[PG092] 母親の気質と子育て
Keywords:気質, 母親, 子育て
【目的】子どもの気質的発達に影響を与える諸要因のひとつは,母親の育児行動や態度であり,我々も今までに行った調査結果から,母親の関わりや子どもに食べさせる食事等が子どもの気質に影響することを見い出している(草薙他, 2013など)。このような母親の育児行動の形成要因として,母親の社会経済的背景や子どもの気質の影響等が検討されてきている。しかし,母親自身の気質的特徴の影響については扱われてきていないため,本研究において検討を行う。
【方法】研究協力者:日本国内合計21ヶ所の幼稚園と保育所に通う3歳から6歳児の母親872名を対象とした調査研究の協力者のうち,追加の調査への協力を承諾した母親118名である。
質問紙調査項目:1.母親の気質:自己記入式の気質質問紙Adult Temperament Questionnaire short form (ATQ短縮版)を使用し,否定的感情(NE),エフォートフル・コントロール(EC),外向性/高潮性(SU),定位敏感性(OS)の4つの気質因子尺度得点を算出した。2.育児行動:家庭環境は育児環境指標(ICCE:Anme, 2007)を使用し,「人的かかわり」「制限や罰の回避」「社会的かかわり」「社会的サポート」の各項目の平均値を算出した。育児態度についてはShwalbら(2010)の項目の回答の因子分析に基づき,「自信のない子育て」,「きちんとしたしつけ」の2因子得点を算出した。子どもの食事は現在の子どもの食品摂取状況に対する回答の因子分析に基づき,「肉・乳製品等」「野菜類」「魚介類」「簡易食品・食器使用」の項目平均値を算出した。さらに,ソーシャル・キャピタルに関して,「他者への信頼」「近隣つきあい」「社会参加」に関わる各項目の平均値を算出した。
【結果】1.母親の気質タイプによるグループ分け
ATQの4気質因子尺度得点により,Ward法によるクラスタ分析を行い,3つのクラスタを得た。得られた3つのクラスタを独立変数,4気質因子尺度得点を従属変数とした分散分析を行った結果,4気質因子尺度とも有意な群間差がみられ(NE;F(2,117)=51.3, EC;F(2,117)=30.7, SU; F(2,117)=43.3, OS;F(2,117)=20.0, 全てp<.001),その高低により,3つのクラスタを,NEの高い「否定タイプ」,ECの高い「エフォートタイプ」,SUとOSがともに高い「反応タイプ」とした。
2. 母親の気質タイプによる育児行動の違い
母親の気質タイプにより育児行動に差がみられるかどうかについて,育児行動の諸変数を従属変数として多変量分散分析を行ったところ,タイプの効果が有意であった(F=(26,202), p=.01, λ=.66, η2=.19)。各々の変数のうち,気質タイプの効果が有意であったものは,「自信のない子育て」と家庭環境の「社会的かかわり」,ソーシャルキャピタルの「近隣つきあい」,「魚介類摂取」であり,特に否定タイプはエフォートタイプよりも望ましい関わりが少ないという結果が得られた(表1)。
【考察】母親の育児行動は,気質的特徴のタイプにより異なることが示され,特に否定的感情の強いタイプの母親は,育児に自信が無く,子どもの社会的かかわりの機会が少なく,自分自身は人とのつきあいを避けるといったあまり望ましくない傾向がみられた。今後は,母親の気質の直接的影響も含め,子どもの気質発達に影響を与える諸要因について,さらに検討を進めていきたい。
本研究は科研費基盤研究B(23330208)の助成を受けた。
【方法】研究協力者:日本国内合計21ヶ所の幼稚園と保育所に通う3歳から6歳児の母親872名を対象とした調査研究の協力者のうち,追加の調査への協力を承諾した母親118名である。
質問紙調査項目:1.母親の気質:自己記入式の気質質問紙Adult Temperament Questionnaire short form (ATQ短縮版)を使用し,否定的感情(NE),エフォートフル・コントロール(EC),外向性/高潮性(SU),定位敏感性(OS)の4つの気質因子尺度得点を算出した。2.育児行動:家庭環境は育児環境指標(ICCE:Anme, 2007)を使用し,「人的かかわり」「制限や罰の回避」「社会的かかわり」「社会的サポート」の各項目の平均値を算出した。育児態度についてはShwalbら(2010)の項目の回答の因子分析に基づき,「自信のない子育て」,「きちんとしたしつけ」の2因子得点を算出した。子どもの食事は現在の子どもの食品摂取状況に対する回答の因子分析に基づき,「肉・乳製品等」「野菜類」「魚介類」「簡易食品・食器使用」の項目平均値を算出した。さらに,ソーシャル・キャピタルに関して,「他者への信頼」「近隣つきあい」「社会参加」に関わる各項目の平均値を算出した。
【結果】1.母親の気質タイプによるグループ分け
ATQの4気質因子尺度得点により,Ward法によるクラスタ分析を行い,3つのクラスタを得た。得られた3つのクラスタを独立変数,4気質因子尺度得点を従属変数とした分散分析を行った結果,4気質因子尺度とも有意な群間差がみられ(NE;F(2,117)=51.3, EC;F(2,117)=30.7, SU; F(2,117)=43.3, OS;F(2,117)=20.0, 全てp<.001),その高低により,3つのクラスタを,NEの高い「否定タイプ」,ECの高い「エフォートタイプ」,SUとOSがともに高い「反応タイプ」とした。
2. 母親の気質タイプによる育児行動の違い
母親の気質タイプにより育児行動に差がみられるかどうかについて,育児行動の諸変数を従属変数として多変量分散分析を行ったところ,タイプの効果が有意であった(F=(26,202), p=.01, λ=.66, η2=.19)。各々の変数のうち,気質タイプの効果が有意であったものは,「自信のない子育て」と家庭環境の「社会的かかわり」,ソーシャルキャピタルの「近隣つきあい」,「魚介類摂取」であり,特に否定タイプはエフォートタイプよりも望ましい関わりが少ないという結果が得られた(表1)。
【考察】母親の育児行動は,気質的特徴のタイプにより異なることが示され,特に否定的感情の強いタイプの母親は,育児に自信が無く,子どもの社会的かかわりの機会が少なく,自分自身は人とのつきあいを避けるといったあまり望ましくない傾向がみられた。今後は,母親の気質の直接的影響も含め,子どもの気質発達に影響を与える諸要因について,さらに検討を進めていきたい。
本研究は科研費基盤研究B(23330208)の助成を受けた。