13:30 〜 15:30
[JE04] 教育実習における学習過程へのアプローチ
教師としての学びの充実に向けて
キーワード:教育実習, 実習生, 実習担当教員
【企画趣旨】
現在,社会の急激な変化に伴い,学校現場の抱える課題も複雑化・多様化している。ゆえに,これからの教師は,社会の急速な進展の中で必要な知識・技能を絶え間なく刷新し,教職生活全体を通じて学び続けることが求められる。こうした学び続ける教師を支援するため,教職大学院を中心とした大学院段階の教員養成の改革が進められている(文部科学省,2013)。
一方で,依然として教職に就く大半が学部卒学生である現状を踏まえれば,学士課程における教員養成の充実は重要な課題である。とりわけ,上述のような社会状況の中で,卒業後すぐに日々子どもと接し授業を行うことが求められるため,教科・教職に関する科目だけでなく,それらを学校現場の事実や課題と結びつけながら実践的な指導力を育成していくことが求められている。
こうした実践的な指導力育成の中心的な役割を果たすのが教育実習であることは論を俟たない。しかし,教育実習が実際には現場の各指導教員に任せる部分が大きく,実際にどのような指導や経験を通して実習生の力量が高まっているのかは,いまだ具体的検討が乏しい。教職に対する意識や意欲を高めつつ,実践的な指導力を育成する場とするためにも,教育実習における学びの質を高めていくことが重要であると言える。さらに,上述した学び続ける教師像を鑑みれば,実習生を指導する教師の学びにも焦点を当てることは有益であり,また必要であると考えられる。
そこで,本シンポジウムでは,教育実習における学習過程にアプローチし,そこで何が起こっているのか,学生や実習生を指導する教師は何を経験し,どのように意味づけ,学んでいるかを検討している話題提供者,指定討論者,さらには実際に教育実習に携わる現職教師に問題提起をもらいながら議論を深めたい。そして,実習生,さらには実習生を指導する教師を含め,教師としての学びを充実するための方途を探る予定である。
教育実習生による実習経験の意味づけ
坂本篤史(福島大学)
本話題提供では,教育実習生が実習経験をどのように意味づけているかを数量的に示すと共に,具体的な語りを引用することで,実習経験を通した学生の学習に対して考察を深めることを目的とする。
その際,メタファ法を用いたデータ収集と分析を行った。これは,実習前後の志望度や尺度得点の変化では捉えきれない教育実習経験に対する学生の意味づけを,できるだけ具体的かつ総体的に捉えるためである。それにより,学習の場としての教育実習の可能性を実習生の実感に即して捉えることができると考えた。具体的には,教育実習に関して学生の生成したメタファとその理由を質問紙により収集し,実習前と学生の認識を数量的分析により比較することで,実習経験の意味づけについて,志望度にも着目しながら,全体的な傾向を検討した。
その結果,実習を経験した学生は,実習の限界性に関する認識が高いこと,実習経験を社会人経験として意味づけていることが明らかになった。また,実習を経て進路選択に迷っている学生は,教育実習の経験を意味づけあぐねている可能性が示唆された。教育実習の経験が,学生にとって多様で複雑であると共に,あくまでも教育実習であるという限界性を意識する経験であることが示され,学生自身の教職志望度の程度と相まって単純に教師になる前の準備段階という側面では捉えきれない,教育実習に固有の多面性があることが推測できる。
そこで,教育実習経験に関する学生の語りを分析したところ,「大変さ」や「物足りなさ」といったネガティブな経験に対して,今後の成長への課題を定め,自身を動機づけるような語りが見られた。これらの具体的な語りは,今後の教育実習のあり方を検討する上で重要であると考えられる。
本話題提供では,教育実習生たちの教育実習に対するイメージの全体性と個別具体性を提示することで,教育実習を通した学生の学習について,議論を深める基礎の一つを提示したい。
教育実習指導のあり方と実習指導教員の学習
三島知剛(岡山大学)
本話題提供では,教育実習における指導教員による実習生への指導と指導教員自身の学びについて,実習日誌へのコメントとインタビュー記録を基に報告する。
教育実習は,実習生にとって進路選択や実践的な力量形成の重要な機会である。そのため,教育実習を通して実習生にいかなる学習が生じたかに関する研究は蓄積されてきた(三島,2008;米沢,2008など)。
しかし,教育実習において大きな影響を与えると考えられる実習指導教員の指導のあり方や指導教員自身の学びに関しては,実証的研究の蓄積がいまだ薄い。教育実習自体は教員免許取得のために必要な大学の科目として開講されつつも,実際の指導の主要部分は,個々の実習指導教員にほとんど任されているのが現状だろう。そのため,いかなる指導が実際に行われているかについては,不明瞭な部分が大きい。
そこで,教育実習生をはじめて受け持つ小学校教師1名を対象として,第1に,どのような指導が行われているかを数量的に概観し,第2に,それらの指導の背景にある経験や実践知,信念等を質的データから検討した。
第1の結果について,実習日誌に記されたコメントを分節化してカテゴリを作成し分析を行ったところ,種類として「挨拶」「配慮」「事実提示」「評価」「教示」「提案」「実践説明」の7カテゴリーが抽出された。さらに,その中で,指導に該当する部分に関して分類を行った結果,指導内容として「児童とのかかわり」「授業」「学級経営」の3カテゴリが抽出できた。
その中で特に「実践説明」については,指導教員自身が自らの実践を省察し整理する点において,教師としての学習を促すカテゴリとも言えることが,週ごとに行ったインタビュー記録からも示唆された。また,特に「学級経営」については指導教員自身のこだわりがあり,それを実習生に伝える中で自身の考えが整理されるといった学習を経験していることがインタビュー記録から示唆された。
本話題提供では,これらの分析結果を報告することで,実習指導のあり方や,指導教員の学習の面から教育実習を捉える視点について議論を深めたい。
教師の生涯発達における教育実習の役割と現状―ライフヒストリーの視点から―
姫野完治(北海道大学)
昨今の教員養成では,教職志望学生の実践的指導力を育むべく,教育実習や学校ボランティア等の機会を拡充し,学生が4年間にわたり理論と実践を往還する機会を設ける傾向がある。そして,このような教育現場で実践経験を蓄積することの効果が,様々な側面から解明されてきている。例えば,三島(2007)は教育実習前後の授業・教師・子どもイメージを比較検討し,実習を通して授業を組み立てるイメージが高まること,子どもに対してポジティブとネガティブの両面から捉えるようになることを指摘している。西松(2008)は,教育実習前後の教師効力観や教育実習不安,教師志望度を調査し,教育実習を通して個人的教師効力観が高まること,授業実践不安や児童生徒関係不安が低下すること等を明らかにしている。
これらの研究により,教育実習前後の学生の変容は解明されつつあるが,教育実習を行う学校(附属学校・公立学校,小学校・中学校,学校規模),実習を行う年次,実習形態(集中型・分散型),実習期間,配属学年,一学級あたりの配属実習生数等が各大学で異なることもあり,具体的にどのような実習経験が学生の力量向上や教育観の変容に寄与したのかまでは検討されてこなかった。また,大学入学から卒業までの教員養成全体,そして大学卒業後にわたって継続的に変容プロセスを追跡した研究は少なく,生涯発達の視点から教育実習の効果と課題を解明することが期待されている。
そこで本話題提供では,教職志望学生に対する質問紙調査およびインタビュー,教育実習記録の分析を通して,学生が教育実習で経験している教育活動の実情について報告する。また,大学在学中から卒業後にわたって継続して行ってきている質問紙調査とインタビュー調査の結果をもとに,ライフヒストリーの視点からみた教育実習の役割について検討する。
現在,社会の急激な変化に伴い,学校現場の抱える課題も複雑化・多様化している。ゆえに,これからの教師は,社会の急速な進展の中で必要な知識・技能を絶え間なく刷新し,教職生活全体を通じて学び続けることが求められる。こうした学び続ける教師を支援するため,教職大学院を中心とした大学院段階の教員養成の改革が進められている(文部科学省,2013)。
一方で,依然として教職に就く大半が学部卒学生である現状を踏まえれば,学士課程における教員養成の充実は重要な課題である。とりわけ,上述のような社会状況の中で,卒業後すぐに日々子どもと接し授業を行うことが求められるため,教科・教職に関する科目だけでなく,それらを学校現場の事実や課題と結びつけながら実践的な指導力を育成していくことが求められている。
こうした実践的な指導力育成の中心的な役割を果たすのが教育実習であることは論を俟たない。しかし,教育実習が実際には現場の各指導教員に任せる部分が大きく,実際にどのような指導や経験を通して実習生の力量が高まっているのかは,いまだ具体的検討が乏しい。教職に対する意識や意欲を高めつつ,実践的な指導力を育成する場とするためにも,教育実習における学びの質を高めていくことが重要であると言える。さらに,上述した学び続ける教師像を鑑みれば,実習生を指導する教師の学びにも焦点を当てることは有益であり,また必要であると考えられる。
そこで,本シンポジウムでは,教育実習における学習過程にアプローチし,そこで何が起こっているのか,学生や実習生を指導する教師は何を経験し,どのように意味づけ,学んでいるかを検討している話題提供者,指定討論者,さらには実際に教育実習に携わる現職教師に問題提起をもらいながら議論を深めたい。そして,実習生,さらには実習生を指導する教師を含め,教師としての学びを充実するための方途を探る予定である。
教育実習生による実習経験の意味づけ
坂本篤史(福島大学)
本話題提供では,教育実習生が実習経験をどのように意味づけているかを数量的に示すと共に,具体的な語りを引用することで,実習経験を通した学生の学習に対して考察を深めることを目的とする。
その際,メタファ法を用いたデータ収集と分析を行った。これは,実習前後の志望度や尺度得点の変化では捉えきれない教育実習経験に対する学生の意味づけを,できるだけ具体的かつ総体的に捉えるためである。それにより,学習の場としての教育実習の可能性を実習生の実感に即して捉えることができると考えた。具体的には,教育実習に関して学生の生成したメタファとその理由を質問紙により収集し,実習前と学生の認識を数量的分析により比較することで,実習経験の意味づけについて,志望度にも着目しながら,全体的な傾向を検討した。
その結果,実習を経験した学生は,実習の限界性に関する認識が高いこと,実習経験を社会人経験として意味づけていることが明らかになった。また,実習を経て進路選択に迷っている学生は,教育実習の経験を意味づけあぐねている可能性が示唆された。教育実習の経験が,学生にとって多様で複雑であると共に,あくまでも教育実習であるという限界性を意識する経験であることが示され,学生自身の教職志望度の程度と相まって単純に教師になる前の準備段階という側面では捉えきれない,教育実習に固有の多面性があることが推測できる。
そこで,教育実習経験に関する学生の語りを分析したところ,「大変さ」や「物足りなさ」といったネガティブな経験に対して,今後の成長への課題を定め,自身を動機づけるような語りが見られた。これらの具体的な語りは,今後の教育実習のあり方を検討する上で重要であると考えられる。
本話題提供では,教育実習生たちの教育実習に対するイメージの全体性と個別具体性を提示することで,教育実習を通した学生の学習について,議論を深める基礎の一つを提示したい。
教育実習指導のあり方と実習指導教員の学習
三島知剛(岡山大学)
本話題提供では,教育実習における指導教員による実習生への指導と指導教員自身の学びについて,実習日誌へのコメントとインタビュー記録を基に報告する。
教育実習は,実習生にとって進路選択や実践的な力量形成の重要な機会である。そのため,教育実習を通して実習生にいかなる学習が生じたかに関する研究は蓄積されてきた(三島,2008;米沢,2008など)。
しかし,教育実習において大きな影響を与えると考えられる実習指導教員の指導のあり方や指導教員自身の学びに関しては,実証的研究の蓄積がいまだ薄い。教育実習自体は教員免許取得のために必要な大学の科目として開講されつつも,実際の指導の主要部分は,個々の実習指導教員にほとんど任されているのが現状だろう。そのため,いかなる指導が実際に行われているかについては,不明瞭な部分が大きい。
そこで,教育実習生をはじめて受け持つ小学校教師1名を対象として,第1に,どのような指導が行われているかを数量的に概観し,第2に,それらの指導の背景にある経験や実践知,信念等を質的データから検討した。
第1の結果について,実習日誌に記されたコメントを分節化してカテゴリを作成し分析を行ったところ,種類として「挨拶」「配慮」「事実提示」「評価」「教示」「提案」「実践説明」の7カテゴリーが抽出された。さらに,その中で,指導に該当する部分に関して分類を行った結果,指導内容として「児童とのかかわり」「授業」「学級経営」の3カテゴリが抽出できた。
その中で特に「実践説明」については,指導教員自身が自らの実践を省察し整理する点において,教師としての学習を促すカテゴリとも言えることが,週ごとに行ったインタビュー記録からも示唆された。また,特に「学級経営」については指導教員自身のこだわりがあり,それを実習生に伝える中で自身の考えが整理されるといった学習を経験していることがインタビュー記録から示唆された。
本話題提供では,これらの分析結果を報告することで,実習指導のあり方や,指導教員の学習の面から教育実習を捉える視点について議論を深めたい。
教師の生涯発達における教育実習の役割と現状―ライフヒストリーの視点から―
姫野完治(北海道大学)
昨今の教員養成では,教職志望学生の実践的指導力を育むべく,教育実習や学校ボランティア等の機会を拡充し,学生が4年間にわたり理論と実践を往還する機会を設ける傾向がある。そして,このような教育現場で実践経験を蓄積することの効果が,様々な側面から解明されてきている。例えば,三島(2007)は教育実習前後の授業・教師・子どもイメージを比較検討し,実習を通して授業を組み立てるイメージが高まること,子どもに対してポジティブとネガティブの両面から捉えるようになることを指摘している。西松(2008)は,教育実習前後の教師効力観や教育実習不安,教師志望度を調査し,教育実習を通して個人的教師効力観が高まること,授業実践不安や児童生徒関係不安が低下すること等を明らかにしている。
これらの研究により,教育実習前後の学生の変容は解明されつつあるが,教育実習を行う学校(附属学校・公立学校,小学校・中学校,学校規模),実習を行う年次,実習形態(集中型・分散型),実習期間,配属学年,一学級あたりの配属実習生数等が各大学で異なることもあり,具体的にどのような実習経験が学生の力量向上や教育観の変容に寄与したのかまでは検討されてこなかった。また,大学入学から卒業までの教員養成全体,そして大学卒業後にわたって継続的に変容プロセスを追跡した研究は少なく,生涯発達の視点から教育実習の効果と課題を解明することが期待されている。
そこで本話題提供では,教職志望学生に対する質問紙調査およびインタビュー,教育実習記録の分析を通して,学生が教育実習で経験している教育活動の実情について報告する。また,大学在学中から卒業後にわたって継続して行ってきている質問紙調査とインタビュー調査の結果をもとに,ライフヒストリーの視点からみた教育実習の役割について検討する。