[PH095] 対人不安の高い人はネガティブ感情をiPadアプリに打ち明けるとポジティブになれるのか
Keywords:対人不安, ネガティブ感情, iPad
【目的】 遠藤・湯川(2013)によると, 第三者に話す行為は,必ずしも良い結果をもたらすわけではなく,他者との関わりを避け,過去の経験が未整理でネガティブな評価のまま記憶に留まる可能性がある。過去の経験を他者に話すことは,自己理解や気づきを深め,また,新たな人間関係の構築といった心身の健康増進につながるポジティブな効果がある一方で,自己評価の低下,相手との意見の不一致からの対人関係の崩壊を予測するというようなネガティブな影響も考えられる。また,対人不安の高い人は,対人場面を否定的に捉え,回避する傾向が強い(守屋ら,2005)。そこで,本研究では,対人不安の高い人を対象に,自分自身のネガティブな側面について,他者に直接話す行為,および,iPadアプリを用いてソーシャルメディア上の他者に話す行為,のどちらが精神的健康にポジティブな影響を与えるのか検討することとした。対人不安の高い人は,他者と対面する状況で直接話すよりもiPadアプリを通じてネガティブ感情を打ち明ける方がよりポジティブな効果がみられると予測した。
【方法】<予備調査>堀井・小川(1996)の対人恐怖尺度に回答した大学生101人の中から,全体得点が97点以上(最高180点)の者を抽出し,実験協力の意思を示した20人が実験に参加した。20人のうち,ランダムに2つの群,アプリ群と対面群に10名ずつ振り分けた。 <アプリ群>iPadアプリ『だいじょ部』(Cocone Corporation;自分の日ごろのグチ・悩み・聞いてほしいことなどの思いを伝え,みんなで解決するクラブという設定のアプリ)を1週間毎日5分間使用して自分の嫌なところや嫌だったできごと,悩みなどを発言するよう教示し,チェックリストに日付,発言数,やりとりの内容と自分の気持ちを記録してもらった。 <対面群> 伊勢(1998)の集団形式ヒーリングレクリエーション「好き好きゲームパート2」を改良して実施した。2人ペアをつくり,(1)話す人は聞く人に自分にとって受け入れがたいことや嫌いなところを伝える,(2)聞く人は相手が言ったことを受け止めて確認のレスポンスを送り,肯定的に伝える,(3)話す人は聞く人の話を受け止め,「うれしいです」と言う。この手順を2人ペアで計3回行った。1回につき約5分間であった。
<指標> 両群とも介入前後に以下の尺度を実施した。POMS短縮版(横山, 2005), 自己受容尺度(伊藤,1991), ストレスチェックリスト(今津ら,2006), 対人・達成ライフイベント尺度(高比良,1998)。
【結果】各尺度の総得点および各下位尺度得点を算出し,被検者間要因1(アプリ群・対面群),被験者内要因(1回目(介入前)・2回目(介入後))の2要因分析をそれぞれ行った。その結果,18個の指標のうち,12個の指標において,各群における介入前後に有意な差がみられた(POMS緊張-不安,POMS抑うつ-落ち込み,POMS怒り-敵意,POMS活気, POMS疲労,自己受容全体得点,自己受容尺度・学校,自己受容尺度・身体能力,ストレス尺度全体得点,ストレス不安・不確実感,ストレス疲労・身体反応,ストレスうつ気分・不全感)。ストレス尺度全体得点における各群の平均得点をFigure1に示す。アプリ群,対面群ともに介入前と比べて介入後の方がストレス反応が低下したといえる。
【考察】ほとんどの指標において両群ともポジティブな方向に変化していたことから,対面群よりもアプリ群の方がより効果的であるという予測は支持されなかった。しかし,他者と直接対面する介入とアプリによる介入のどちらも精神的健康によい影響を与えていたという本結果は,対人不安の高い人に対してなんらかの介入をおこなう意義があることを示唆するものであろう。
【付記】本研究は,平成25年度金沢大学人文学類心理学コース3年の森井しづかさんによっておこなわれた研究を筆者が再分析したものである。
【方法】<予備調査>堀井・小川(1996)の対人恐怖尺度に回答した大学生101人の中から,全体得点が97点以上(最高180点)の者を抽出し,実験協力の意思を示した20人が実験に参加した。20人のうち,ランダムに2つの群,アプリ群と対面群に10名ずつ振り分けた。 <アプリ群>iPadアプリ『だいじょ部』(Cocone Corporation;自分の日ごろのグチ・悩み・聞いてほしいことなどの思いを伝え,みんなで解決するクラブという設定のアプリ)を1週間毎日5分間使用して自分の嫌なところや嫌だったできごと,悩みなどを発言するよう教示し,チェックリストに日付,発言数,やりとりの内容と自分の気持ちを記録してもらった。 <対面群> 伊勢(1998)の集団形式ヒーリングレクリエーション「好き好きゲームパート2」を改良して実施した。2人ペアをつくり,(1)話す人は聞く人に自分にとって受け入れがたいことや嫌いなところを伝える,(2)聞く人は相手が言ったことを受け止めて確認のレスポンスを送り,肯定的に伝える,(3)話す人は聞く人の話を受け止め,「うれしいです」と言う。この手順を2人ペアで計3回行った。1回につき約5分間であった。
<指標> 両群とも介入前後に以下の尺度を実施した。POMS短縮版(横山, 2005), 自己受容尺度(伊藤,1991), ストレスチェックリスト(今津ら,2006), 対人・達成ライフイベント尺度(高比良,1998)。
【結果】各尺度の総得点および各下位尺度得点を算出し,被検者間要因1(アプリ群・対面群),被験者内要因(1回目(介入前)・2回目(介入後))の2要因分析をそれぞれ行った。その結果,18個の指標のうち,12個の指標において,各群における介入前後に有意な差がみられた(POMS緊張-不安,POMS抑うつ-落ち込み,POMS怒り-敵意,POMS活気, POMS疲労,自己受容全体得点,自己受容尺度・学校,自己受容尺度・身体能力,ストレス尺度全体得点,ストレス不安・不確実感,ストレス疲労・身体反応,ストレスうつ気分・不全感)。ストレス尺度全体得点における各群の平均得点をFigure1に示す。アプリ群,対面群ともに介入前と比べて介入後の方がストレス反応が低下したといえる。
【考察】ほとんどの指標において両群ともポジティブな方向に変化していたことから,対面群よりもアプリ群の方がより効果的であるという予測は支持されなかった。しかし,他者と直接対面する介入とアプリによる介入のどちらも精神的健康によい影響を与えていたという本結果は,対人不安の高い人に対してなんらかの介入をおこなう意義があることを示唆するものであろう。
【付記】本研究は,平成25年度金沢大学人文学類心理学コース3年の森井しづかさんによっておこなわれた研究を筆者が再分析したものである。