[PH060] キー・コンピテンシーとレジリエンスの関連について
熟慮性に注目して
キーワード:キー・コンピテンシー, レジリエンス, 熟慮性
目的
教育学,心理学の分野においてキー・コンピテンシーとレジリエンスは注目されているが,この2つの関連を検討する研究はほとんどない。キー・コンピテンシーは,OECDが提唱する能力観であり,3つのカテゴリーがある。それらは,①社会的に異質な集団で交流すること,②自律的に活動すること,③道具を相互作用的に活用することである。これらの心理的前提条件には「熟慮性」があるとされ,キー・コンピテンシーを獲得するには,自分の行動や思考を省みたり,物事を批判的に思慮深く捉えることが必要となる。一方,レジリエンスは,「ストレスフルな状況でも精神的健康を維持する,あるいは回復へと導く心理的特性」と定義され,さまざまな構成要素が考えられてきた。キー・コンピテンシーを獲得する過程で,レジリエンスの構成要素のうちの「熟慮性」と関連する要素がキー・コンピテンシーに影響を与えることが考えられる。故に,本研究では2つの概念の関連を検討する。
方法
対象:大学生131名(2年生:63名,3年生:19名,4年生:42名で約30%が就職活動を経験している。)
手続き:質問紙調査を2013年11月に実施した。集団形式で配布,回収した。
調査内容:①キー・コンピテンシーの自己評定尺度:ライチェン・サルガニク(2006)のキー・コンピテンシーの3つのカテゴリーに関する記述を参考に23項目作成した。4段階評定での回答を求めた。②レジリエンス尺度:井隼・中村(2008)の42項目で,5段階評定での回答を求めた。
結果と考察
キー・コンピテンシーの自己評定尺度の回答について,因子分析(プロマックス回転)を行った結果,第1因子は「道具を相互作用的に活用すること」(α=.726),第2は「自律的に活動すること」(α=.785),第3は「社会的に異質な集団との交流」(α=.763)の3因子が抽出された。これは,キー・コンピテンシーのカテゴリーと重なる因子である。レジリエンス尺度の回答について,因子分析(プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された。第1因子は「家族資源」(α=.942),第2は「楽観性」(α=.883),第3は「仲間・先輩資源」(α=.821),第4は「熟慮性」(α=.784),第5は「友達資源」(α=.784)と命名された。「熟慮性」因子には,「自分には足りない部分があることを認め,そこをおぎない高めていこうとする。」「一度失敗しても,その次はうまくいくようにしようと工夫する。」などの項目が含まれていた。これは,井隼・中村(2008)で「熟慮的行動」因子と,「有能感」因子に属していた。また,石毛・無藤(2005)での「自己志向性」因子の項目と類似している。このことから,レジリエンスの構成要素には確かに「熟慮性」が含まれていることがわかる。
キー・コンピテンシーの各3因子を従属変数,レジリエンスの各9因子を独立変数として重回帰分析を行った(強制投入法)。その結果,レジリエンスの「熟慮性因子」がキー・コンピテンシーの3つの因子に影響を及ぼしていることが分かった。
キー・コンピテンシーの「熟慮性」とレジリエンスの「熟慮性」は共通する部分がある。しかし,キー・コンピテンシーの「熟慮性」は個人に解決が求められるどのような問題にも対処することが目的である一方,レジリエンスの「熟慮性」は,困難な状況を改善する場合のみを目的としている。このような点で,キー・コンピテンシーの「熟慮性」はレジリエンスの「熟慮性」を包括するより広い概念であることがわかる。ここから図1の結果は,キー・コンピテンシーの「熟慮性」の一部が実際に3つのカテゴリーに影響を及ぼしていると解釈できる。今後はキー・コンピテンシーの「熟慮性」の他の要素を検討することや,それらの「熟慮性」の学習方法,「熟慮性」がキー・コンピテンシーの獲得を促すかどうかの検討が必要である。
教育学,心理学の分野においてキー・コンピテンシーとレジリエンスは注目されているが,この2つの関連を検討する研究はほとんどない。キー・コンピテンシーは,OECDが提唱する能力観であり,3つのカテゴリーがある。それらは,①社会的に異質な集団で交流すること,②自律的に活動すること,③道具を相互作用的に活用することである。これらの心理的前提条件には「熟慮性」があるとされ,キー・コンピテンシーを獲得するには,自分の行動や思考を省みたり,物事を批判的に思慮深く捉えることが必要となる。一方,レジリエンスは,「ストレスフルな状況でも精神的健康を維持する,あるいは回復へと導く心理的特性」と定義され,さまざまな構成要素が考えられてきた。キー・コンピテンシーを獲得する過程で,レジリエンスの構成要素のうちの「熟慮性」と関連する要素がキー・コンピテンシーに影響を与えることが考えられる。故に,本研究では2つの概念の関連を検討する。
方法
対象:大学生131名(2年生:63名,3年生:19名,4年生:42名で約30%が就職活動を経験している。)
手続き:質問紙調査を2013年11月に実施した。集団形式で配布,回収した。
調査内容:①キー・コンピテンシーの自己評定尺度:ライチェン・サルガニク(2006)のキー・コンピテンシーの3つのカテゴリーに関する記述を参考に23項目作成した。4段階評定での回答を求めた。②レジリエンス尺度:井隼・中村(2008)の42項目で,5段階評定での回答を求めた。
結果と考察
キー・コンピテンシーの自己評定尺度の回答について,因子分析(プロマックス回転)を行った結果,第1因子は「道具を相互作用的に活用すること」(α=.726),第2は「自律的に活動すること」(α=.785),第3は「社会的に異質な集団との交流」(α=.763)の3因子が抽出された。これは,キー・コンピテンシーのカテゴリーと重なる因子である。レジリエンス尺度の回答について,因子分析(プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された。第1因子は「家族資源」(α=.942),第2は「楽観性」(α=.883),第3は「仲間・先輩資源」(α=.821),第4は「熟慮性」(α=.784),第5は「友達資源」(α=.784)と命名された。「熟慮性」因子には,「自分には足りない部分があることを認め,そこをおぎない高めていこうとする。」「一度失敗しても,その次はうまくいくようにしようと工夫する。」などの項目が含まれていた。これは,井隼・中村(2008)で「熟慮的行動」因子と,「有能感」因子に属していた。また,石毛・無藤(2005)での「自己志向性」因子の項目と類似している。このことから,レジリエンスの構成要素には確かに「熟慮性」が含まれていることがわかる。
キー・コンピテンシーの各3因子を従属変数,レジリエンスの各9因子を独立変数として重回帰分析を行った(強制投入法)。その結果,レジリエンスの「熟慮性因子」がキー・コンピテンシーの3つの因子に影響を及ぼしていることが分かった。
キー・コンピテンシーの「熟慮性」とレジリエンスの「熟慮性」は共通する部分がある。しかし,キー・コンピテンシーの「熟慮性」は個人に解決が求められるどのような問題にも対処することが目的である一方,レジリエンスの「熟慮性」は,困難な状況を改善する場合のみを目的としている。このような点で,キー・コンピテンシーの「熟慮性」はレジリエンスの「熟慮性」を包括するより広い概念であることがわかる。ここから図1の結果は,キー・コンピテンシーの「熟慮性」の一部が実際に3つのカテゴリーに影響を及ぼしていると解釈できる。今後はキー・コンピテンシーの「熟慮性」の他の要素を検討することや,それらの「熟慮性」の学習方法,「熟慮性」がキー・コンピテンシーの獲得を促すかどうかの検討が必要である。