[PH073] 幼児期における行動抑制の発達的変化(4)
5歳の観察室実験結果と5・6歳の母・先生による行動評価との関連
Keywords:行動抑制, コホート
問題と目的
(1),(2)では,実験室場面で,子どもが目の前の誘惑に抗し,「待つ」という行動を取れるかどうか,その時に見られる行動がどのように発達的に変化していくのかを検討した。また,(3)では,日常生活における行動抑制を,母親,先生,友人を対象にした行動評価によって検討した。そこで,本研究では,(2)で明らかになった実験室場面の行動が,(3)の日常生活の行動とどのように関連しているか5歳児を中心に検討した。
方 法
研究協力者と期間 2005年から実施されたJCS(Japan Children’s Study)の協力者のうち,三重中央医療センターで同意を得て観察・調査を実施し,研究終了後のデータ使用許諾をいただいた139組の乳幼児及びその家族の5歳,6歳時のデータを本研究の分析対象とした。また,在籍保育所(園)または幼稚園の担任(以下“先生”とする)に協力を求めた。
手続き 対象児が当該年齢を迎える日から2ヶ月以内に観察日が設定された。観察予約日3週間前に自宅に質問票が郵送され,当日持参するよう求められた。先生に対する調査は,観察日に母親から調査に対する同意を得,その後,質問票を発送した。回答後郵送にて返送された。
観察室実験 観察日の課題の1つとして行動抑制課題が設定された。5歳では,お菓子(ラムネ)をお皿にのせ,食べても良いが,実験者が戻ってくるまで待っていてくれればもう1つあげる,という教示のもと,実験者が退出した。最大5分の実施であった。(2)の分析に従い,食べずに待っていた群を①抑制成功,食べたわけではないが,舐めたりにおったりした群を②遅延,食べた群を③抑制失敗,5分経つまでに観察室の外に出た群を④中断とした。
質問項目 日常生活での抑制行動得点として,自分にとって不快な状況が起こったときに,どのような表出をするかということに関する項目群を用いた。それぞれ1(全くない)から5(非常によくある)までの5件法で回答を求めた。(3)の因子分析と信頼性係数の分析を踏まえ,「抑制なし表出対母」,「抑制なし表出対先生」,「交渉対友人 先生評価」,「ルール無視対友人 先生評価」の4種類の得点を用いた。
結果と討論
観察室実験結果の4群を被験者間要因とし,日常生活での抑制行動の各得点の5歳・6歳を被験者内要因として,2要因分散分析を行った。その結果,「交渉対友人 先生評価」で交互作用がみられた(F(3,85)=2.83, p< .05)。単純主効果の検定の結果,抑制成功群(5歳<6歳, p< .05)と遅延群(5歳>6歳, p< .10)で年齢差があった(Figure1)。また,「ルール無視対友人 先生評価」では,年齢の主効果(F(1,84)=3.26, p< .10)がみられ,5歳>6歳の傾向が示された。
以上より,5歳の時点で,目の前の誘惑に抗して待つための方略として,対象物から注意を逸らせないような方略を使用している児(遅延群)は,5歳の時よりも,6歳で日常生活の中で他児と交渉して問題を解決するような方略を使用することが減っている。そして,友人に対してルールを無視するような対応は他群と変わらず低下していることから,問題が起こったときに,自分だけで解決している,もしくは解決しないままにしているという可能性があるだろう。
なお,(3)では,大人に対する態度に年齢の主効果がみられた。今回も得点そのものは5歳よりも6歳が低く,同様の傾向が確認された。しかし,観察室実験の条件統制により対象児数が減ったため有意にならなかったものと考えられた。
附記:本研究は,科学研究費補助金(課題番号21243039)の助成を受けた。
(1),(2)では,実験室場面で,子どもが目の前の誘惑に抗し,「待つ」という行動を取れるかどうか,その時に見られる行動がどのように発達的に変化していくのかを検討した。また,(3)では,日常生活における行動抑制を,母親,先生,友人を対象にした行動評価によって検討した。そこで,本研究では,(2)で明らかになった実験室場面の行動が,(3)の日常生活の行動とどのように関連しているか5歳児を中心に検討した。
方 法
研究協力者と期間 2005年から実施されたJCS(Japan Children’s Study)の協力者のうち,三重中央医療センターで同意を得て観察・調査を実施し,研究終了後のデータ使用許諾をいただいた139組の乳幼児及びその家族の5歳,6歳時のデータを本研究の分析対象とした。また,在籍保育所(園)または幼稚園の担任(以下“先生”とする)に協力を求めた。
手続き 対象児が当該年齢を迎える日から2ヶ月以内に観察日が設定された。観察予約日3週間前に自宅に質問票が郵送され,当日持参するよう求められた。先生に対する調査は,観察日に母親から調査に対する同意を得,その後,質問票を発送した。回答後郵送にて返送された。
観察室実験 観察日の課題の1つとして行動抑制課題が設定された。5歳では,お菓子(ラムネ)をお皿にのせ,食べても良いが,実験者が戻ってくるまで待っていてくれればもう1つあげる,という教示のもと,実験者が退出した。最大5分の実施であった。(2)の分析に従い,食べずに待っていた群を①抑制成功,食べたわけではないが,舐めたりにおったりした群を②遅延,食べた群を③抑制失敗,5分経つまでに観察室の外に出た群を④中断とした。
質問項目 日常生活での抑制行動得点として,自分にとって不快な状況が起こったときに,どのような表出をするかということに関する項目群を用いた。それぞれ1(全くない)から5(非常によくある)までの5件法で回答を求めた。(3)の因子分析と信頼性係数の分析を踏まえ,「抑制なし表出対母」,「抑制なし表出対先生」,「交渉対友人 先生評価」,「ルール無視対友人 先生評価」の4種類の得点を用いた。
結果と討論
観察室実験結果の4群を被験者間要因とし,日常生活での抑制行動の各得点の5歳・6歳を被験者内要因として,2要因分散分析を行った。その結果,「交渉対友人 先生評価」で交互作用がみられた(F(3,85)=2.83, p< .05)。単純主効果の検定の結果,抑制成功群(5歳<6歳, p< .05)と遅延群(5歳>6歳, p< .10)で年齢差があった(Figure1)。また,「ルール無視対友人 先生評価」では,年齢の主効果(F(1,84)=3.26, p< .10)がみられ,5歳>6歳の傾向が示された。
以上より,5歳の時点で,目の前の誘惑に抗して待つための方略として,対象物から注意を逸らせないような方略を使用している児(遅延群)は,5歳の時よりも,6歳で日常生活の中で他児と交渉して問題を解決するような方略を使用することが減っている。そして,友人に対してルールを無視するような対応は他群と変わらず低下していることから,問題が起こったときに,自分だけで解決している,もしくは解決しないままにしているという可能性があるだろう。
なお,(3)では,大人に対する態度に年齢の主効果がみられた。今回も得点そのものは5歳よりも6歳が低く,同様の傾向が確認された。しかし,観察室実験の条件統制により対象児数が減ったため有意にならなかったものと考えられた。
附記:本研究は,科学研究費補助金(課題番号21243039)の助成を受けた。