[PG074] 批判的思考に対する志向性・態度と自尊心の関連
キーワード:批判的思考, 態度, 自尊心
問題と目的
批判的思考とは,物事を客観的にとらえ,多角的に検討し,適切な基準で判断を下す論理的思考であり,良き市民として我々が身につけるべきジェネリック・スキルのひとつにあげられている。その思考プロセスには,個人の批判的思考能力といった認知的側面とともに,批判的思考に対する個人の志向性や態度といった情意的側面も関わっていると考えられている。これまで批判的思考に対する志向性は,個人の認知欲求(廣岡ほか,2000)や社会的スキル(小川ほか,1999),内発的動機づけ(廣岡ほか,2005)などと正の相関があることが認められている。また批判的思考には,個人の内部で完結する側面と,他者との関わりによって影響を受ける側面があるとみられており(野村・丸野,2012),自己と他者との関係が影響する自尊心との関連も予想される。本研究では,批判的思考に対する志向性・態度と,個人の自尊心の高低と自尊心の日々の変動との関連について検討することを目的とした。
方法
回答者 女子大学生90名(98名の回答者の中から回答に欠損のあった8名を省いた)。
質問紙 ①クリティカルシンキング志向性尺度(Nonsocial版15項目・Social版18項目)(廣岡ほか,2001)。他者の存在を想定する必要のある批判的思考の志向性(Social版)(例:人がなぜそういう行動をとったのかを考えることがある)と,他者の存在を必ずしも必要としない批判的思考の志向性(Nonsocial版)(例:できるだけ多くの事実や証拠を重視する)に分けて5件法で回答を求めた。②批判的思考態度尺度33項目(例:考えをまとめることが得意だ)(平山・楠見,2004)に5件法で回答を求めた③日本語版自尊心尺度10項目(山本ほか,1982)に5件法で回答を求めた。
手続き ①と②の批判的思考に対する志向性と態度を測る尺度については,授業時間中に回答を求めた。③の自尊心尺度については7回分用意し,1回目の回答は①②に対する回答を求めたのとは別の授業時間に求め,残りの6回は翌日から1日1回ずつ各自で回答するように求め,1回目の実
施から1週間後の授業時間に回収した。
結果と考察
批判的思考に対する志向性Nonsocial得点,Social得点,批判的態度得点と自尊心得点,自尊心変動得点(自尊心得点の7日間の得点の標準偏差)間の相関係数をTable 1に示した。予想された結果であるが,①と②の批判的思考に対する志向性と態度得点間の相関は高かった。また,それぞれの批判的思考に対する志向性と態度と自尊心の高低,安定性の関係については,批判的思考に対する志向性(Social版)と自尊心の高低(p<.10),批判的思考態度と自尊心の高低(p<.05),自尊心の変動(p<.10)に正の相関が認められ,批判的思考態度得点が高いほど,自尊心が高いという結果が得られた。また,批判的思考に対する志向性の中でも,Nonsocialな面での志向性は,自尊心の高低,変動と無関連であることが示された。さらに,自尊心のそれぞれの指標について,批判的思考に対する志向性(Nonsocial・Social)と態度それぞれの高群・低群に関する1要因分散分析を行ったところ,自尊心変動においてのみ批判的思考態度高群・低群の主効果が有意であり,高群の方が低群より自尊心の変動が大きいということが明らかになった。自尊心と関係するのは,特に批判的思考に対する態度であり,自分が批判的思考に対して積極的態度をとっていると認識している者ほど自尊心が高いものの,現実にはその態度に合致した結果が常に得られるわけではないことから,自尊心の揺れが大きくなるものと推測される。
クリティカルシンキング志向性尺度,批判的思考態度尺度については,それぞれ複数の因子が抽出されている。それぞれの因子と自尊心の高低,変動の関係についてはこの報告書では省いた。
批判的思考とは,物事を客観的にとらえ,多角的に検討し,適切な基準で判断を下す論理的思考であり,良き市民として我々が身につけるべきジェネリック・スキルのひとつにあげられている。その思考プロセスには,個人の批判的思考能力といった認知的側面とともに,批判的思考に対する個人の志向性や態度といった情意的側面も関わっていると考えられている。これまで批判的思考に対する志向性は,個人の認知欲求(廣岡ほか,2000)や社会的スキル(小川ほか,1999),内発的動機づけ(廣岡ほか,2005)などと正の相関があることが認められている。また批判的思考には,個人の内部で完結する側面と,他者との関わりによって影響を受ける側面があるとみられており(野村・丸野,2012),自己と他者との関係が影響する自尊心との関連も予想される。本研究では,批判的思考に対する志向性・態度と,個人の自尊心の高低と自尊心の日々の変動との関連について検討することを目的とした。
方法
回答者 女子大学生90名(98名の回答者の中から回答に欠損のあった8名を省いた)。
質問紙 ①クリティカルシンキング志向性尺度(Nonsocial版15項目・Social版18項目)(廣岡ほか,2001)。他者の存在を想定する必要のある批判的思考の志向性(Social版)(例:人がなぜそういう行動をとったのかを考えることがある)と,他者の存在を必ずしも必要としない批判的思考の志向性(Nonsocial版)(例:できるだけ多くの事実や証拠を重視する)に分けて5件法で回答を求めた。②批判的思考態度尺度33項目(例:考えをまとめることが得意だ)(平山・楠見,2004)に5件法で回答を求めた③日本語版自尊心尺度10項目(山本ほか,1982)に5件法で回答を求めた。
手続き ①と②の批判的思考に対する志向性と態度を測る尺度については,授業時間中に回答を求めた。③の自尊心尺度については7回分用意し,1回目の回答は①②に対する回答を求めたのとは別の授業時間に求め,残りの6回は翌日から1日1回ずつ各自で回答するように求め,1回目の実
施から1週間後の授業時間に回収した。
結果と考察
批判的思考に対する志向性Nonsocial得点,Social得点,批判的態度得点と自尊心得点,自尊心変動得点(自尊心得点の7日間の得点の標準偏差)間の相関係数をTable 1に示した。予想された結果であるが,①と②の批判的思考に対する志向性と態度得点間の相関は高かった。また,それぞれの批判的思考に対する志向性と態度と自尊心の高低,安定性の関係については,批判的思考に対する志向性(Social版)と自尊心の高低(p<.10),批判的思考態度と自尊心の高低(p<.05),自尊心の変動(p<.10)に正の相関が認められ,批判的思考態度得点が高いほど,自尊心が高いという結果が得られた。また,批判的思考に対する志向性の中でも,Nonsocialな面での志向性は,自尊心の高低,変動と無関連であることが示された。さらに,自尊心のそれぞれの指標について,批判的思考に対する志向性(Nonsocial・Social)と態度それぞれの高群・低群に関する1要因分散分析を行ったところ,自尊心変動においてのみ批判的思考態度高群・低群の主効果が有意であり,高群の方が低群より自尊心の変動が大きいということが明らかになった。自尊心と関係するのは,特に批判的思考に対する態度であり,自分が批判的思考に対して積極的態度をとっていると認識している者ほど自尊心が高いものの,現実にはその態度に合致した結果が常に得られるわけではないことから,自尊心の揺れが大きくなるものと推測される。
クリティカルシンキング志向性尺度,批判的思考態度尺度については,それぞれ複数の因子が抽出されている。それぞれの因子と自尊心の高低,変動の関係についてはこの報告書では省いた。