The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

Rosenbergの自尊感情尺度

尺度内容・発達変化・時代変化

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM 301B (3階)

企画・司会:小塩真司(早稲田大学), 話題提供:茂垣まどか(立教大学), 岡田涼(香川大学), 並川努(新潟大学), 脇田貴文(関西大学), 指定討論:中間玲子(兵庫教育大学), 岡田努(金沢大学)

10:00 AM - 12:00 PM

[JA04] Rosenbergの自尊感情尺度

尺度内容・発達変化・時代変化

小塩真司1, 茂垣まどか2, 岡田涼3, 並川努4, 脇田貴文5, 中間玲子6, 岡田努7 (1.早稲田大学, 2.立教大学, 3.香川大学, 4.新潟大学, 5.関西大学, 6.兵庫教育大学, 7.金沢大学)

Keywords:自尊感情, 尺度, 歴史

企画趣旨
自尊感情(自尊心,self-esteem)は,これまでの心理学の研究,特に教育心理学や発達心理学,社会心理学,臨床心理学の領域で最も盛んに用いられてきた構成概念のひとつだと言えるだろう。そしてRosenberg(1965)の自尊感情尺度は,自尊感情の測定において現在も確固たる地位を維持し続けている。2015年は,Rosenbergが1965年に“Society and the Adolescent Self-image”を出版してから50年の節目にあたる年である。多くの問題点が指摘されながらも,Rosenbergの自尊感情尺度は現在まで,半世紀にわたって世界中の自尊感情研究を支え続けてきたという現実がある。わが国においても特に1980年代以降,この尺度の翻訳版が複数開発され,現在でも使用され続けている。これだけ長期間にわたって使い続けられる尺度が今後の心理学の歴史の中に現れるかどうかはわからないが,Rosenbergの自尊感情尺度は数ある尺度の中でもきわめて稀な存在だと言うことができるだろう。
Rosenbergの自尊感情尺度の特徴は,10項目という比較的簡易な尺度であること,半数の項目が逆転項目であり正方向と負方向の項目が混在していること,もともと書籍ではガットマン尺度と記述されているものの現在ではリッカート尺度として用いられているなどの特徴をもつ。近年では心理学以外の研究領域でも自尊感情という概念,そしてRosenbergの自尊感情尺度は盛んに使用されるようになっている。
また,研究場面以外でも自尊感情への言及がなされることがある。たとえば「日本人は自尊感情が低い」という言説や,「最近の若者は自尊感情が低い」という言説である。前者については,Schmitt & Allik (2005)が,53カ国・地域におけるRosenbergの自尊感情尺度の平均値を比較しており,そのなかでも日本の平均値がもっとも低かったことを報告している。そして後者については,小塩・岡田・茂垣・並川・脇田(2014)の検討がある。小塩他(2014)は,日本でこれまでに発表された査読誌123論文を収集し,各論文に掲載されたRosenbergの自尊感情尺度の平均値を収集した。そして時間横断的メタ分析を行うことで,自尊感情の平均値が近年になるほど低下傾向にあることを示した。
本シンポジウムでは,この論文を軸にしながら,以下の3つの観点からRosenbergの自尊感情に関連する話題提供を行ない,その内容を議論したい。第1に,Rosenbergの自尊感情尺度のこれまでの使われ方や,論文での記載のされ方である。全体として,この尺度がそれぞれの研究の中でどのように位置づけられ,記述されてきているのかを概観する。第2に,近年注目されるメタ分析手法の紹介と,Rosenbergの自尊感情にメタ分析を適用した研究の報告である。この尺度は多くの研究で用いられていることから,研究を統合するメタ分析に適用しやすい尺度であるとも考えられる。そして第3に,技術的・統計的な視点からRosenbergの自尊感情尺度の特徴を探ることである。この尺度の日本語版においては,複数の翻訳版・複数の選択肢の段階が使用されてきている。このような技術的な違いが,測定された内容にどのような影響を及ぼすのかを検討する。
本シンポジウムでは,以上のようにRosenbergの自尊感情尺度について多面的に眺めるなかで,自尊感情とはどのような概念であるのか,また実際にどのような様相を呈するのか,そしてより良い測定とは,より良い記述・応用のしかたとはどのようなものであるのかを議論していきたい。
文 献
小塩真司・岡田 涼・茂垣まどか・並川 努・脇田貴文(2014).自尊感情平均値に及ぼす年齢と調査年の影響—Rosenbergの自尊感情尺度日本語版のメタ分析— 教育心理学研究, 62, 273-282.
Rosenberg, M. (1965). Society and the Adolescent Self-image. Princeton: Princeton University Press.
Schmitt, D. P., & Allik, J. (2005). Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 nations: exploring the universal and culture-specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 89, 623-642.


話題提供
Rosenbergの自尊感情尺度のこれまでの用いられ方
茂垣まどか(立教大学)
日本において,Rosenberg(1965)の自尊感情尺度(邦訳版)は,1980年代から多くの研究で用いられてきた。本発表では, Rosenbergの自尊感情尺度が,これまで日本でどのように用いられ,査読誌においてどのように記載されてきたか紹介する。
自尊感情尺度には複数の邦訳が存在し,特に山本他(1982)と星野(1970)版が多く用いられていた。どのような分析・変数かという点からみると,高低群に分ける際などの「分類の基準値」,精神的健康の程度を測定する意味で「平均値の差の分析」や「相関分析や回帰分析,SEM」,また実験や臨床的介入などの研究で「効果測定」など,さまざまに用いられていた。
さらに各研究でどのような統計情報が記載されていたかという点にも触れる。小塩他(2014)では時間横断的メタ分析を行なったが,尺度の平均値やSDなどの基礎的情報が示されていないために,サンプルサイズも大きく他の条件は十分にも関わらず,分析対象から除外したデータが目立った。紙面の関係から,当該論文の本筋に直接関わらない情報が割愛されることもあるが,多くの研究知見をまとめる際には,基礎的な情報が各研究で記載されていることが必要となってくる。また尺度の翻訳や項目を大きく変える場合,メタ分析の俎上には載せにくくなる。各研究のオリジナリティと自由度を保ちつつ,研究知見をまとめる方法にも沿うというジレンマが生じる。この点についても意見を述べたい。

自尊感情に関する研究知見のメタ分析による統合
岡田 涼(香川大学)
近年,心理学研究において,過去の研究知見をいかにして統合するかについて関心が寄せられるようになってきている。特に,メタ分析の方法論が広まるようになって以降,数量的な点から研究知見を統合して,より一般的な結論を導き出すことに対する志向性が高まっている。
自尊感情については,これまで極めて多くの研究知見が蓄積されてきている。海外では,自尊感情に関する研究知見をメタ分析によって統合する試みがなされ,自尊感情の発達差や性差,年代による変化などが明らかにされている(Gentile et al., 2008; Kling et al., 1999; Pinquart & Sörensen, 2001; Twenge & Campbell, 2001)。
日本においても,自尊感情に関する研究知見は膨大な数が報告されている。研究の主目的と直接に関連するか否かを別として,日本人の自尊感情のあり方に関するデータは豊富に蓄積されている。しかし,日本における自尊感情の研究知見を統合しようとする試みは,記述的なレビューを除けば,これまでほとんどなされてこなかった。
本発表では,日本の自尊感情をメタ分析によって統合した研究を紹介する。まず,メタ分析の方法論を概観し,続いて日本人における自尊感情の平均値の年代的変化を検討した研究(小塩他, 2014)と日本人における自尊感情の男女差を検討した研究(岡田他, 印刷中)を紹介する。これらを通して,日本人の自尊感情のあり方に対して理解を深めるとともに,過去の研究知見を数量的に統合していくという研究の方向性について,今後の展望と課題を考えてみたい。

Rosenbergの自尊感情尺度を用いた測定
並川 努(新潟大学)
脇田貴文(関西大学)
Rosenberg(1965)の自尊感情尺度は,日本においても多くの研究で用いられている。しかしそれと同時に,さまざまな観点からこの尺度の持つ問題点も指摘されてきた(たとえば榎本・田中,2006)。本発表では,自尊感情の測定という観点からあらためてRosenberg自尊感情尺度のもつ課題を整理した上で,いくつかの点について実際のデータをもとに検討を行いたい。
まず取り上げるのは尺度の邦訳版が多数併存する問題である。Rosenberg尺度を日本語に訳したものは,山本・松井・山成(1982)や星野(1970)をはじめとして,安藤(1987),桜井(1997),中川(1989)などさまざまな種類がある(並川・脇田・野口, 2010)。これらは,いずれも同じ尺度をもとにしているものの,各項目の日本語表現は異なっている。小塩他(2014)による分析では,尺度得点の単位では訳による違いは見られなかったものの,項目単位で見た場合には,訳によって異なる日本語が当てられているため機能が異なる可能性も指摘できる。そこで,Item Response Theoryを適用した分析を通して,項目パラメタの観点から,尺度レベルでの翻訳間の違いや,項目レベルの違いについて検討する。
また,自尊感情尺度が用いられる際に,「あてはまる」などの回答選択肢や,4件法や5件法といった反応段階数は必ずしも統一されておらず,研究に合わせてさまざまな形で利用されていることが報告されている(並川他, 2010)。Likert法の選択肢の違いが選択肢間の心理的距離に影響に影響を与えることを示唆する研究(Wakita, Ueshima, & Noguchi, 2012)も存在する。
そこで,上記の翻訳の違い,回答選択肢や反応段階数の違いが自尊感情の測定に与える影響についても取り上げ,議論を展開したい。