16:00 〜 18:00
[JC03] 21世紀型学力養成のための知識創造モデルの授業づくり
授業設計・評価マトリクスを用いて
キーワード:知識創造モデル, 授業設計, 評価
1 我が国の理科教育の現状と課題
我が国では,学習指導要領に示されている教科目標が,学習者全員に達成させるべき水準として規定されている(文部科学省2008)。この目標は,各教科の親学問の知識体系からの目標であり,知識を効率的に授けることが教師の役割だと考えられてきた。しかし,こうした「知識伝達モデル」の教育は,多様な学力のうちの「知識・理解」の育成には効果的であるが,創造的思考に不可欠な「思考・判断力」の育成には必ずしもつながっていない。すなわち,一斉学習で課題把握と仮説設定を行い,班活動で共同的に実験や観察を行って結果を話しあうが,まとめる内容は決まっており,予定調和の話し合いの末,結論に至るといったプロセスをたどる。これに対して知識創造モデルでは,予定調和の話し合いで終わらず,生まれた新たな課題に,学習者が自主的に参加し,問題解決の実験や観察を行うといった協働学習が展開していく。(Lave. J. & Wenger, E. 1991)。
2 研究の目的とツールの開発
このような学習指導を行うに当たって必要なのは,学習指導案である。これを作成するに当たっては,①単元の目標,②教材の特徴,③学習活動の内容,④学習者の実態,⑤学習指導法,⑥授業者の特性を考慮することが必要である(吉崎,1984)。授業設計に関する研究は多く行われているものの(たとえば,Linn, Davis & Bell,2004, Gagnié, 1977 ),学校教育に特化して研究されたものは少ない。Vygotsky(2001)は,zone of proximal development(ZPD)を提唱し,学習者は周囲の人々との相互作用から新しい能力を獲得し,その結果,ZPDの水準が引き上げられて発達が起きるという考えを示した。また,認知的徒弟制では,①モデリング②コーチング③スキャフォールディング④フェーディングの段階があるという。
この様な考えを取り入れて授業設計を行うためには,教育現場で使いやすく,実際の学習指導とリンクするツールの開発が必要であると考えられる。すなわち,これまでの知識獲得モデルでは,教師の立場から,何を教えるか,どのように教えるかを問題としてきたが,知識創造モデルでは,学習者の立場から,学習者がどのように学ぶのかを問題とする。そのためには,学習者の反応水準を規定し,授業の目標を達成した学習者の反応を想定しておく必要がある。そこで,学習者の反応を想定し,そのレベルを向上させるツールとして,「授業設計・評価マトリクス」を開発した。
本シンポジウムでは,普段行っている従来型学習指導と,「授業設計・評価マトリクス」(以下マトリクスという)を用いて,学習者中心の知識創造型学習指導(Soloway, E. , Guzdial, M. , & Hay, K. E.1994)の両方を行った。波多野(2000)は,学習指導を教師中心型から学習者中心型に変容させる時,重要なのは教師の熟達化であるという。すなわち,マトリクスは,開発した理科以外の教科,領域,校種に用いることによる学習指導の緻密化および,教師の熟達化を支援するための有効なツールとなり得るかを検証することが本研究の目的である。
3 研究の方法
① ツールの構造
21世紀型学力養成のための知識創造モデルの授業づくりを支援するために開発したツール,「授業設計・評価マトリクス」のうち,設計マトリクスの尺度は,小学校理科における問題解決能力の当該学年でつけるべき能力を用いた。すなわち,比較,要因抽出と関係付け,条件制御と計画的な実験観察。多面的思考と推論である(小学校学習指導要領理科編,文部科学省,2008)。(表1,表2)
評価マトリクスは,当該学年における能力に対して4段階のレベルを設定することにより,個々の児童に応じた指導の設計に用いることを想定している。評価は,学習指導要領で求められている到達目標に対して「努力を要する」状況をレベル1,「おおむね満足できる」状況をレベル2,「十分満足できる」状況をレベル3とし,「十分満足できる」状況を上回る高度なレベル4を加味して設計した,それは,学習の結果得られた知識や理解を用いて自律的に探究を行うなどして,新たな知識を創造する学習者の育成を行うためである。学習者の反応を想定する効果の1つは,自分の考えを言語で表現し,納得や共感を得る喜びを味わわせることである。学習者は,言語によって他者の納得を得た経験から,メタ認知し,自己の思考を深めることになるため,さらに自律的段階へと進む。2つめの効果は,教師がこのような高度なレベルの学習者を指導することで,熟達化を図ることが出来るようになることである。
② 研究の方法
本シンポジウムでは,話題提供者が,マトリクス導入前・後の授業を分析した結果について報告し,どの段階で児童の変容をどのように見取り,どのような評価をしたのかを検討する。
授業者が得た学習者の反応の変容や授業設計時,授業中,授業後の評価から,学習者の変容を基に,マトリクスの有効性について討論する。
マトリクスは,理科の授業を想定して作成したものであるが,生活科や総合的な学習の時間への援用の効果と課題についても検討する。
③ 提供する内容
川真田 早苗(徳島市立川島小学校)
総合的な学習の時間において防災教育を行った。
具体的には,学習指導要領において自然災害を取り扱っている理科,社会科を取り上げ,授業設計・評価マトリクス(金沢,2014)を援用した,防災教育の評価マトリクスを作成した。学習者が,自然災害を自分自身の問題としてとらえ,表現するといった学力向上がどのレベルで顕著であったかを,事前,事後の学習を分析し,結果を報告する。本シンポジウムでは,評価マトリクスが,渡邉ら(2001)が指摘する防災教育の問題点にどのように関与するのかを明らかにすることを目的とする。
升岡 智子(東広島市立風早小学校)
多くの学校で,理科の授業は苦手と考えている教師が多い。本シンポジウムで提案された授業設計・評価マトリクスは,ZPDを刺激するプロセスにおいて,学習者の反応を想定する訓練が為されるので,活用することによって授業改善を図ることが容易である点に着目し,苦手意識のある教員に,学習者中心の授業設計を普及する方策についての意見を求めたい。
佐伯 貴昭(熊野町立熊野東中学校)
中学校・第1学年・第2分野「植物の生活と種類」の単元において,観察・実験から得られた情報を処理し,結果を分析して解釈させ,思考力・表現力を育成する。そのため,授業設計・評価マトリクスを用い,授業を行い,用いない場合との比較を通して,授業構成と学習者の変容について分析し報告し,中学校での活用について話し合いたい。
藤江 浩子(福山市立加茂小学校)
小学校生活科や理科の授業で,学習者中心の授業づくりを行った。マトリクスを作成するプロセスで,学習者の反応レベルを見取ることのむつかしさを痛感した。学習者のレベルを適正に見取り,どのような指導が必要かといった判断をどの時点で行うのが効果的かを課題として話し合いたい。
我が国では,学習指導要領に示されている教科目標が,学習者全員に達成させるべき水準として規定されている(文部科学省2008)。この目標は,各教科の親学問の知識体系からの目標であり,知識を効率的に授けることが教師の役割だと考えられてきた。しかし,こうした「知識伝達モデル」の教育は,多様な学力のうちの「知識・理解」の育成には効果的であるが,創造的思考に不可欠な「思考・判断力」の育成には必ずしもつながっていない。すなわち,一斉学習で課題把握と仮説設定を行い,班活動で共同的に実験や観察を行って結果を話しあうが,まとめる内容は決まっており,予定調和の話し合いの末,結論に至るといったプロセスをたどる。これに対して知識創造モデルでは,予定調和の話し合いで終わらず,生まれた新たな課題に,学習者が自主的に参加し,問題解決の実験や観察を行うといった協働学習が展開していく。(Lave. J. & Wenger, E. 1991)。
2 研究の目的とツールの開発
このような学習指導を行うに当たって必要なのは,学習指導案である。これを作成するに当たっては,①単元の目標,②教材の特徴,③学習活動の内容,④学習者の実態,⑤学習指導法,⑥授業者の特性を考慮することが必要である(吉崎,1984)。授業設計に関する研究は多く行われているものの(たとえば,Linn, Davis & Bell,2004, Gagnié, 1977 ),学校教育に特化して研究されたものは少ない。Vygotsky(2001)は,zone of proximal development(ZPD)を提唱し,学習者は周囲の人々との相互作用から新しい能力を獲得し,その結果,ZPDの水準が引き上げられて発達が起きるという考えを示した。また,認知的徒弟制では,①モデリング②コーチング③スキャフォールディング④フェーディングの段階があるという。
この様な考えを取り入れて授業設計を行うためには,教育現場で使いやすく,実際の学習指導とリンクするツールの開発が必要であると考えられる。すなわち,これまでの知識獲得モデルでは,教師の立場から,何を教えるか,どのように教えるかを問題としてきたが,知識創造モデルでは,学習者の立場から,学習者がどのように学ぶのかを問題とする。そのためには,学習者の反応水準を規定し,授業の目標を達成した学習者の反応を想定しておく必要がある。そこで,学習者の反応を想定し,そのレベルを向上させるツールとして,「授業設計・評価マトリクス」を開発した。
本シンポジウムでは,普段行っている従来型学習指導と,「授業設計・評価マトリクス」(以下マトリクスという)を用いて,学習者中心の知識創造型学習指導(Soloway, E. , Guzdial, M. , & Hay, K. E.1994)の両方を行った。波多野(2000)は,学習指導を教師中心型から学習者中心型に変容させる時,重要なのは教師の熟達化であるという。すなわち,マトリクスは,開発した理科以外の教科,領域,校種に用いることによる学習指導の緻密化および,教師の熟達化を支援するための有効なツールとなり得るかを検証することが本研究の目的である。
3 研究の方法
① ツールの構造
21世紀型学力養成のための知識創造モデルの授業づくりを支援するために開発したツール,「授業設計・評価マトリクス」のうち,設計マトリクスの尺度は,小学校理科における問題解決能力の当該学年でつけるべき能力を用いた。すなわち,比較,要因抽出と関係付け,条件制御と計画的な実験観察。多面的思考と推論である(小学校学習指導要領理科編,文部科学省,2008)。(表1,表2)
評価マトリクスは,当該学年における能力に対して4段階のレベルを設定することにより,個々の児童に応じた指導の設計に用いることを想定している。評価は,学習指導要領で求められている到達目標に対して「努力を要する」状況をレベル1,「おおむね満足できる」状況をレベル2,「十分満足できる」状況をレベル3とし,「十分満足できる」状況を上回る高度なレベル4を加味して設計した,それは,学習の結果得られた知識や理解を用いて自律的に探究を行うなどして,新たな知識を創造する学習者の育成を行うためである。学習者の反応を想定する効果の1つは,自分の考えを言語で表現し,納得や共感を得る喜びを味わわせることである。学習者は,言語によって他者の納得を得た経験から,メタ認知し,自己の思考を深めることになるため,さらに自律的段階へと進む。2つめの効果は,教師がこのような高度なレベルの学習者を指導することで,熟達化を図ることが出来るようになることである。
② 研究の方法
本シンポジウムでは,話題提供者が,マトリクス導入前・後の授業を分析した結果について報告し,どの段階で児童の変容をどのように見取り,どのような評価をしたのかを検討する。
授業者が得た学習者の反応の変容や授業設計時,授業中,授業後の評価から,学習者の変容を基に,マトリクスの有効性について討論する。
マトリクスは,理科の授業を想定して作成したものであるが,生活科や総合的な学習の時間への援用の効果と課題についても検討する。
③ 提供する内容
川真田 早苗(徳島市立川島小学校)
総合的な学習の時間において防災教育を行った。
具体的には,学習指導要領において自然災害を取り扱っている理科,社会科を取り上げ,授業設計・評価マトリクス(金沢,2014)を援用した,防災教育の評価マトリクスを作成した。学習者が,自然災害を自分自身の問題としてとらえ,表現するといった学力向上がどのレベルで顕著であったかを,事前,事後の学習を分析し,結果を報告する。本シンポジウムでは,評価マトリクスが,渡邉ら(2001)が指摘する防災教育の問題点にどのように関与するのかを明らかにすることを目的とする。
升岡 智子(東広島市立風早小学校)
多くの学校で,理科の授業は苦手と考えている教師が多い。本シンポジウムで提案された授業設計・評価マトリクスは,ZPDを刺激するプロセスにおいて,学習者の反応を想定する訓練が為されるので,活用することによって授業改善を図ることが容易である点に着目し,苦手意識のある教員に,学習者中心の授業設計を普及する方策についての意見を求めたい。
佐伯 貴昭(熊野町立熊野東中学校)
中学校・第1学年・第2分野「植物の生活と種類」の単元において,観察・実験から得られた情報を処理し,結果を分析して解釈させ,思考力・表現力を育成する。そのため,授業設計・評価マトリクスを用い,授業を行い,用いない場合との比較を通して,授業構成と学習者の変容について分析し報告し,中学校での活用について話し合いたい。
藤江 浩子(福山市立加茂小学校)
小学校生活科や理科の授業で,学習者中心の授業づくりを行った。マトリクスを作成するプロセスで,学習者の反応レベルを見取ることのむつかしさを痛感した。学習者のレベルを適正に見取り,どのような指導が必要かといった判断をどの時点で行うのが効果的かを課題として話し合いたい。