The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(501)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PH080] 院内保育所保育士の勤務に伴う疲労に関する研究

西村実穂1, 安心院朗子2, 大越和美3, 西館有沙4, 水野智美5, 徳田克己5 (1.東京未来大学, 2.目白大学, 3.子ども支援研究所, 4.富山大学, 5.筑波大学)

Keywords:院内保育所 , 疲労

【はじめに】医療従事者の子どもを預かる院内保育所では,保育士の勤務環境が整備されていないことが指摘されてきた。具体的には院内保育所保育士は夜間の勤務,休日の勤務が一般の保育所保育士より多いこと,時間外勤務の時間が長いことがこれまでに明らかになっている(西村,2012)。また,これまでの質問紙調査の自由記述欄には夜間保育時には仮眠をとることができない,子どものための保育スペースの確保が最優先されるため,保育士が休憩をとる場所が確保されていないといったことが挙げられていた。このことから保育士の疲労が蓄積しやすい状況であると予測されるが,院内保育所保育士の疲労感に関する研究はこれまでみられておらず実態が明らかではない。そこで本研究では院内保育所に勤務する保育者の休息の取り方と疲労の関連について明らかにすることを目的とする。
【方法】院内保育所に勤務する保育者を対象とした研修会の場において,質問紙を配布し,その場で記入してもらい,回収した(125部配布し51部回収,有効回答50部,回収率40%)。調査期間は2014年5月であった。回答者は男性が2%(1名),20歳代(37%,18名),30歳代(24%,12名),40歳代(12%,6名),50歳代(27%,13名),常勤が72%(36名),24時間保育をしている園に勤務する者が72%(36名),認可保育所での勤務経験がある者が62%(31名)であった。
また,保育をしている子どもの年齢を尋ねたところ,回答者全員が乳児のいる保育所に勤務していた。さらに,勤務先の保育所において保育可能な年齢の上限を尋ねたところ,3歳までの園に勤務する者が4%(2名),就学前まで70%(33名),小学校低学年(3年生以下)まで21%(10名),小学校高学年(4年生以上)も利用可能4%(2名)であった。
【結果と考察】院内保育所に勤務するうえで感じる疲労について「非常にそう思う」(5点)から「まったくそう思わない」(1点)までの5件法で尋ね,平均値を算出したところ,「常に安全面に注意を払う必要があり,精神的な疲労感が強い」(3.40:SD=1.06) ,「常に安全面に注意を払う必要があり,身体的な疲労感が強い」(3.38:SD=1.06) ,「勤務時間が不規則であり,身体的な疲労感が強い」(3.08:SD=1.16),「出勤時間の間隔が短く,身体的な疲労感が強い」(3.02:SD=1.03),「勤務時間が不規則であり,精神的な疲労感が強い」(2.92:SD=1.09),「出勤時間の間隔が短く,精神的な疲労感が強い」(2.79:SD=1.00),「業務が終了する時間の見通しがつきづらいため,精神的な疲労感が強い」(2.77:SD=1.18),「業務が終了する時間の見通しがつきづらいため,身体的な疲労感が強い」(2.68:SD=1.11)の順に平均値が高かった。ここから安全面の配慮を行うために精神的にも身体的にも疲労を感じることが多いことがわかる。この原因として,院内保育所では異年齢の子どもが一緒に過ごす時間が多いこと,保育室が保育に適した環境ではないことが挙げられる。院内保育所では,病室や病院の事務室など既存の施設を保育室として利用している園が多く,保育室内に死角が生じてしまう,保育者の付き添いなしで使用できない箇所があるといったように安全面の配慮が欠かせない(西村・小野・大越,2014)。さらに,異年齢の子どもが同じ空間で過ごす場合には,遊びへの興味や身体の発達状況が大きく異なり,保育室内でぶつかるなど物理的に危険な場合がある。
また,院内保育所では,保育室の狭さから子どもと離れて休憩をとることのできる休憩室がない場合があり,保育室で子どもをみながら休憩をとる場合がある。休憩の取り方について尋ねたところ,子どもと離れて過ごすことのできる休憩室や部屋があり,そこで休憩をとる者が64%(30名),子どものそばで子どもの様子をみながら休憩をとるという者が36%(17名)であった。休憩の取り方により疲労を感じるかどうかに差が生じるかを確かめるため,子どもと離れて休憩をとる者(別群)と子どもを見ながら休憩をとる群(一緒群)の2群に分けてt検定を行ったところ,いずれの項目においても差はみられなかった。
さらに,院内保育所の勤務形態を理解したうえで院内保育所において勤務している場合とそうではない場合疲労を感じるかどうかに差があると考えられる。院内保育所の勤務形態が希望に合っていたため勤務した者(勤務形態希望群)20%(10名)とそうでない者(希望なし群) 80%(40名)の間で疲労を感じるかどうかに差が生じるかを確かめるため,勤務形態希望群と希望なし群に分けてt検定を行ったところ,いずれの項目においても差はみられなかった。休憩に関する状況について自由記述で,休憩室があるものの,保育者の人数が少ないため休憩がとることができない,勤務時間中に休憩をとること自体が難しいといった意見が見られていた。ここから,院内保育所における勤務に伴う疲労に影響するのは休憩室の有無や院内保育所での勤務形態を希望して勤務しているかどうかではなく,勤務中に休憩を実際にとることができるかどうかが影響している可能性があると考えられる。(本研究はJSPS科研費 研究課題番号24792417の助成を受けたものです。)