日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PH028] 野外の体験学習での中学生の学びを支援する「大学生ファシリテーター」の意識の変容

和木美玲1, 佐々木剛1, 大島弥生1 (東京海洋大学)

キーワード:体験学習, 大学生, ファシリテーション

問題(目的)
「ファシリテーター」とは,個人や集団の持つ能力を十分に発揮できるよう支援する機能を果たせる人材を指す(津村,2003)。多様な意見を引き出し,そして,収束させていく「ファシリテーター」の技術が,学習場面,特に問題解決などの場面で有効であるとされている(白井ら,2012)。環境教育では,環境に関する知識の教授に加え,体験・対話・協働を重視し,自ら体験し,感じ,理解し,考え,行動していく学習が目指されている(日本学術会議環境学委員会,2008)ものの,その中で「ファシリテーター」の機能については述べられていない。
近年,野外の体験学習において学びを支援する大学生を「ファシリテーター」として育成する試みがある。佐々木・神崎(2013)は,中学校での総合的な学習の時間(運河学習)において,生徒の意見を引き出し,考えを確認し,情報を伝えるという大学生の役割を「大学生ファシリテーター」と呼び,「ファシリテーション」を通じた学びの支援が生徒の科学的思考を促すとしている。しかし,「大学生ファシリテーター」自身が,「ファシリテーション」をどのようにとらえているのかは明らかになっていない。本研究では,「大学生ファシリテーター」による学びの支援について,インタビューを通して彼ら自身の意識の変容を探る。

方法
調査対象は,2013年6月に実施された運河の環境を題材にした野外の体験学習に参加した「大学生ファシリテーター」7名であり,質問紙調査(授業実践前・授業実践後)と半構造化インタビュー(授業実践後,1人あたり40分~90分程度)を行った。本研究では,授業の感想,印象に残った生徒や出来事,授業前の生徒に対する予想と実際の様子との比較に関する応答部分を抽出し,大谷(2011)の「SCAT分析(Steps for Coding and Theorization)」を用いて分析した。

結果と考察
Table1は,運河付近での水質調査活動の中で,大学生Cが注目した生徒の様子に関するインタビューをSCATで分析したものである。Cは,[他者の記述を模倣]していた生徒に対して[探究対象についての五感を用いた学習の重視]と[個人の体験に基づく記述への期待]から問いかけを行っていた。一方で,Cは,運河の色やにおいなどの[五感の刺激]によって,生徒に[専門知識への興味の喚起]が生じていることに気づき,このような生徒の様子に[驚き]を示している様子が見られた。分析結果より,個々の「大学生ファシリテーター」には,生徒の行動に対する固有の価値づけや解釈,それにもとづく問いかけや働きかけなどの行動の選択があり,それらが学びの支援に影響している可能性があることがわかった。結果を総合的に見ると,「大学生ファシリテーター」において,学びの支援の体験を通した「ファシリテーション」の意識の変容と深化の過程が観察された。そしてその過程では,すべての「大学生ファシリテーター」が同じ道筋をたどっていたわけではなく,「ファシリテーション」に対する授業実践前段階での捉え方と一定の対応が見られた。本研究の結果から,学びの支援において,個々の「大学生ファシリテーター」による「ファシリテーション」の意識の多様性と変容に着目することの重要性が示唆された。