[PG073] 批判的思考と英語版論理的思考能力テストの関連性
Keywords:クリティカルシンキング, 論理的思考, 英語教育
新学習指導要領では、課題解決のための思考力、判断力、表現力等が重要な教育目標とされ、英語科教育においても、コミュニケーション技能に並んで「論理的な思考力」の育成が重要な柱となっている。これらの中で強調される「論理的思考力」とは、形式論理学的な意味での論理性に限定されるものではなく、より幅広い文脈に適応される良質の思考を指す概念であり、いわゆる「批判的思考」に相当するものと解釈できる。
批判的思考力には認知的な側面(技術・知識)と、情動的な側面(態度)があり、多様な形式のテストが提案されている。本研究では(1)論理的思考能力テストと批判的思考の指標との関連性に着目し、(2)日本語(母語)ではなく、英語科教育の学習・評価サイクルの中で活用できる英語版論理能力テスト(藤田・山野井・中村・吉川・松居,2013)を用いて、中高生の論理的思考能力測定の妥当性に関する検討を行った。
方法
参加生徒
中学1,2,3年生、高校1年生 計316名(男子157名,女子159名)
実施テスト
(1)英語版論理能力テスト Watson Glaser 批判的思考テストなどを参考として作成された多肢選択式のリーディング・テスト全40問。「分析」「評価」「推論」「表現」の4カテゴリの能力を測定することを想定している。たとえば「分析」能力に関する問題では「事実と意見の区別」「主張と根拠の抽出」などを問う。
(2)英語言語能力テスト 解答のために論理的思考を要求しない「語彙」「文法」に関する多肢選択式リーディング・テスト全30問。
(3)批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004) 「論理的思考への自覚」「探求心」「客観性」「証拠の重視」の4下位尺度18項目の短縮版を用いた。
(4)教師による批判的思考能力評定 批判的思考の一般的定義にもとづき、クラス担任教師に依頼して、「ものごとを考える時に、一方的ではなく多面的にとらえて、しっかりと熟考し、合理的で論理的な判断ができると考えられる生徒」を、各クラスから1~2割程度選出した。
参加生徒は(1)(2)に英語ライティング・テストを加えた英語実力テストを90分間の授業時間で実施し、終了後に(3)の質問紙に記入した。
結果
英語版論理能力テストの各下位カテゴリ得点を目的変量とし、学年,文法得点,語彙得点および批判的思考態度4尺度得点を説明変量とする重回帰分析を行った。その結果、学年・文法・語彙各得点で有意な回帰係数(β=.11~.40)が見られた他に、「論理的思考の自覚」と「推論」能力得点の間に有意な関連性(β=.10,p<.05)が示された。その他はいずれも有意ではなかった。
教師評定(選出は35名,全体の11%)を目的変量として、諸テスト・尺度を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。その結果、教師評定と、文法得点、「分析」「推論」、「論理的思考への自覚」といった変数間に有意な関連性が見られた。
考察
本研究で用いた英語版論理能力テストでは、文法や語彙といった英語能力を分離してジェネリックスキルとしての論理的思考能力を抽出することを想定している。この論理思考能力と自己報告された批判的思考態度には一部で有意な関連性はあったものの、全般に関連性は弱く、これは楠見・平山(2004)がコーネル批判的思考テストを用いた報告と対応するものであった。一方で、教師評定との関連は、英語版テストの妥当性をおおよそ支持するものであったが、一部の能力得点と負の関連性が見られるなどの問題もあった。これらの結果は、英語版テストに含まれる「論理的思考」概念を再構成する必要性があることを示している。英語教育と適切にリンクした論理的・批判的思考の教育を進めるために、問題カテゴリや個々の設問の見直しが課題となるだろう。
英語で批判的思考力を育成し測定するという考え方は、外国語処理に資源が割かれるための思考力の低下(Takano & Noda,1995)が生じる一方で、逆に意思決定バイアスが抑制されるといった効果(Keysar, Hayakawa & An,2012)も予想できる点で心理学的に興味深い領域であり、今後の研究発展が期待される。
批判的思考力には認知的な側面(技術・知識)と、情動的な側面(態度)があり、多様な形式のテストが提案されている。本研究では(1)論理的思考能力テストと批判的思考の指標との関連性に着目し、(2)日本語(母語)ではなく、英語科教育の学習・評価サイクルの中で活用できる英語版論理能力テスト(藤田・山野井・中村・吉川・松居,2013)を用いて、中高生の論理的思考能力測定の妥当性に関する検討を行った。
方法
参加生徒
中学1,2,3年生、高校1年生 計316名(男子157名,女子159名)
実施テスト
(1)英語版論理能力テスト Watson Glaser 批判的思考テストなどを参考として作成された多肢選択式のリーディング・テスト全40問。「分析」「評価」「推論」「表現」の4カテゴリの能力を測定することを想定している。たとえば「分析」能力に関する問題では「事実と意見の区別」「主張と根拠の抽出」などを問う。
(2)英語言語能力テスト 解答のために論理的思考を要求しない「語彙」「文法」に関する多肢選択式リーディング・テスト全30問。
(3)批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004) 「論理的思考への自覚」「探求心」「客観性」「証拠の重視」の4下位尺度18項目の短縮版を用いた。
(4)教師による批判的思考能力評定 批判的思考の一般的定義にもとづき、クラス担任教師に依頼して、「ものごとを考える時に、一方的ではなく多面的にとらえて、しっかりと熟考し、合理的で論理的な判断ができると考えられる生徒」を、各クラスから1~2割程度選出した。
参加生徒は(1)(2)に英語ライティング・テストを加えた英語実力テストを90分間の授業時間で実施し、終了後に(3)の質問紙に記入した。
結果
英語版論理能力テストの各下位カテゴリ得点を目的変量とし、学年,文法得点,語彙得点および批判的思考態度4尺度得点を説明変量とする重回帰分析を行った。その結果、学年・文法・語彙各得点で有意な回帰係数(β=.11~.40)が見られた他に、「論理的思考の自覚」と「推論」能力得点の間に有意な関連性(β=.10,p<.05)が示された。その他はいずれも有意ではなかった。
教師評定(選出は35名,全体の11%)を目的変量として、諸テスト・尺度を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。その結果、教師評定と、文法得点、「分析」「推論」、「論理的思考への自覚」といった変数間に有意な関連性が見られた。
考察
本研究で用いた英語版論理能力テストでは、文法や語彙といった英語能力を分離してジェネリックスキルとしての論理的思考能力を抽出することを想定している。この論理思考能力と自己報告された批判的思考態度には一部で有意な関連性はあったものの、全般に関連性は弱く、これは楠見・平山(2004)がコーネル批判的思考テストを用いた報告と対応するものであった。一方で、教師評定との関連は、英語版テストの妥当性をおおよそ支持するものであったが、一部の能力得点と負の関連性が見られるなどの問題もあった。これらの結果は、英語版テストに含まれる「論理的思考」概念を再構成する必要性があることを示している。英語教育と適切にリンクした論理的・批判的思考の教育を進めるために、問題カテゴリや個々の設問の見直しが課題となるだろう。
英語で批判的思考力を育成し測定するという考え方は、外国語処理に資源が割かれるための思考力の低下(Takano & Noda,1995)が生じる一方で、逆に意思決定バイアスが抑制されるといった効果(Keysar, Hayakawa & An,2012)も予想できる点で心理学的に興味深い領域であり、今後の研究発展が期待される。