,Fisherの直接法を行ったところ,5%水準で有意な差が見られた(Table 1)。すなわち,抽象的仕事観が変化した児童は,自身の実際の仕事に対する感じ方も変化しており,実際の仕事に対する感じ方に変化がみられない児童は抽象的仕事観も変化しないことが示された。
【考察】
児童がもつ価値と,授業で強調された価値とが異なる場合に,児童は授業で提示された価値を取り入れていくことが示された。したがって,道徳授業において価値観の持つ複数の側面を提示し,個々の児童の価値観を揺り動かすことは,児童の道徳的思考を刺激し,支援していく上で重要であろう。さらに,抽象的な道徳的価値観の変化は,具体的な場面の振り返りと関連していることが示された。そのため,抽象的な概念を伝えるだけなく,価値観の特定の側面を共有し,その側面から自身の具体的な場面を振り返らせることも,児童の道徳的価値観を変化させる効果的な手立てとなる可能性がある。