The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(501)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PH083] 初任者保育士の保育上のつまずく要因

精神的回復力と自尊感情との関連について

小原貴恵子1, 鈴木由美2 (1.聖徳大学短期大学部, 2.聖徳大学)

Keywords:初任者, 保育士, つまずき

問題と目的
民営化の推進などさまざまな規制緩和の進行とともに,保育所は保育需要のみならず地域の子育て支援や虐待防止など従来になかった多様な役割までもが期待されるようになってきている。
平成21年4月に施行された新・保育所保育指針では,保護者支援に関する内容がより充実したものとなっている。乳幼児の養育において,健全な心身の発達を目指し,豊かな人間性を育成することを目的とし,親の養育力が低下したことにより保育士が子育てパートナーとして保護者へ支援することが示されており,保育士への保護者支援に必要なスキルとして,カウンセリングマインドや新たな高い専門性を有することが求められている。地域の子育ての中核として保育士に期待される役割は,高度化,多様化しており,複雑化している課題を解決する力が要求されているのである。
先行研究によると,保育士の悩みや苦労,ストレスが保育経験の長さ,自己効力感,対人関係に関係していることが示唆されている。これまでに保育士の自己効力感の研究は数多くなされてきている。しかし,保育経験の積み重ねが十分でない初任者保育士が何につまずき,苦悩してどのようにストレスに立ち向かい克服していくのかという研究は少ない。
そこで,本研究では,保育士つまずき尺度を用いて初任者保育士が抱える保育上のつまずきが何であるかを明らかにし,維持ならびに向上しながら仕事ができるには何が必要なのかを検討し,自尊感情と精神的回復力との関連を踏まえた上で,初任者保育士の育成には,どのような方略が有効になるかを提言したいと考える。
方法
調査対象
A県内の公立・私立園の保育士合計560名。
調査時期
200Ⅹ年6月~8月に実施した。
調査手続き・回収率
(1)A県保育協議会の研修会にて実施し,その場で回収した。回収数は104名中91名であった。
(2)B市公立保育所の保育士に実施した。回収数は200名中103名であった。

(3)C市内の保育所(園)の保育士に実施した。回収数は120名中95名であった。
質問用紙計560部配布し,無記名式で回答を求めた。回答が得られたのは406名(回収率は72.5%)であった。
質問紙構成
「保育士つまずき尺度」「自尊感情尺度」「精神的回復尺度」「対象者の属性に関する質問」からなる質問紙を作成した。
結果・考察
初任者・中堅者・熟練者保育士が異なったつまずきを抱えていることが明らかになった。3群ともに自尊感情が高ければ,保育上でつまずきを抱えても精神的に回復することがわかった。一方,3群ともに自尊感情が低くても自分自身の感情を調整しながら回復することができるという結果となったが,様々な新しいことにチャレンジしたり,将来に向けて前向きな気持ちで取り組む姿勢までには至らなかった。その理由は,自尊感情の高低において,精神的回復力の差に違いがあるのではないかと考えられた。初任者保育士つまずく要因は「指導における葛藤」や「自信のなさ」であった。自尊感情が高ければ,「指導における葛藤」や「自信のなさ」でつまずかないことがわかった。
このことから初任者保育士育成において,つまずきにねばり強く努力していることを激励したり,若い人が取り組む姿勢を褒めたり,困惑場面で直接的に介入した援助支援を行うことで自信を取り戻し,指導における葛藤も軽減するのではないかと思われた。また,初任者の人数が少ない園では,初任者が意見を主張することは難しく,初任者の気持ちを理解できなくて,初任者・中堅者・熟練者保育士間で摩擦も生じるのではないかと考えられた。職場内の人間関係のあり方は重要であるといえる。初任者は上手な自己主張の仕方を身につけること,経験者はキャリアの短い者への自己主張しやすい環境づくりへの配慮が必要でないかと考えられた。これらのことからも保育士の経験年齢幅が,園内において充実することも保育士が成長するうえでは重要な鍵であると示唆することができた。