The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(501)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PH089] 中学生に対するメンタルヘルス尺度(こころとからだの健康気づきシート)作成の試み

田口禎子1, 橋本創一1, 三浦巧也2, 熊谷亮1 (1.東京学芸大学, 2.大正大学)

Keywords:教育相談, 学校保健

<問題と目的>
思春期・青年期前期にあたる中学生・高校生は,発達障害の二次障害や思春期の揺れによる精神的不調が起こりやすいと指摘されている。しかし,同時に親や教師との心理的距離ができる時期でもあり,常にそうした兆候を見逃さず早期介入をおこなうことは容易ではない。そこで筆者は,早期発見・早期介入においては,本人が自己理解を深めて自身の心の不調に気付き援助要請をおこなったり,周囲の大人が本人の状態に気付いて支援を開始できたりするような支援ツールの活用が有効なのではないかと考えた。そのため本研究では、中学生に対して現在の心や体の状態について質問紙調査をおこない,その結果からスクリーニング用チェックシートの項目を検討することとした。
<方法>
こころとからだの健康気づきシートの作成:すでに標準化されている,子どもの精神状態をアセスメントするためのツールである、Birleson 自己記入式抑うつ評価尺度のうち13項目,Child rating scaleのうち11項目,お茶の水女子大学版学校メンタルヘルス尺度短縮版のうち13項目を選定した。加えて,バロン・コーエン自閉症スクリーニングツール短縮版やWHOによるADHDスクリーニングツールを参考に,発達障害の特性による不適応についての項目を作成するため,筆者を含む大学院生・大学教員3名で項目を作成・検討し、7項目を選定した。これらの項目を合わせ,全44項目からなる「こころとからだの健康シート(仮)」を作成した。回答は「0.あてはまらない」「1.ややあてはまらない」「2.ややあてはまる」「3.あてはまる」の4件法とし,ここ1か月の自身の状態について振り返り,もっとも近いものを選ぶこととした。
調査対象者:東京都の中学1年生95名,3年生47名に対して質問紙による調査を実施した。
手続き:2014年2月から3月にかけて教室内で実施し,生徒は担任の教示に従って尺度に回答した。
<結果>
回収率は100%であり,欠損値のあるものを除いた139名の回答を分析対象とした。項目全体の信頼性係数はα=.860である。探索的因子分析(最尤法・promax回転)の結果をTable1に示す。スクリープロットと因子構造を確認した結果,他の項目との相関が低かった項目とを除いた最適解として5因子29項目を採用した。第1因子は「憂うつ・不安」第2因子は「元気がない」第3因子は「気分や注意のむら」第4因子は「人間関係の困難さ」第5因子は「劣等感」と命名した。
全項目と各因子領域における最大値・最小値・平均値・標準偏差は表のとおりである。暫定的に,全項目または各因子において、平均より2標準偏差高い得点をカットオフ得点としそれ以上の得点の者を「メンタル不調生徒」とし、介入・支援の対象とすることとした。その結果、「全項目」「(CO値62)」で6名,「憂うつ・不安(CO値28)」で8名,「元気がない(CO値16)」で5名,「気分・注意のむら(CO値11)」で5名,「人間関係の困難さ(CO値8)」で10名,「劣等感(CO値9)」で8名のメンタル不調生徒がいることが分かった。この数には複数の因子または全項目で高い得点を示した者も含まれていたため,同一の者を含めない23名が、全ての項目または何らかの因子において平均より2標準偏差高い得点を示していたことになる。
<考察>
今回の調査対象となった中学生のうち,約6人に一人の割合で「憂うつ・不安」「元気がない」「気分・注意のむら」「人間関係の困難さ」「劣等感」またはそのうち複数にわたって平均値より高い得点を示している者が存在しており,彼らは潜在的なメンタルヘルス不調のリスクがある生徒であると考えられる。今後は,今回作成したチェックシートをさらに広い範囲の対象者に実施し,実際の適応状況と比較してチェックシートの活用の仕方について検討する。また,このようなリスクのある生徒に対してチェックシートの結果から支援のレベルや内容の方向性がある程度見出せるよう,評価基準を定めていくことが課題である。