16:00 〜 18:00
[JF01] 教員養成に大学教員はどのように臨むのか
教職課程に関する授業改善の実際
キーワード:教員養成, 授業改善, 教職課程
企画趣旨
高橋知己(上越教育大)
大量採用期の教師がこれから数年たつと退職すると教員の構成は大きく変わることが予想され,そのことを危惧する声があがっている。そのため免許状更新講習,教職大学院の設置など教員の資質向上についての関心やニーズは高くなってきている。加えて多忙による学校現場の教育力低下から,実践的な新採用教員の即戦力としての能力の養成は大学における教員養成に求められてきており,大学における教職課程の授業はその責務を増してきていると考えられる。
いわゆるFD(Faculty-Development)に関する取組みは多くの大学において独自の展開を遂げている。特に教員養成に関しては,大学生,大学院生,現職教員など,対象は異なるが,より実践的な課題解決に取り組めるような授業が求められるようになってきたこと,学校現場における実習的な活動が重要視されてきていることなどから従来タイプのような講義形式ではなく授業科目の特性や学年差や実習経験を含めた多様性に対応した適切な講義・学習形態が必要であろうと思われる。
本シンポジウムにおいては,それぞれの職場において保育者,小・中学校教諭,高等学校教諭等の教員養成課程・教職課程に携わる大学教員の授業構想や学習活動の工夫,教員養成に必要な資質等についてどのように考えているのか,具体的な実践例を交流しながら検討していくことを目的とする。
『教職課程の大学生は初めての授業のどこに難しさ感じているのか』教員養成のスタート地点をとらえる
遠山孝司(新潟医療福祉大学)
大学の教職課程の目的は教員の養成にある。つまり,教師の力量形成は大学教職課程に開始されるものであるといえる。しかし,教師の力量形成に関するこれまでの多くの研究は,力量のあるエキスパートとノービスの差を明らかにし,ノービスが目指すべきゴールとそこまでの距離を明らかにするという視点で行われてきた(赤堀,1989; 浅田,1998;小島,1980;植西,2007)。これは,教員養成において目指すべき目標を明らかにするという点では有効である。だが,教師の力量形成におけるスタート地点に立つ大学生に対して,大学の教員がどのような教育を行うことが「教員養成の第一歩」として好ましいのかを示しているものとはいえない。
筆者は授業経験のない中高保健体育の教員を目指している大学生が初めての模擬授業のどこに難しさを感じたのかについて授業後にインタビューなどを行った。この結果を踏まえて,「よりよい授業をするための能力」である教師の力量形成はどこから始まるのかについて,そして,そのような診断的な評価がもたらす教職課程の改善について考えたい。
※この話題提供で紹介するデータは平成23~25年度に科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究, 課題番号23650553)の交付を受けて収集した。
『保育者養成課程の学生による“記録”をめぐる話し合い』
野口隆子(十文字学園女子大学)
保育者に求められる専門性の一つに,記録を書くことによる省察,実践の評価と改善がある。子どもやクラスについて理解し,自分自身の子どもとの関わりや環境構成等を振り返って記録することが日々の保育にとって重要である。しかし,保育者を目指す学生にとって,実習の中で日誌として記録を書くことは難しい行為である。学生にとって“記録”はどのような意味を持っているのだろうか。保育の場の実践的学びに向かう際,どのような準備が必要なのかを新たに考える必要が生じ,さらに学生にとっても“記録を書く”行為そのものについて考える機会を設けることが重要となるのではないかと考えた。そこで筆者は,保育実習・教育実習を終えた3,4年生を対象に,30名程度が受講する演習授業において,「役立つ記録とは何か」について考えるグループワークと学生同士の発表をおこなった。
グループワークのプロセスにおいて,学生同士感じたことをどう表現すればよいか共同で言葉を探る試みがなされた。「記録とは」や「困難さ」について多く意見が出るが,「役立てるため」という点やそのための方法,書くことによるポジティブな点についてはプロセスの中で段々と意識化・言語化されていくことがわかった。またコメントペーパーの分析から,自分が感じたことを他の学生と共有できることの嬉しさについて述べられていた。学生同士の話し合いとそのための道具,授業者の関わりについて考えたい。
『教育心理学に対する学生の興味関心の育成』
市川洋子(千葉工業大学)
筆者は工科系大学において,教職課程の必修科目である「教育心理学」を80名程度の学生に講義している。おもに2年生の学生が受講しており,いまだ教員になることに迷いを抱くもの,教員免許のみの取得を目指し,最小限の努力で単位のみの取得を目指す学生も多い。そういった状況下で,授業者であった筆者は,まずは学生に教育心理学に「興味」を持ってもらうことを目的として授業を行っていた。具体的には,①教育心理学の問いを自分の問いとして感じ,学生自らが知りたい理解したいという思いを持ちながら授業を聞くこと,②授業中だけにとどまらず授業の時間以外にも,その問いを持続して抱き,情報をあつめ考え続けてもらうこと,を目標に授業を準備し実践した。
しかし,その筆者の掲げた目標は達成されていたのだろうか。学生は授業の中のどのような内容にどのような理由から興味を抱いていたのだろうか。また,反対に,学生が興味を抱けない内容とその理由を学生自身はどのように考えていたのだろうか。さらには,学生本人たちが教育心理学の内容に興味を抱き,授業以外でもその興味を持続し学習を主体的に続けていくために,今後,授業者はどんな工夫・サポートができるだろうか。
今回の発表では,上記の疑問に対する答えを導き出すために,授業者の学生の興味を引き出す工夫(実際の授業方法)を振り返りつつ,さらに授業終了後に学生に書いてもらったレポート(学生が教育心理学の授業において興味を持った/持ちにくかった内容とその原因,学生自身が実施できる改善方法)をもとに検討する。教育心理学に対する学生たちの一時的興味の喚起,さらには持続する興味をどのように教師がサポートできるかについて考えたい。
『問いを立てて作品を読む』絵本を用いた授業づくりの試み
高橋亜希子(北海道教育大学)
国語や道徳の授業づくりに悩む教員養成大学の学生は多い。深い教材解釈が必要で,かつ児童の話し合いも組織しなくてはならないからである。そのため,学生は既存の指導書や指導案に頼りがちで,その内容を越えられないことも多い。筆者は,①学生が教材解釈や話し合いを組織する経験をすること,②身近な題材も教材となりうることを知ること,を目的として『問いを立てて作品を読む』という演習を8年間行ってきた。学生が映画や絵本などのテキストを選び,自らが1.2の設問をたて,ディスカッションを通して,学生同士で題材を読み深めるものである。演習の参加人数は小学校教員養成課程の15名程度で,教育実習直前の3年生の前期に行っている。授業の進め方は①題材を読みあわせる。(絵本を読み聞かせる,映画を見る)②問いを提示する③問いについて個人で考える④ホワイトボードや黒板などを使って互いの意見を交換する。初めの5回は筆者が題材を提供し,問いを立てる(『魔女の宅急便』(なぜキキは飛べなくなったのか?)『百万回生きた猫』『おおきな木』など)後半は司会を学生に交替し,学生が題材を選び問いを立て発表を行う。一つの題材について1,2の問いを立てて話し合う。
授業後の学生のレポートの分析を通して,演習の意義を検討したところ,問いの作成については教材の解釈・理解,自身のねらいの意識化,教材の本質に関わる問いを立てる,話し合いに関しては,他人の意見を聴く,形式の工夫などの点が学生に意識されており,授業づくりに生かすというねらいは達成されていると思われる。本演習は学生の選ぶ絵本・題材が興味深く,学生同士も互いの内面の違いに触れ,互いを理解する機会となっているようである。互いの内面(sense)を重ねつつ分かち合い話し合う機会としての発達援助的な役割もあると思われる。
高橋知己(上越教育大)
大量採用期の教師がこれから数年たつと退職すると教員の構成は大きく変わることが予想され,そのことを危惧する声があがっている。そのため免許状更新講習,教職大学院の設置など教員の資質向上についての関心やニーズは高くなってきている。加えて多忙による学校現場の教育力低下から,実践的な新採用教員の即戦力としての能力の養成は大学における教員養成に求められてきており,大学における教職課程の授業はその責務を増してきていると考えられる。
いわゆるFD(Faculty-Development)に関する取組みは多くの大学において独自の展開を遂げている。特に教員養成に関しては,大学生,大学院生,現職教員など,対象は異なるが,より実践的な課題解決に取り組めるような授業が求められるようになってきたこと,学校現場における実習的な活動が重要視されてきていることなどから従来タイプのような講義形式ではなく授業科目の特性や学年差や実習経験を含めた多様性に対応した適切な講義・学習形態が必要であろうと思われる。
本シンポジウムにおいては,それぞれの職場において保育者,小・中学校教諭,高等学校教諭等の教員養成課程・教職課程に携わる大学教員の授業構想や学習活動の工夫,教員養成に必要な資質等についてどのように考えているのか,具体的な実践例を交流しながら検討していくことを目的とする。
『教職課程の大学生は初めての授業のどこに難しさ感じているのか』教員養成のスタート地点をとらえる
遠山孝司(新潟医療福祉大学)
大学の教職課程の目的は教員の養成にある。つまり,教師の力量形成は大学教職課程に開始されるものであるといえる。しかし,教師の力量形成に関するこれまでの多くの研究は,力量のあるエキスパートとノービスの差を明らかにし,ノービスが目指すべきゴールとそこまでの距離を明らかにするという視点で行われてきた(赤堀,1989; 浅田,1998;小島,1980;植西,2007)。これは,教員養成において目指すべき目標を明らかにするという点では有効である。だが,教師の力量形成におけるスタート地点に立つ大学生に対して,大学の教員がどのような教育を行うことが「教員養成の第一歩」として好ましいのかを示しているものとはいえない。
筆者は授業経験のない中高保健体育の教員を目指している大学生が初めての模擬授業のどこに難しさを感じたのかについて授業後にインタビューなどを行った。この結果を踏まえて,「よりよい授業をするための能力」である教師の力量形成はどこから始まるのかについて,そして,そのような診断的な評価がもたらす教職課程の改善について考えたい。
※この話題提供で紹介するデータは平成23~25年度に科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究, 課題番号23650553)の交付を受けて収集した。
『保育者養成課程の学生による“記録”をめぐる話し合い』
野口隆子(十文字学園女子大学)
保育者に求められる専門性の一つに,記録を書くことによる省察,実践の評価と改善がある。子どもやクラスについて理解し,自分自身の子どもとの関わりや環境構成等を振り返って記録することが日々の保育にとって重要である。しかし,保育者を目指す学生にとって,実習の中で日誌として記録を書くことは難しい行為である。学生にとって“記録”はどのような意味を持っているのだろうか。保育の場の実践的学びに向かう際,どのような準備が必要なのかを新たに考える必要が生じ,さらに学生にとっても“記録を書く”行為そのものについて考える機会を設けることが重要となるのではないかと考えた。そこで筆者は,保育実習・教育実習を終えた3,4年生を対象に,30名程度が受講する演習授業において,「役立つ記録とは何か」について考えるグループワークと学生同士の発表をおこなった。
グループワークのプロセスにおいて,学生同士感じたことをどう表現すればよいか共同で言葉を探る試みがなされた。「記録とは」や「困難さ」について多く意見が出るが,「役立てるため」という点やそのための方法,書くことによるポジティブな点についてはプロセスの中で段々と意識化・言語化されていくことがわかった。またコメントペーパーの分析から,自分が感じたことを他の学生と共有できることの嬉しさについて述べられていた。学生同士の話し合いとそのための道具,授業者の関わりについて考えたい。
『教育心理学に対する学生の興味関心の育成』
市川洋子(千葉工業大学)
筆者は工科系大学において,教職課程の必修科目である「教育心理学」を80名程度の学生に講義している。おもに2年生の学生が受講しており,いまだ教員になることに迷いを抱くもの,教員免許のみの取得を目指し,最小限の努力で単位のみの取得を目指す学生も多い。そういった状況下で,授業者であった筆者は,まずは学生に教育心理学に「興味」を持ってもらうことを目的として授業を行っていた。具体的には,①教育心理学の問いを自分の問いとして感じ,学生自らが知りたい理解したいという思いを持ちながら授業を聞くこと,②授業中だけにとどまらず授業の時間以外にも,その問いを持続して抱き,情報をあつめ考え続けてもらうこと,を目標に授業を準備し実践した。
しかし,その筆者の掲げた目標は達成されていたのだろうか。学生は授業の中のどのような内容にどのような理由から興味を抱いていたのだろうか。また,反対に,学生が興味を抱けない内容とその理由を学生自身はどのように考えていたのだろうか。さらには,学生本人たちが教育心理学の内容に興味を抱き,授業以外でもその興味を持続し学習を主体的に続けていくために,今後,授業者はどんな工夫・サポートができるだろうか。
今回の発表では,上記の疑問に対する答えを導き出すために,授業者の学生の興味を引き出す工夫(実際の授業方法)を振り返りつつ,さらに授業終了後に学生に書いてもらったレポート(学生が教育心理学の授業において興味を持った/持ちにくかった内容とその原因,学生自身が実施できる改善方法)をもとに検討する。教育心理学に対する学生たちの一時的興味の喚起,さらには持続する興味をどのように教師がサポートできるかについて考えたい。
『問いを立てて作品を読む』絵本を用いた授業づくりの試み
高橋亜希子(北海道教育大学)
国語や道徳の授業づくりに悩む教員養成大学の学生は多い。深い教材解釈が必要で,かつ児童の話し合いも組織しなくてはならないからである。そのため,学生は既存の指導書や指導案に頼りがちで,その内容を越えられないことも多い。筆者は,①学生が教材解釈や話し合いを組織する経験をすること,②身近な題材も教材となりうることを知ること,を目的として『問いを立てて作品を読む』という演習を8年間行ってきた。学生が映画や絵本などのテキストを選び,自らが1.2の設問をたて,ディスカッションを通して,学生同士で題材を読み深めるものである。演習の参加人数は小学校教員養成課程の15名程度で,教育実習直前の3年生の前期に行っている。授業の進め方は①題材を読みあわせる。(絵本を読み聞かせる,映画を見る)②問いを提示する③問いについて個人で考える④ホワイトボードや黒板などを使って互いの意見を交換する。初めの5回は筆者が題材を提供し,問いを立てる(『魔女の宅急便』(なぜキキは飛べなくなったのか?)『百万回生きた猫』『おおきな木』など)後半は司会を学生に交替し,学生が題材を選び問いを立て発表を行う。一つの題材について1,2の問いを立てて話し合う。
授業後の学生のレポートの分析を通して,演習の意義を検討したところ,問いの作成については教材の解釈・理解,自身のねらいの意識化,教材の本質に関わる問いを立てる,話し合いに関しては,他人の意見を聴く,形式の工夫などの点が学生に意識されており,授業づくりに生かすというねらいは達成されていると思われる。本演習は学生の選ぶ絵本・題材が興味深く,学生同士も互いの内面の違いに触れ,互いを理解する機会となっているようである。互いの内面(sense)を重ねつつ分かち合い話し合う機会としての発達援助的な役割もあると思われる。