日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PH063] 幼児における触覚による異方向の長さ知覚の検討

奥行き方向の触知覚を中心に

大橋康宏 (山陽学園短期大学)

キーワード:幼児, 触知覚, 異方向の長さ知覚

目的
幼児の触知覚の世界は如何なるものであるのか、物理的には同じ長さの線分でも、触る方向を変えた時どのような長さとして知覚するのか。
本研究では幼児を対象に奥行き方向に置かれた線分の長さを、奥から手前方向に触る場合と手前から奥方向に触る場合とで、どのような長さとして知覚するのか、幼児の触知覚を探ることを目的とした。

方法
被験児
視覚異常のないA保育園の5歳児4名。
(男児2名、女児2名)。保育士1名が常に同席し、触覚実験の補助を行った。

刺激の線分
底面は一辺の長さが60mmの正三角形で高さが99.9mmの真鍮製の正三角柱を刺激材料とした。この正三角柱を横に倒して、側面の長方形を底にすると、正三角柱の高さの辺部が上部中央にくる。この横に倒した正三角柱を机の上で奥行方向にセットした。正三角柱は被験児には見えないようにカバーで覆っているが、実験中は被験児には眼を閉じさせて、この辺(線分)の長さを利き手の人差し指で端から端まで触らせ、辺の長さを知覚させる。

触覚用スケール
メジャーとしてFlexible Curve定規を直線に引き伸ばしたものを用いた。この定規は指先に優しく辺を触ったときとの違和感がない。メジャーも奥行き方向にセットし、被験児は利き手の人差し指の指先でメジャーのエッジに触れていき、知覚した辺の長さと同じ長さと感じたところで指をストップさせる。

測定方法
条件① 奥から手前方向の長さ知覚
奥行き方向に置かれた正三角柱の刺激を奥から手前方向にのみ立体の辺を順次、端から端まで指先で触り、知覚された辺の長さを判断させる。また、メジャーに触れる時も同様に、メジャーの奥から手前方向に向かって指先で触れていき、長さを判断させる。
条件② 手前から奥行き方向の長さ知覚
奥行き方向に置かれた正三角柱の辺の刺激を手前から奥方向にのみ立体の辺を順次、端から端まで指先で触り、知覚された辺の長さを判断させる。また、メジャーに触れる時も同様に、メジャーの手前から奥方向に向かって指先で触れていき、長さを判断させる。
測定は各条件で2回から4回繰り返して行った。測定した値が極めて安定しておれば、2回の測定で終了し、不安定な場合は4回まで測定を行ったが、どの被験児の測定値も安定した。

結果
被験児全員が条件①の「奥から手前方向の長さ」を条件②の「手前から奥方向の長さ」よりも長いものと知覚した。条件①の各被験児の平均は135.625mm、条件②の各被験児の平均は122.225mmであった。条件①と条件②で対応のあるt検定を行った結果、t(3)=6.209, p<0.01となり、有意差がみられた(Fig.1参照)。

考察
幼児においては、物理的には同じ長さの線分でも、触知覚する方向により長さが異なることがわかった。奥から手前方向に向かって触知覚する方が、手前から奥方向に向かって触知覚するよりも長くなった。
日常では、線を引く場合、奥から手前方向に引く方が、手前から奥方向に引くよりも自然であろうし、自然に慣れている分、長さの知覚はより正確になるように思われるが、結果は逆になった。この現象が幼児特有のものなのか、成人でも同様のことが生じるのか詳細な検討については、今後の課題としたい。