日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(501)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 501 (5階)

[PH085] 大学生のふれ合い恐怖における芸術療法の効果

グループでのブローチ作りを通して

鈴木由美 (聖徳大学)

キーワード:大学生, 芸術療法, グループ活動

目 的
青年期は親から心理的に離れる傾向があり,そこで友人との関係が重要になる。しかし岡田(1995)は青年期の友だち関係は,相手と深く関わることを避け表面的な付き合い方をし,表面的な楽しさを求めて群れる傾向があることを指摘している。本来は友だちがよき相談相手になるはずなのだが,本音を打ち明けられる友だちに出合うことが難しくなっている。表面的な関係はうまくこなせるものの,関係が深まる場面を避けてしまう特徴を持つ「ふれ合い恐怖」もまた現代青年の友人関係の特徴としている。「ふれ合い恐怖」的傾向と友人特徴の関連について,岡田(2002)は大学生の対人恐怖的な傾向と「ふれ合い恐怖」的な傾向に関する尺度を作り,検討を行っている。福井(2007)は「ふれ合い恐怖」傾向が高い者は,自分が特別に優れていて他者と同列に扱われたくないという高い自負心と,孤高を保つために他者との関わりを避ける傾向があると述べている。岡田(2002)は,「ふれ合い恐怖」尺度の「対人退却」と「関係調整不全」下位構造を見出し,一般的な青年に見られる心性を検討している。なぜ友だちと触れ合うことに恐怖を持つのだろうか。友だちと触れ合う経験が不足しているのかもしれない。中学や高校までの友だちはライバルとして存在し,心を許す余裕がなかったかもしれない。そこで大学生で人と触れ合う体験をし,他者理解を深められたら,友だちとの「ふれ合い恐怖」は低下するのではないかと考えた。本研究の目的は芸術療法(ブローチ作製)を使って,他者と触れ合い体験を行い,お互いに交流を深めることで,芸術療法の実施前後の「ふれ合い恐怖」得点が変化することを明らかにしたい。
方 法
調査対象 A県 4年制女子大学生3年 33名
尺度 ①ふれあい恐怖尺度,岡田(2002)が作成した尺度で,「対人退却」「関係調整不全」の2つの尺度からなり,6件法で回答を求めた。
②ブローチ作成尺度 筆者が作成したもので,「作製集中」「気分転換」「劣等意識」の3因子を想定し,15項目からなり,6件法で回答を求めた。
内容 ブローチ作製前に「ふれ合い恐怖」尺度を実施し,ブローチを作製後,6人グループの中で,自分のブローチの特徴を発表し,グループ内で見せ合う。その後「ブローチ作製」尺度と「ふれ合い恐怖」尺度を実施した。
ブローチは30分で簡単にできるもので,ブローチ台にビーズやボタンを置き,上から紫外線で固まる液を流し込み,紫外線ランプを当て,固まらせて作るものである。どんな形に作っても見栄えがよく,達成感が持てる。
結果・考察
尺度構成
「ふれ合い恐怖」尺度の信頼性分析を行った結果「対人退去」はα=.828「関係調整不全」α=.848と内的整合性は高かった。
「ブローチ作製尺度」は「作製集中」「気分転換」「劣等意識」の3因子を想定し,主因子法でプロマックス回転を行った,その結果項目13「事前にブローチにデザインを考えた」は因子負荷量が.4
に満たなかったため,削除し,残りの14項目でさらに因子分析を行った結果,2因子抽出した。それぞれの質問項目の内容を検討した。第1因子を「自分ではいい作品ができた」「夢中になり気分がすっきりした」などの項目で「作品達成感」と命名した。第2因子は,「グループの人と比べると劣っている」「グループの人のように作ればよかった」などで「作品劣等感」と命名した。
ふれ合い恐怖の変化の分析
ブローチ作製前後での「ふれ合い恐怖」尺度の「対人退却」「関係調整不全」因子の平均値をt検定した結果,いずれも1%水準で有意に得点が低下した(Table1)。ブローチを作製することで,友だちへのうっとおしさ(対人退却)や,人といても話題がなくて困る(関係調整不全)が減少したと考えられる。