[PH036] 臨床実習を経験した医療系専門学校生の動機づけの変化
他者志向的動機と「人に関わりたい」気持ちに着目して
Keywords:他者志向的動機, 学習動機づけ, 実習
目的
医療者を目指す学生は,他者のために頑張るという他者志向的動機が高かった(西片,2013)。医療系専門学校では病院で実務を経験する実習が必修である。学生は,患者のアセスメントを行うが治療までは行わない評価実習を経験し,その後,患者のアセスメントと治療を行う臨床実習を経験する。この経験を経ると学生が“成長する”と教員は感じている。そこで,実習での対人援助経験が「人に関わりたい」気持ちと他者志向的動機に与える影響を調べることを目的とする。
方法
1.他者志向的動機
対象者 専門学校生。臨床実習群23名(男性10名,女性13名)平均年齢27.7歳(SD:4.64),評価実習群35名(男性13名,女性22名)平均年齢28.1歳(SD:5.89)。
手続き 2群とも評価実習前に調査した後,臨床実習群は臨床実習後,評価実習群は評価実習後に調査した。
尺度 伊藤(2010)による自己・他者志向的動機尺度(34項目,4件法)。
2.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因の分析と質問紙の作成
対象者 臨床実習を経験した学生28名(男性11名,女性17名),平均年齢29.1歳(SD:6.59)。
手続き 「人に関わりたい気持ちが実習により変化した」と返答した学生にその要因を自由記述してもらい,筆者がKJ法で分類して質問項目を作成した。
3.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因
対象者 臨床実習群26名(男性10名,女性16名)平均年齢28.7歳(SD:5.96),評価実習群30名(男性12名,女性18名)平均年齢28.0歳(SD:6.12)。
手続き 2群ともそれぞれの実習後に調査した。
尺度 2で作成した質問紙。29項目,4件法。
結果
1.他者志向的動機
因子分析(プロマックス回転) 多因子に.30以上の負荷を示した9項目と,全因子に.30以下の負荷しか示さなかった5項目を除いたところ,先行研究同様に「自己・他者志向的動機の統合」「自己志向的動機の優先」「他者志向的動機の優先」「他者志向的動機の否定的側面の認知」「他者志向的動機の自己志向的動機への還元」の5因子が抽出された。
実習前後の差(t検定) 臨床実習群では臨床実習を経験した後に「自己志向」が有意に低下した(t(22)=3.30,p<.01)が,評価実習群では有意差がなかった(Table 1)。
実習前2群の検定 経験する実習の違い×他者志向的動機の2要因分散分析では,他者志向的動機の主効果が有意であった(F(4,252)=29.74,p<.01)が,経験する実習の違いの主効果は有意でなかった(F(1,63)=0.04,p>.05)。経験する実習の違いの単純主効果は「還元」のみ有意であった(F(1,292)=4.17,p<.05)。
2.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因
因子分析(プロマックス回転) 「患者への思いと交流(α=.89)」「患者の役に立った経験と患者の喜び(α=.88)」「患者の家族との関わり(α=.86)」「自分の周囲からの支え(α=.77)」「実習指導者からの影響(α=.83)」「ピアサポート」の6因子が抽出された。
2群の差 等分散性を確認しt検定を行った。「患者の役に立った経験」(t(54)=1.84,p<.05)と「患者の家族」(t(54)=2.33,p<.05)で臨床実習群が有意に高かった。
3.他者志向的動機と「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因の偏相関
臨床実習群では「統合」と「患者の役に立った経験と患者の喜び」(.45*),評価実習群では「統合」と「患者への思いと交流」(.48**)に中程度の偏相関がみられた。
考察
臨床実習群では,自分のために頑張るという動機(自己志向)が有意に低下した一方,他者のために頑張るのは自分のためでもあるという動機(統合)は高いままであった。臨床実習では学生が患者を治療し,患者の反応に直面する。この経験が,他者志向的動機を維持しつつも自己志向的動機を弱め,「人に関わりたい」気持ちにも影響を与えたと考えられる。臨床実習群では,「患者の役に立った経験と患者の喜び」が評価実習群よりも有意に高く,「統合」との間に偏相関がみられたことも,この経験が関連していると推測される。
医療者を目指す学生は,他者のために頑張るという他者志向的動機が高かった(西片,2013)。医療系専門学校では病院で実務を経験する実習が必修である。学生は,患者のアセスメントを行うが治療までは行わない評価実習を経験し,その後,患者のアセスメントと治療を行う臨床実習を経験する。この経験を経ると学生が“成長する”と教員は感じている。そこで,実習での対人援助経験が「人に関わりたい」気持ちと他者志向的動機に与える影響を調べることを目的とする。
方法
1.他者志向的動機
対象者 専門学校生。臨床実習群23名(男性10名,女性13名)平均年齢27.7歳(SD:4.64),評価実習群35名(男性13名,女性22名)平均年齢28.1歳(SD:5.89)。
手続き 2群とも評価実習前に調査した後,臨床実習群は臨床実習後,評価実習群は評価実習後に調査した。
尺度 伊藤(2010)による自己・他者志向的動機尺度(34項目,4件法)。
2.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因の分析と質問紙の作成
対象者 臨床実習を経験した学生28名(男性11名,女性17名),平均年齢29.1歳(SD:6.59)。
手続き 「人に関わりたい気持ちが実習により変化した」と返答した学生にその要因を自由記述してもらい,筆者がKJ法で分類して質問項目を作成した。
3.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因
対象者 臨床実習群26名(男性10名,女性16名)平均年齢28.7歳(SD:5.96),評価実習群30名(男性12名,女性18名)平均年齢28.0歳(SD:6.12)。
手続き 2群ともそれぞれの実習後に調査した。
尺度 2で作成した質問紙。29項目,4件法。
結果
1.他者志向的動機
因子分析(プロマックス回転) 多因子に.30以上の負荷を示した9項目と,全因子に.30以下の負荷しか示さなかった5項目を除いたところ,先行研究同様に「自己・他者志向的動機の統合」「自己志向的動機の優先」「他者志向的動機の優先」「他者志向的動機の否定的側面の認知」「他者志向的動機の自己志向的動機への還元」の5因子が抽出された。
実習前後の差(t検定) 臨床実習群では臨床実習を経験した後に「自己志向」が有意に低下した(t(22)=3.30,p<.01)が,評価実習群では有意差がなかった(Table 1)。
実習前2群の検定 経験する実習の違い×他者志向的動機の2要因分散分析では,他者志向的動機の主効果が有意であった(F(4,252)=29.74,p<.01)が,経験する実習の違いの主効果は有意でなかった(F(1,63)=0.04,p>.05)。経験する実習の違いの単純主効果は「還元」のみ有意であった(F(1,292)=4.17,p<.05)。
2.「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因
因子分析(プロマックス回転) 「患者への思いと交流(α=.89)」「患者の役に立った経験と患者の喜び(α=.88)」「患者の家族との関わり(α=.86)」「自分の周囲からの支え(α=.77)」「実習指導者からの影響(α=.83)」「ピアサポート」の6因子が抽出された。
2群の差 等分散性を確認しt検定を行った。「患者の役に立った経験」(t(54)=1.84,p<.05)と「患者の家族」(t(54)=2.33,p<.05)で臨床実習群が有意に高かった。
3.他者志向的動機と「人に関わりたい」気持ちに影響を与えた実習要因の偏相関
臨床実習群では「統合」と「患者の役に立った経験と患者の喜び」(.45*),評価実習群では「統合」と「患者への思いと交流」(.48**)に中程度の偏相関がみられた。
考察
臨床実習群では,自分のために頑張るという動機(自己志向)が有意に低下した一方,他者のために頑張るのは自分のためでもあるという動機(統合)は高いままであった。臨床実習では学生が患者を治療し,患者の反応に直面する。この経験が,他者志向的動機を維持しつつも自己志向的動機を弱め,「人に関わりたい」気持ちにも影響を与えたと考えられる。臨床実習群では,「患者の役に立った経験と患者の喜び」が評価実習群よりも有意に高く,「統合」との間に偏相関がみられたことも,この経験が関連していると推測される。