日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(501)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PG083] 保育実習生の熟達化過程測定の予備的検討

実習経験の有無による保育環境知識の比較

大神優子 (和洋女子大学)

キーワード:保育実習生, 実習経験, 語彙流ちょう性課題

【問題】
幼稚園教諭や保育士を目指す学生は、養成課程の4年間で座学に加えて複数回の実習を行い、保育者としての知識・技能を体系的に熟達化させていく。
本研究では、保育者としての学習段階をはかる簡便な指標を作成するため、語彙流ちょう性課題の手法を用いて保育環境(保育室・園庭)について尋ねた。複数回の実習を経た学生の知識構造が、初心者とどのように異なるかを明らかにし、指標作成の基礎資料を得ることを目的とした。
【方法】
対象:実習経験あり群として4年制女子大学の保育者養成課程3年生43人、実習経験なし(初心者)群として同大学心理学専攻課程3年生37人の計80人。実習経験あり群の学生は、全員、幼稚園・保育所・施設での各2週間の実習(見学・参加実習)及び保育所(または施設)での2週間の実習(責任実習)の計4実習を経験済みであった。
手続き及び課題:実験者の教示に従い各自が回答用紙に記入する形式で、集団で実施した。練習課題の後、「~をできるだけたくさんあげてください」との教示で、以下の4種類の語彙流ちょう性課題を連続で実施した(各1分間):①動物、②かで始まるもの、③幼稚園・保育所の保育室内にあるもの、④同園庭にあるもの。③④の保育環境課題の教示では、乳児クラス・幼児クラスを問わないこと、小さいものから大きいものまで何でもよいことを追加した。①②は実習経験の差がないと考えられる意味カテゴリ・語頭音の統制課題として、③④は実習経験が影響すると考えられ、保育者としての熟達過程をみるための課題として設定した。4課題終了後、自由記述で③④の保育環境(室内・室外)についての回答方略及び全体の感想を尋ねた。
【結果及び考察】
4課題全4157回答中、対象が特定できないエラー反応(全体の0.6%)及び繰り返し(同0.2%)を除き、4125語を分析対象とした。
生成語数について、実習経験の有無×4課題の2要因の混合分散分析を行ったところ、実習経験の主効果、課題の主効果、実習経験×課題の交互作用が有意であった。実習経験別の比較では、実習経験あり群では「動物」>「保育室」>「か」及び「園庭」の順で生成語数が多く、実習経験なし群では「動物」>「か」及び「保育室」>「園庭」の順であった(すべてp<.05)。課題別の比較では、「か」でのみ実習経験の差が見られず、「動物」・「保育室」・「園庭」では実習経験あり群の方が生成語数が多かった(動物はp=.10、保育室・園庭はp<.01)(下図)。
回答方略では、いずれの群でも、実際の園所(自分が通っていた園や実習園)を視覚的にイメージしたという回答が多くみられた。
生成語の内訳をみると、例えば保育室課題では、実習経験なし群では「ままごとセット」「おもちゃ」等をあげているところを、実習経験あり群では(ままごとに使う)「ござ」等より具体的なアイテムへの言及がみられた。また、「ほうき」「おむつ入れ」「雑巾」等の生活用品への言及が多くみられた。回答方略には明示的にあらわれなかったものの、実習経験あり群では、園所の視覚的なイメージだけではなく、後片付け等を含めた生活の流れや実際の幼児の様子を想定していた可能性がある。
本研究の結果、語彙流ちょう性課題における語数のみでも、実習経験の有無によって差があることが示された。今後、同様の課題を実習段階による熟達過程を測定する指標として使用するためには、生成語数だけではなく、単語の生成順序、玩具や生活用品等のカテゴリの切り替え等、より詳細に検討していく必要があると考える。
謝辞.本研究の一部は、科研費(基盤研究C)(課題番号26380901)の助成を受けた。