[PH082] 児童養護施設の「外国とつながる子ども」に関する研究
文化移行に伴う主観的体験と心理的プロセスに注目して
Keywords:文化, 児童養護施設, 外国とつながる子ども
【1.問題の所在と目的】家庭状況などの主として環境上の理由により,児童福祉法に基づいて児童養護施設に措置されている児童は,近年約3万人で推移している(厚生労働省,2014)。児童養護施設とは,保護者のない児童,虐待されている児童,その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて,対処したものに対する相談その他の自立のための援助を行うこと」(児童福祉法41条)を目的にした施設で,主な入所理由は,「親の放任、怠惰」「父母の離婚」「父母の精神疾患等」となっており,近年は子どもへの虐待や複雑な家庭環境を背景としたものが増加している。このような児童養護施設の今日的状況のなか,東京都児童相談所がケースを受理,措置した子どものうち,外国籍の子どもは85人(約3%),外国籍・無国籍・国籍不明の父をもつ子どもは240人(約8%),母親は278人(約9%)となっている(東京都社会福祉協議会児童部会,2009)。この背景には,外国人のための社会資源やサービスが不足しているために養育相談が増加していること,子育てに関する文化的慣習等が異なるために虐待通告が増加している可能性があることが指摘されている。そこで本研究では,児童養護施設への入所が目立ち始めている「外国とつながる子ども」のうち,とくに文化移行を経験している子どもの主観的経験,およびそのプロセスを明らかにすることを目的とする。
【2.調査方法】修正版グラウンデットセオリーアプローチは,ヒューマンサービス領域や社会的相互作用に関する研究,研究対象とする現象がプロセス的特性を持っているものに適しているという特徴がある(木下,2003;2007)。本研究は「外国とつながる子ども」の,家族や友人との分離や新しい環境における人間関係の構築などの対人的相互作用,文化移行における心理的プロセスを明らかにすることを目的とするため本分析方法を採用した。面接の実施時期は2013年4月からである。【対象者】児童養護施設に入所している「外国とつながる子ども」のうち,海外在住経験があり,文化移行を経験している10歳から18歳までの男女約10名を予定している。【インタビューガイド】1)対象者の属性,文化的背景に関する質問(文化移行時の年齢,国,滞在期間など),2)文化移行時の主観的経験を明らかにする質問(家族,友人関係),言語の使用,名前の変化,文化移行時の気持ちについて(渡航前,渡航時,渡航後のこと),異文化接触について, 3)文化的アイデンティティや文化変容に関する質問,4)将来の夢など。
【3.結果と考察】
現在分析中の主な(コア)カテゴリーとストーリー・ラインを提示する。<概念>,≪カテゴリー≫,【コア・カテゴリー】とする。
【文化移行前の家族関係と出来事】
児童養護施設で生活する文化移行した子どもは,文化移行する以前からすでに,<親の不自然な結婚形態に苦悩し>,<親の不安定な結婚生活や就業,貧困等により安定した生活をおくれていない>≪不安定で脆弱な家族≫のもとで育っている。中には外傷的体験およびトラウマ症状をもつ子どももいる。
【文化の狭間で】
文化移行時,日常のささいなことから食生活まで<あたりまえのことがわからない>≪カルチャー・ショック≫の体験は,子どもに<別世界にきた>と感じさせる。また,対人関係における<複雑なルール>は,子どもを<友達をつくりたいのにつくれない>というジレンマに陥れる。他者とつながる手段としての日本語の未熟さは,自分の思いを伝えられないもどかしさや恥ずかしさ,悔しさとして経験されている。学習言語としての日本語習得の問題も顕在化している。≪文化的いじめ≫は,子どもに,自分にはどうすることもできないという<無力感><低い自己評価>,周囲からの心ない言動への<怒り>を経験させ,<恐怖と不安の世界へ落としいれる>。子どもの中には二つの名前をもつ子がいて,違和感と新鮮さをもたらしている。
【文化的アイデンティティと位置取り】
文化移行時の困難な生活のなかでも,子どもは,文化的背景,自らの文化的資源を利用することを試みる。それは,たとえば語学を生かしたアルバイトをしたり,外国人であることが異性に魅力的に映ることを自覚していることなどがあげられる。また,名前を使い分けることで,たくみに相手との駆け引きに利用することもある。<文化的アイデンティティ>は,<日本人に同化しようとする>方向と,<文化に抗う>という方向との間を揺れ動く。片方の親が外国人である子どもを指す表現である「ハーフ」と呼ばれることへの戸惑いもみられる。
≪児童養護施設入所の意味≫
ケースによっては,虐待やネグレクトと判断されるような不適切な養育環境のために児童養護施設へ入所する子どももいる。これは,日本において再び家族を失うという喪失体験を意味する。
【「超えて」生きる】
親の都合で文化移行をしなければならないことに自分なりに<折り合いをつける>子ども。<苦労を無駄にしたくはない>と文化と文化をつなぐ仕事や,以前生活していた国を想起させるような場所,<いつか安住の場所で>生きていきたいと語る子ども。そして,過去のつらい出来事をやっと語れるようになった子ども。文化と時間を「越えて」生きる子どもの姿が示された。
【4.今後の課題】いまだ理論的飽和に至っていないため,すべての分析対象者が最後の【コア・カテゴリー】に至るかどうかは検討する余地がある。また,各コア・カテゴリー間の関係を検討することも今後の課題である。
*その他のコア・カテゴリー及びストーリー・ライン,全体の結果図は当日改めて提示する。
【2.調査方法】修正版グラウンデットセオリーアプローチは,ヒューマンサービス領域や社会的相互作用に関する研究,研究対象とする現象がプロセス的特性を持っているものに適しているという特徴がある(木下,2003;2007)。本研究は「外国とつながる子ども」の,家族や友人との分離や新しい環境における人間関係の構築などの対人的相互作用,文化移行における心理的プロセスを明らかにすることを目的とするため本分析方法を採用した。面接の実施時期は2013年4月からである。【対象者】児童養護施設に入所している「外国とつながる子ども」のうち,海外在住経験があり,文化移行を経験している10歳から18歳までの男女約10名を予定している。【インタビューガイド】1)対象者の属性,文化的背景に関する質問(文化移行時の年齢,国,滞在期間など),2)文化移行時の主観的経験を明らかにする質問(家族,友人関係),言語の使用,名前の変化,文化移行時の気持ちについて(渡航前,渡航時,渡航後のこと),異文化接触について, 3)文化的アイデンティティや文化変容に関する質問,4)将来の夢など。
【3.結果と考察】
現在分析中の主な(コア)カテゴリーとストーリー・ラインを提示する。<概念>,≪カテゴリー≫,【コア・カテゴリー】とする。
【文化移行前の家族関係と出来事】
児童養護施設で生活する文化移行した子どもは,文化移行する以前からすでに,<親の不自然な結婚形態に苦悩し>,<親の不安定な結婚生活や就業,貧困等により安定した生活をおくれていない>≪不安定で脆弱な家族≫のもとで育っている。中には外傷的体験およびトラウマ症状をもつ子どももいる。
【文化の狭間で】
文化移行時,日常のささいなことから食生活まで<あたりまえのことがわからない>≪カルチャー・ショック≫の体験は,子どもに<別世界にきた>と感じさせる。また,対人関係における<複雑なルール>は,子どもを<友達をつくりたいのにつくれない>というジレンマに陥れる。他者とつながる手段としての日本語の未熟さは,自分の思いを伝えられないもどかしさや恥ずかしさ,悔しさとして経験されている。学習言語としての日本語習得の問題も顕在化している。≪文化的いじめ≫は,子どもに,自分にはどうすることもできないという<無力感><低い自己評価>,周囲からの心ない言動への<怒り>を経験させ,<恐怖と不安の世界へ落としいれる>。子どもの中には二つの名前をもつ子がいて,違和感と新鮮さをもたらしている。
【文化的アイデンティティと位置取り】
文化移行時の困難な生活のなかでも,子どもは,文化的背景,自らの文化的資源を利用することを試みる。それは,たとえば語学を生かしたアルバイトをしたり,外国人であることが異性に魅力的に映ることを自覚していることなどがあげられる。また,名前を使い分けることで,たくみに相手との駆け引きに利用することもある。<文化的アイデンティティ>は,<日本人に同化しようとする>方向と,<文化に抗う>という方向との間を揺れ動く。片方の親が外国人である子どもを指す表現である「ハーフ」と呼ばれることへの戸惑いもみられる。
≪児童養護施設入所の意味≫
ケースによっては,虐待やネグレクトと判断されるような不適切な養育環境のために児童養護施設へ入所する子どももいる。これは,日本において再び家族を失うという喪失体験を意味する。
【「超えて」生きる】
親の都合で文化移行をしなければならないことに自分なりに<折り合いをつける>子ども。<苦労を無駄にしたくはない>と文化と文化をつなぐ仕事や,以前生活していた国を想起させるような場所,<いつか安住の場所で>生きていきたいと語る子ども。そして,過去のつらい出来事をやっと語れるようになった子ども。文化と時間を「越えて」生きる子どもの姿が示された。
【4.今後の課題】いまだ理論的飽和に至っていないため,すべての分析対象者が最後の【コア・カテゴリー】に至るかどうかは検討する余地がある。また,各コア・カテゴリー間の関係を検討することも今後の課題である。
*その他のコア・カテゴリー及びストーリー・ライン,全体の結果図は当日改めて提示する。