The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

質問力の向上と自律的に学ぶ学習者の育成

21世紀型スキルを育てる

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM 302B (3階)

企画・司会・話題提供:小山義徳(千葉大学), 話題提供:生田淳一(福岡教育大学), 篠ヶ谷圭太(日本大学), 指定討論:道田泰司(琉球大学)

10:00 AM - 12:00 PM

[JA02] 質問力の向上と自律的に学ぶ学習者の育成

21世紀型スキルを育てる

小山義徳1, 生田淳一2, 篠ヶ谷圭太3, 道田泰司4 (1.千葉大学, 2.福岡教育大学, 3.日本大学, 4.琉球大学)

Keywords:質問, 学習方略, 批判的思考力

1.企画趣旨
昨今,自ら課題を設定し,取り組み,解決する人材の育成が求められている。そのような学習者を育てるのに鍵となるスキルは,自ら「問い」を立てることのできる「質問力」にある。
「質問力」が高ければ,自分の中にある疑念を言語化することができ,それに基づいた探究学習を行い,自律的に学ぶことが可能となる。さらに,学生が社会に出て仕事に就いた際にも,「言われるままに仕事をする社員」ではなく,「自ら課題を見つけて考え,動くことができる社員」は重宝されるであろう。また,教員となる学生を育成する場合にも,「質問力」のある学生は,将来,効果的な発問ができる教員となる可能性が高い。そのため,学業だけに留まらず,社会に出てからも,「質問力」は重要なスキルとなる。
しかし,これまでの学校教育においては,「質問」するのは教師であり,学習者はその「質問」に応えるという暗黙の枠組みが出来上がってしまっている。そのため,学校において,学習者の「質問する力」を育てる実践はあまり多く行われておらず,学習者の質問力を向上するには,どのような授業実践を行えばよいのかが広く知られているとは言えない状況である。
そこで,本シンポジウムでは,質問力を向上させる教育実践として具体的にどのような方法があるのか,質問力を向上させることで,どのようなメリットがあるのか,質問力は学習者の他の能力をどのような関係があるのか等について,質問に関して研究を行ってきた先生方に話をして頂き,議論を行いたい。

2.授業中に質問を思いつくことの難しさ
生田淳一
「質問力」について,教室での質問行動に関する研究をもとに検討する。ここで質問行動とは,授業中に授業の内容などについて,質問を思いつくこと,さらに,その質問を他者に投げかけることを指すものとする。
しかし,大学生においても質問をしないことがこれまでの研究で指摘されている。質問行動を援助要請行動として捉える研究では,抑制・促進する要因についての検討が進み,環境が整えば質問数は増加することが示されている。しかし,質問の質について十分に言及されておらず,その効果については疑問が残る。レベルの低い質問を作り続けても,学習理解や思考の活性化にはつながらないのではないだろうか。一方,自己質問研究では,トレーニングすることで一時的には利用するようになるが,その後の学習において効果的に利用するまでには至らない可能性が指摘されている。つまり,どちらの研究においても,学習者が学習場面において質問を効果的に利用しているという状況にはなく,課題があることがわかる。
ここでは,小学生の国語の授業における質問生成について検討する。具体的には,複数のクラスで同一単元の同一時数の授業において調査を行った。再生刺激法を利用し,授業終了後,児童に授業の一場面をビデオで視聴させ,その授業のある特定の場面で生じた質問を思い出させ,その際の状況について尋ねる質問紙に記述・回答させた。その実践事例について,質問を思いつくか否か,さらには,その質問の質に注目し分析する。特に,動機づけに関する要因を中心に,学級間差,教師の働きかけの特徴についても分析し,授業中の質問生成にどのような要因が関与しているのかについて探索的に検討する。
質問力を向上させるような教育実践がなされなければ,質問を効果的に利用できるようにならず,問題発見を主体的に行うような学習ができないのではないか。研究結果をもとに,授業中に質問を思いつくことの難しさについてさまざまな視点から検討し,その課題についてどのような具体的な方法によって支援することができるのかについて議論したい。

3.予習時の質問生成方法への介入とその効果
篠ヶ谷圭太
予習が授業理解に促進的に働くことについて,疑問を抱く人は少ないであろう。実際,先行研究においても,これから学ぶ内容に関する知識を事前に提示することで,学習内容の記憶や理解が促されることが示されている(e.g., Ausubel, 1960; Mayer, 1983)。
しかし,事前に知識を提示したとしても,必ずしも期待される効果が得られるわけではない。篠ヶ谷(2008)は,中学生の歴史学習を対象とし,教科書を読んで予習しておくことの効果とその個人差の検討を行っている。先行オーガナイザーの研究知見から考えれば,予習時に教科書を読んで「どのような出来事が起こったのか」といった知識を得ておけば,授業では「なぜその出来事が起こったのか」といった背景因果の理解が促進されるものと考えられる。しかし,篠ヶ谷(2008)では,学習者の意味理解志向(知識の関連を理解することを重視する信念)によって授業での因果理解の深まりに個人差が見られることが報告されている。
では,どのような介入を行えば,多くの学習者に予習の効果をもたらすことができるのであろうか。この時,重要な役割を果たすと考えられるのが,予習時の質問生成である。意味理解志向は,知識のつながりの理解を重視する信念であるため,意味理解志向の高い学習者は,事前に教科書を読んで個々の史実の知識を得た際,それらの背景因果に関する問いを自発的に生成し,授業に臨んでいた可能性が考えられる。
そこで,本研究では,中学生の歴史学習を対象とし,予習を行う際にどのような質問を生成すればよいのかについて介入を行い,その効果の検討を行った。また,事前に提示された質問に対して解答を作成しておくことで,その後の学習が促されることを示した先行研究の知見(e.g., Pressley et al., 1990)を踏まえ,本研究では予習時に生成した質問に解答しておくことの効果の検討も行った。
何かを学ぶ際,事前に必要な準備学習を行い,自らの理解を深めていくスキルは,生涯に渡り効果的に学んでいくために必要である。当日は,研究結果をもとに,「予習」と「質問生成」を軸に,いかにして自律的な学習者を育成していけるのかについて,フロアの方々と議論したい。

4.教員養成課程における「エッセンシャル・クエスチョン」の生成トレーニングの効果
小山 義徳
本発表では,教職課程に所属する大学生の質問力を向上させる目的で行った,質問生成トレーニングの効果について報告する。
教員となった際に求められるのは,児童,生徒の思考を刺激し深く考えることを促す「発問」である。McTighe & Wiggins (2013)は,「思考を刺激しさらなる疑問を産み,議論を引き起こし,その科目の内外で繰り返し問われる問い」のことを「エッセンシャル・クエスチョン」と呼んだ。例えば,社会科の三権分立であれば,「三権分立における三つの機関の名称は」といった一般的な問いかけではなく,「構造と機能はどのような関係にあるか」,「なぜ権力の均衡を保つ必要があるのか」,「バランスがとれていない状態とは」等の問いかけのことを指す。
しかし,エッセンシャル・クエスチョンに関して,トレーニングを行い獲得が可能であるか検討した研究が少ない。そこで,本発表では,大学の教員養成課程の授業において,エッセンシャル・クエスチョンを生成する目的で行ったトレーニングの内容と,その効果について報告する。
ただ,質問生成のトレーニングはどの学習者にも有効なわけではなく,学習者側の要因により,その効果が変化する可能性がある。本発表では,参加者の質問生成に対する信念がトレーニングの効果に影響を与えると考え,「質問信念尺度」を作成し,エッセンシャル・クエスチョンのトレーニングの前後で,参加者の信念がどのように変化したのか,どのような信念を持つ参加者にトレーニングの効果があったのか分析を行った。そこで,本発表では.エッセンシャル・クエスチョンのトレーニングの効果を学習者の「質問信念」と関連させた上で報告し,議論したい。


本シンポジウムはJSPS科研費(基盤A)
”Understanding, measuring, and promoting crucial 21st century skills: Global communication, deep learning, and critical thinking competencies” (15H01976)の助成を受けた。