[PG068] 特別支援学級における数概念形成を目指した学びの過程
語り合いから納得を生み出す
キーワード:小学校算数, 特別支援学級
問題と目的
本研究は,特別支援学級における数概念形成を目指した教授法を探究し,特に子どもと教師が一対一で授業する中で,共同しながら語り合うことを重視した関わりが,どのように学習者に納得を生み出すのかを明らかにしようとする実践研究である。
ヴィゴツキーは,障害児と健常児の発達には共通性を認めたうえで,障害に由来する発達の独自性があり,教育の効果があがるのには,高次精神機能に働きかけることが重要であるとした(明神2011)。子どもと教師が語り合うことも,共同の一形態であり,また,高次精神機能に働きかけることになると考える。
そこで,司城(2012),細谷(1978)の視点を参考に,学習活動を「独自性」と「一般性」という概念で論じ,ヴィゴツキーの「回り道」概念に着目して,対象児の学びを創造する過程で学習者の独自性,一般性について考察をする。子ども-大人,学習者-教師という独自性の高い小集団からどのような関係性が生まれ,また,どのような探求活動が行われるかを明らかにしたい。
方法
(1)対象:特別支援学級に在籍する男児1名。
(2)手続き:2012年10月~2013年10月。「大きな数」の単元を中心に3つの実践・観察を行った。実践1と3では,主に教科書に沿って学習を進め,実践2では,計算ドリルから出題した筆算の問題を対象児が一人で解き,誤りについて考察した。
(3)分析方法:実践1では,授業の3つの場面を教師用指導書の記述と対比しながら考察した。実践2は,大きい数の筆算の誤りのパターンや独自の思考について観察した。実践3は,対象児と筆者のやりとりから,特徴的な15の場面を抽出し,考察した。
結果と考察
実践1 本実践には,子どもがつまずきやすい問題がいくつかあった。そのうちの一つが,数直線の読み取りである。指導書の記述を検討したところ,様々な特性を持つ特別支援学級の子どもたちには,一つの支援がどの子どもにも万能とは言えないことが明らかになった。数直線の読み取りは,通常学級の児童にとっても難しい場合があり,そのための支援もまだ検討の余地がある。特に,特別支援学級の子どもたちには,特性に合った支援が選択される必要があることが分かった。
実践2 対象児は当初,独自の方法で筆算を解決しようとしていた。一般的な解法にこだわらずに指導を進めていくことについて,「特殊から一般へ」の道筋が合う子どもの存在が指摘されている(吉國・赤沢2012)。その後,対象児は,一般的な解法を用いるようになり,特殊から一般へと思考が移行した。すなわち「回り道」を使わなくなる学習者の姿が明らかになったのである。
実践3 学習者と教師の納得のプロセスが明らかになった。教師が授業中に生じる「沈黙」の理由を探求した結果,「大人は見落としがちだが,子どもにとってあたりまえではないこと」にたどり着き,新しい教授法を計画、または,「学習者の思考パターン」を取り入れた新たな学びを提示する。このようなプロセスの循環を繰り返しながら,学習者が自らの「回り道」を獲得し,納得への道筋を進んで行く。沈黙をともに乗り越えることで,学びの共同性がさらに高まり,当初は教師の手に多くあった学習のイニシアチブが学習者へと移り,より主体的な学びへと変わっていく姿が観察された。
本研究は,特別支援学級における数概念形成を目指した教授法を探究し,特に子どもと教師が一対一で授業する中で,共同しながら語り合うことを重視した関わりが,どのように学習者に納得を生み出すのかを明らかにしようとする実践研究である。
ヴィゴツキーは,障害児と健常児の発達には共通性を認めたうえで,障害に由来する発達の独自性があり,教育の効果があがるのには,高次精神機能に働きかけることが重要であるとした(明神2011)。子どもと教師が語り合うことも,共同の一形態であり,また,高次精神機能に働きかけることになると考える。
そこで,司城(2012),細谷(1978)の視点を参考に,学習活動を「独自性」と「一般性」という概念で論じ,ヴィゴツキーの「回り道」概念に着目して,対象児の学びを創造する過程で学習者の独自性,一般性について考察をする。子ども-大人,学習者-教師という独自性の高い小集団からどのような関係性が生まれ,また,どのような探求活動が行われるかを明らかにしたい。
方法
(1)対象:特別支援学級に在籍する男児1名。
(2)手続き:2012年10月~2013年10月。「大きな数」の単元を中心に3つの実践・観察を行った。実践1と3では,主に教科書に沿って学習を進め,実践2では,計算ドリルから出題した筆算の問題を対象児が一人で解き,誤りについて考察した。
(3)分析方法:実践1では,授業の3つの場面を教師用指導書の記述と対比しながら考察した。実践2は,大きい数の筆算の誤りのパターンや独自の思考について観察した。実践3は,対象児と筆者のやりとりから,特徴的な15の場面を抽出し,考察した。
結果と考察
実践1 本実践には,子どもがつまずきやすい問題がいくつかあった。そのうちの一つが,数直線の読み取りである。指導書の記述を検討したところ,様々な特性を持つ特別支援学級の子どもたちには,一つの支援がどの子どもにも万能とは言えないことが明らかになった。数直線の読み取りは,通常学級の児童にとっても難しい場合があり,そのための支援もまだ検討の余地がある。特に,特別支援学級の子どもたちには,特性に合った支援が選択される必要があることが分かった。
実践2 対象児は当初,独自の方法で筆算を解決しようとしていた。一般的な解法にこだわらずに指導を進めていくことについて,「特殊から一般へ」の道筋が合う子どもの存在が指摘されている(吉國・赤沢2012)。その後,対象児は,一般的な解法を用いるようになり,特殊から一般へと思考が移行した。すなわち「回り道」を使わなくなる学習者の姿が明らかになったのである。
実践3 学習者と教師の納得のプロセスが明らかになった。教師が授業中に生じる「沈黙」の理由を探求した結果,「大人は見落としがちだが,子どもにとってあたりまえではないこと」にたどり着き,新しい教授法を計画、または,「学習者の思考パターン」を取り入れた新たな学びを提示する。このようなプロセスの循環を繰り返しながら,学習者が自らの「回り道」を獲得し,納得への道筋を進んで行く。沈黙をともに乗り越えることで,学びの共同性がさらに高まり,当初は教師の手に多くあった学習のイニシアチブが学習者へと移り,より主体的な学びへと変わっていく姿が観察された。