The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PH025] 対話的な支援セッション後に生じた新任教員の授業実践上の変化

田中あかり1, 當眞千賀子2 (1.九州大学大学院, 2.九州大学)

Keywords:新任教員, 支援, 実践の変化

本発表は,実践形成型の支援によって新任教員の1年目の学びを充実させるしくみ作りを試みる研究の一部である。この研究は田中が新任教員として着任する機会を活かして始まったもので,複数の記録の分析を通して新任教員が直面する困難や問題を具体的に把握・分析し,それらの考察から支援の在り方を検討することを目的としている。
田中は2011年4月~2012年3月までA小学校において理科の講師として子どもたちと関わり,自らの授業を録音・録画したほか,日々の実践を極力具体的にフィールドノートに記述した。當眞は必要に応じて田中の実践報告を聞いたり,田中が抱えた困難を自力で解決できない状況に陥った場合にのみ,アドバイスを含んだ支援セッションを行ったりすることで新任教員の学びを支援した。
これまでの研究では,就任後1ヶ月間を対象に音声・ビデオ記録を用いて,新任教員が感じた困難や授業実践上の問題を抽出した。分析を通して,新任教員が体験的に感じた困難と実践上生じた問題にギャップがあることや,問題が生じやすい授業場面や関わり方の特徴などが明らかとなった。
支援セッションの内容については発表を次稿に譲り,今回の発表では,就任1ヶ月目の終わりに行われた対話的な支援セッション後の授業実践について事例を用いた報告を行う。
まず,授業全体の進行の仕方については4月にはほとんどの活動が意図や目的を明確に提示できておらず,操作や作業の指示によって進められていた。例えば,4月25日の4学年を対象とした授業「1日の気温と変化」では,気温観測の結果をグラフにまとめる時間に田中は子どもたちに「1時間ごとに記録をとる理由」や「表に記入した気温観測の結果をグラフにまとめる目的」を告げずにグラフの書き方や読み方を指示し,グラフの作成作業に移っていた。しかし,支援セッションが行われた翌日の「空気と水」の授業(上記の事例と同クラス)では,子どもたちの発表から,めあてと実験内容を取り上げたり,実験中の子どもの気づきから全体に向けて補足を行うことが増えたりと,進行の仕方に工夫が見られた。
また,子どもからの質問の対応の仕方についても変化が見られた。支援セッション前の授業では,数人の子から同じ内容の質問を何度受けても,その都度答えて時間を費やしていた。そして,質問に対し教師が即座に答えており,子どもが自分で考えるべき場面でも,結果的にその機会を提供できていなかった。一方,支援セッション後の授業では,子ども個人の質問を全体で共有する場面や質問に対して子どもに考えさせるような発問を返すといったこれまでにはなかった対応が見られた。
さらに,子どもの活動への取り組み意欲にも変化が生じた。就任直後から行っていた授業終了時のポートフォリオ記入での出来事である。毎時間,田中は子どもたちに授業全体のまとめとは別に「授業で学んだこと」を記入させていた。この活動に対して,子どもが面倒くささを感じていることは把握していたが,学習を再度振り返る機会になればと続けていた。4月の実践記録には,授業終了間際に教師がポートフォリオを書くように何度も指示する場面や教師からの指示を受け子どもたちが浮かない表情でポートフォリオを書く姿が記録されていた。しかし,支援セッションがあった翌日(5/12 4学年)には,子どもたちが自ら進んでポートフォリオ記入に取り組む姿が見られた。以下は授業終了時の田中の発話である。
T: Ⅰ組さん今日はびっくりしました。ポートフォリオを自分たちで書いて、そして書き終わったら、これを自分たちで集めてファイルも集めて、びっくりしました。特に研究グループ頑張ったよね、他の班の人たちもすごく頑張った人がたくさんいました。ありがとう、とっても嬉しかったです。自分たちで学習しようっていう意欲が見えたからすごくうれしかったです。ね。
支援セッション後に生じた授業実践上の変化には,就任1ヶ月目の授業で抽出した授業実践上の問題が解決しているものが多く含まれていた。また,子ども側の変化が生じた前後の記録を見ると,田中が子どもの活動の様子をこまめに確認しに行ったり,子どもの授業に対して意欲的なつぶやきを拾い,全体の場で褒めたり,子どもと対話的に活動を進めたりする様子が見られた。
今回の分析により,教師が対話的な支援を体験することで,その後の手立てにどのような工夫が生まれ,授業がどう豊かになるのかについて,実際の事例からその過程を追うことができた。次の段階では,支援セッションの内容とその後の授業実践の変化との関連性についての分析を行い,教師が成長する機会となる支援のあり方についての考察を行う。