The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

他者との協同場面における学習の調整過程

Wed. Aug 26, 2015 4:00 PM - 6:00 PM 302B (3階)

企画・司会・話題提供:岡田涼(香川大学), 企画・話題提供:篠ヶ谷圭太(日本大学), 企画:塚野州一(富山大学), 話題提供:梅本貴豊(京都外国語大学), 指定討論:中谷素之(名古屋大学大学院), 須藤文(久留米大学)

4:00 PM - 6:00 PM

[JC02] 他者との協同場面における学習の調整過程

岡田涼1, 篠ヶ谷圭太2, 塚野州一3, 梅本貴豊4, 中谷素之5, 須藤文6 (1.香川大学, 2.日本大学, 3.富山大学, 4.京都外国語大学, 5.名古屋大学大学院, 6.久留米大学)

Keywords:協同, 自己調整学習, 動機づけ

企画趣旨

自ら学ぶ学習者を育てることは,教育における重要な目標のひとつである。「自ら学ぶ学習者」のあり方については,自己調整学習(self-regulated learning)の視点から研究が行われ,これまで多くの研究知見が蓄積されている(Zimmerman &Schunk, 2011)。学習を進めていく過程において,自らの認知や動機づけを調整するための方略やその指導方法などについて様々な基礎的,実践的な研究が行われてきた。
一方,他者と協同的に問題を解決していく力の育成も重要な教育目標である。これまでの協同学習に関する研究では,他者との協同が学習成果に結びつくことが明らかにされ,授業場面において用いられる様々な協同の技法が開発されてきた(杉江, 2004)。
これまでの自己調整学習に関する研究において,学習者が自らの学習や動機づけを調整していく過程において,他者がどのような役割を果たしているかという点については十分な研究が行われてきたとは言い難い。近年では,学習の共調整(co-regulation)や社会的に共有された調整(socially shared regulation)などの概念が提起され(Hadwin, et al., 2011),他者とのあいだで学習を協同的に調整していく過程が注目されている。協同場面における学習の調整は,今後の研究において重要な検討主題になり得るものであり,学校をはじめとする教育実践の場面にも有用な知見を提供し得るものと考えられる。
以上のことを踏まえて,本シンポジウムでは,他者との協同のなかでいかに学習や動機づけを調整していくかという点について議論したい。日本教育心理学会第54回総会(2012年)の自主シンポジウム『自己調整学習における協同の役割』においては,個々の学習者が自己の学習過程を調整していくうえで,仲間をはじめとする他者との協同が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。本シンポジウムでは,他者との協同場面において,個々の学習者が自己や協同の相手である他者の学習あるいは協同を行う集団自体の学習を調整する過程に注目する。自身の学習を調整するうえで他者との協同がどのような役割を果たしているか,また他者との協同的な学習の過程を個々の学習者がいかに調整しているかについて理解を深めるとともに,自己調整学習における新たな研究の方向性の一端を探りたい。

教えあいにおける自己と他者の学習の調整
篠ヶ谷圭太
学習内容を教えあう,協力して応用問題を解くなど,複数の学習者が相互作用しながら学習を進める状況では,学習者は,自身の理解状態だけでなく,他者の理解状態についてもモニターしながら,現在の状態を目標状態(お互いが内容を理解できた状態,問題が解決できた状態)へと近づけていくために必要な発言を選択しているものと考えられる。すなわち,学習者同士の相互作用場面における,個々の学習者内の情報処理プロセスにおいては,自己の学習と他者の学習双方の調整が行われていることが予想される。
しかしながら,学習者間の相互作用を扱った先行研究では,効果的な相互作用とはどのような特徴を持つのか,また,そのような相互作用が行われる上で重要な役割を果たす要因(学習者の既有知識や動機づけ,メンバー間の関係性など)については指摘されているものの(e.g., Hanze& Berger, 2007; Horn et al., 1998; Mulryan, 1994; 高垣・中島, 2005),個々の学習者内の情報処理過程までは明らかにされていないため,上述したような,「自己と他者の学習の調整過程」の存在が示されているわけではない。
本発表では,中学生や高校生を対象として,学習内容を教えあうなどのペア学習の際に何を考慮しながら相互作用を行っているかについて検討を行った質問紙調査の結果について報告する。シンポジウム当日は,調査の内容やその結果を踏まえ,相互作用における学習者内の情報処理プロセスを示す包括的なモデルを提案するとともに,いかにして学習者同士の教えあいや協同的問題解決を促していくかについて,フロアの方々と議論したい。

他者との協同による動機づけの調整
梅本貴豊
学習を進めるにあたり,動機づけの果たす役割は非常に大きい(Pintrich, 1999)。しかしながら,常に学習を意欲的に進めることは難しい。そのため,学習者は自分で自分のやる気を効果的に調整することが重要となる。自己調整学習研究において,こういった側面は「動機づけ調整」として扱われている(Wolters, 2011)。これまでの研究から,例えば,自分の興味があることと関連づけてやる気を出す,学習環境を整理してやる気を出すといった,具体的な動機づけ調整方略が特定されている(e.g., McCann & Garcia, 1999; Schwinger et al., 2009; Wolters, 1998; Wolters & Rosenthal, 2000)。
さて,これまでの我が国の動機づけ調整研究において,他者と協同することでやる気を出すという動機づけ調整方略の存在が示されている。例えば,伊藤・新藤(2003)は中学生を対象とした研究から,また梅本・田中(2012)は大学生を対象とした研究から,それぞれ他者との協同に関する動機づけ調整方略を見出している。一方で,海外の動機づけ調整研究においては,こういった協同的な動機づけ調整方略は扱われていない。これは非常に興味深い点である。
本発表では,大学生を対象としたいくつかの質問紙調査研究から,協同的な動機づけ調整方略がどのように学習に影響するのかを報告したい。特に,「学習の文脈」,「協同の内容」,「性差」などのいくつかの側面から,協同的な動機づけ調整方略が学習に与える影響を検討する。これらの発表内容から,大学生の動機づけ調整における他者の役割について考えていきたい。

異学年集団での問題解決における調整過程
岡田 涼
近年の学校場面において,児童が問題解決的な学習に取り組む機会は少なくない。その場合,個人ではなくペアやグループで他者と協同しながら,特定の問題解決に取り組むことが多いと思われる。
他者と協同的に問題を解決しようとする場合には,自己の認知過程や動機づけを調整するだけでなく,他者の認知過程や動機づけを同時にモニタリングしながら,活動を調整していくことが必要となる。特に,グループのような複数の他者が1つの課題に取り組む場合には,各個人がグループの活動を協同的に調整するような社会的に共有された調整学習(socially shared regulation of learning: Hadwin, et al., 2011)が求められる。
近年の学校場面では,異学年間のかかわりが重視されている。異学年間でのかかわりをもたせる機会として,学校内で縦割り学級での活動を設定したり,幼保小連携や小中一貫という体制での教育活動が展開されている。しかし,異学年集団における児童間の相互作用の特徴については,あまり検討がなされていない。異学年の集団で問題解決に取り組む場合には,様々な発達段階の児童が混在するため,集団全体の調整過程の必要性が高まると考えられる。
本発表では,異学年集団での問題解決的な学習場面における調整過程について考えてみたい。異学年集団において,中長期的にプロジェクト型の問題解決に取り組んでいる実践を対象に,児童の発話データから調整過程を捉える。これまで,児童どうしの発話に注目した研究はみられるが(藤江,1999;倉盛,1999),異学年集団における発話に注目した研究はほとんどみられない。学年の異なる児童が集団としての問題解決を調整していく過程について発話データの機能面,内容面の分析から検討する。また,児童が行う集団としての調整過程に対して,教師がどのようにかかわり,支えているかについても,発話データから明らかにしていきたい。