The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

折り紙(origami)における「動きの心的表象」の検討

「折り」の“動きイメージ”の分析

Wed. Aug 26, 2015 1:30 PM - 3:30 PM 301A (3階)

企画・司会・話題提供:丸山真名美(至学館大学), 話題提供:菱谷晋介#(北海道大学), 杉村伸一郎(広島大学大学院), 指定討論:梶田正巳(名古屋大学)

1:30 PM - 3:30 PM

[JB03] 折り紙(origami)における「動きの心的表象」の検討

「折り」の“動きイメージ”の分析

丸山真名美1, 菱谷晋介#2, 杉村伸一郎3, 梶田正巳4 (1.至学館大学, 2.北海道大学, 3.広島大学大学院, 4.名古屋大学)

Keywords:折り紙, 動きイメージ, 表象

テーーマ設定の主旨〉
わが国の伝統あそび「折り紙」は,「折る」という一連の行為から成立している。また,一枚の平面的な紙に対し「折る」操作を繰り返し立体物に変形させるという2次元から立体へと変形させる過程である。
「折り紙」は子どもの遊びとして一般的であり,かつ成人にも愛好者が多い。科学技術に「折り紙」 のしくみが活用されてもいる。しかし,以上のような観点から,「折り紙」の認知的メカニズムについてはほとんど知られていない。われわれは,「折り紙」の2次元から立体物への変形の過程に注目し,「折り紙」のメカニズムについて検討してきた。その結果,「折る」操作に付随する「動きの心的表象」が研究の中心的課題になると考えるに至った。
「折り」の“動き”には,①紙の動き(紙が変形されるプロセス等),②手・指の動き(紙を変形するプロセス等)の2種類の“動き”が存在すると考えられる。もちろん,紙の動き(どのように変化させるか)をイメージし,どのように手や指を動かして折るのかイメージすることが必要になる。したがって,①と②は互いに関連するものだといえる。
また,「折り」の“動きイメージ”は言語などの抽象的表象ではなく,Brunerの活動的表象やPiagetの活動シェマに相当すると考えられる。このような基本的な表象についてのより詳しい知見を得ることに,「折り」の“動きイメージ”の分析が貢献できると考えられる。
話題提供1では,どのように「折り」の動きをイメージしているかについての事例分析,話題提供2では,「折り」の“動きイメージ”についての理論的検討,話題提供3では,発達の観点から,「折り」の“動きイメージ”についての分析・考察を行う。

話題提供1
「折り」の“動きイメージ”の事例
丸山真名美
これまでの「折り紙」プロセスの調査・実験から,「折り紙」において,紙をどのように動かすとどのような形に変化するか,もしくは,ある形に紙を変形させるためにはどのように手・指を動かしたらいいのか心的に表象することが重要であることが明らかになった。
本シンポジウムでは,変形奴さん課題の事例を紹介する(丸山,2014)。変形奴さん課題は図1に示すように通常の奴さんの顔を白くするものである。


この課題は,頭の部分をひっくり返すことで完成できる。大学生を対象に行った事例分析の結果は,以下のとおりであった。
①「ひっくり返す」ことはすぐに理解された。
②腕がどのような構造になっているかイメージすることが困難であった。
③見本を崩し腕の部分の構造が理解されたら,課題を完成させることができた。
以上から,目標となる形の構造を心的に形成し,変形イメージ,すなわち紙の“動きイメージ”を形成することが重要な要因であると考えられる。

話題提供2
“動きイメージ”の理論的検討
菱谷晋介
創作折り紙は別にして,伝統的な折り紙では,使用する紙の形態も,折りの手順も定まっている。つまり,折り紙の学習とは,抽象的なレベルでは,紙の初期状態(通常は正方形の場合が多い)に対して,どのような操作系列を適用してゆくかという,アルゴリズムの獲得と捉えることが出来る。この獲得されたアルゴリズムは,身体(手指)と対象(紙)の相互作用系列として具体化され,折り紙作品として現実化される。したがって,折り紙のアルゴリズムは,手指と紙(より大きな観点から見れば,身体と世界)の,相互作用系列として表象されている必要がある。この表象は,身体(手指)と世界(の一部である紙)が如何に相互作用すべきかという,いわば,行為のモデルといえる(図1)。
折り紙では,目的とすべき折り紙を折るためのモデルが選択され,それにしたがって運動系の駆動による紙の操作,結果のモニタ,モデルとの照合,操作の修正が繰り返され,最終的な作品が完成する。このような一連のプロセスにおいては,種々のイメージが出現する。それは,折りの結果に関する視覚的なイメージであったり,あるいは,動きのイメージであったりするが,それらのタイプや機能が明確に理解されているわけではないし,両者は,必ずしも,全くの別物というわけでもない。たとえば,完全に静的な視覚イメージが出現する場合もあれば,意図的に動画的なイメージが形成される場合もある。あるいは,純粋に身体運動的な動きのイメージが,折り紙パフォーマンスに影響するというデータも報告されている。そこで,本報告では,動きのイメージを中心に,折り紙に出現する種々のイメージについて整理し,その機能やメカニズムについて考察を試みたい。

話題提供3
“動きイメージ”の発達的検討
杉村伸一郎
Piaget以降の心的変形の発達に関連する研究を概観するとともに,筆者が行った4つの実験を紹介し,心的イメージに伴う行為や動作ならびに,心的イメージの発達における知覚と操作の役割を検討する。
心的回転などのイメージの操作には,手の動きが影響を与える(Frick et al., 2009)。また「180°回転する棒に固定された3個の玉の軌道」(Piaget &Inhelder, 1966)を描かせる課題においても,自発的に模倣的動作や変換的行為が出現し(杉村, 2009),回転後の玉の位置の理解は,実験者が装置を回転させるのを見るよりも,子ども自身が手で装置を持って回転させる方が促進されることが明らかになっている(Sugimura, Asakawa, Takahashi, 2011)。
以上の知見は,心的イメージを,知覚の感覚的側面における残滓の延長ではなく,模倣の内面化と捉えたPiagetらの考えに一致する。しかし,動作だけがイメージの発達に影響し,知覚や他の活動は全く関係しないのであろうか。Piagetらは,知覚はそれ自体では十分な心的イメージの形成をもたらさない,と結論づけているし,いくつかの研究において同様の報告が行われている。
だが,その一方で,知覚経験が心的イメージの形成を促すという報告もある(杉村, 2009)。また,Sugimura and Kumihashi(2013)では,軌道のイメージにおける訓練の効果を,動作のみ行う,予想のみ行う,予想に基づいた動作を行う,という3つの群を設定し検討したところ,いずれの群も効果があり,中でも予想のみ行う群の効果量が最も大きいという結果が得られている。
したがって,Piagetらが主張したように,心的イメージの発達が操作の発達だけに規定されると考えるのではなく,知覚経験や予想の効果も説明できるようなモデルを構築する必要があるだろう。その際には,Lautrey&Chartier(1991)の議論が役立つと思われる。彼らは,空間情報の表象や処理において2種類の様式がさまざまな程度において用いられると主張した。1つは操作からは独立したアナログ的表象で,変換結果の予期を可能にする。もう1つは,Piaget理論とも一致する命題的表象である。


本研究は,科学研究費基盤C(H24~H26)研究代表者:丸山真名美,課題番号24530840の助成を受けて行われた。