The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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自主企画シンポジウム

学校に役立つ認知行動療法(CBT) 

児童・生徒,教員,保護者の支援に応用するCBT

Thu. Aug 27, 2015 4:00 PM - 6:00 PM 302B (3階)

企画・話題提供:松本有貴(千葉大学), 司会・話題提供:石本雄真(鳥取大学), 話題提供:南谷則子#(千葉大学), 指定討論:神村栄一(新潟大学)

4:00 PM - 6:00 PM

[JF02] 学校に役立つ認知行動療法(CBT)

児童・生徒,教員,保護者の支援に応用するCBT

松本有貴1, 石本雄真2, 南谷則子#3, 神村栄一4 (1.千葉大学, 2.鳥取大学, 3.千葉大学, 4.新潟大学)

Keywords:認知行動療法, 子どものメンタルヘルス, 教員・保護者のQOL

企画趣旨
松本有貴(千葉大学)
近年,子どもの問題は多様化・深刻化しており,それらの問題とメンタルヘルスとの間には密接な関連があると考えられる。学校や職場で体験する困難の60%が不安とうつの障害を理由とするものであるという報告もあり(Andrews, 2004),対応が急がれている。
日本においては,児童・生徒の相談相手は,学級担任が69.5%,担任以外の教職員が14.7%である(文部科学省,2012)。そういう状況下で,半数以上の小・中学校の教員が心理教育的アプローチは必要だと考えているものの,経験者は少なく限定的な治療要素しか使用されておらず,そのようなアプローチを行う上では研修や専門家との連携が必要だと考えている(岡崎・安藤,2012)。
学校教育の目的は,学習のためのスキルだけではなく,生活スキルまたは社会的スキルの習熟にある。人の生きやすさを支援するスキル習得という認知行動療法(CBT)の学習性は学校教育になじむといえる(神村,2014)。また,教員が研修においてCBTのスキルを習得し,学級で効果的に用いて子どもに対応することで,児童・生徒のメンタルヘルスの向上が期待される。また,教員がCBTのスキルを習得することは教員の自信と健康を高めることにもなると期待される。
子どもの不安・抑うつ,その他の問題に対するCBTの治療効果は,先行研究やメタ分析において明らかであり,児童・生徒を対象にしたCBTプロトコールは500以上も利用されている(Macklem,2011 参照)。しかしながら,日本の学校現場に適したCBTには何が必要なのかという議論はまだ不十分である。このため,日本の子どもを対象とし,効果的に教員が応用できるCBTプロトコールの開発と効果検証は学校現場への介入支援が喫緊に必要とされている現状では必須課題である。
本シンポジウムでは,学校における子ども,教員,保護者に対する支援にCBTを応用した研究の内容と結果をもとに,日本の学校に役立つCBTについて議論を深めたい。
それにより,学校におけるCBTの応用がより効果的に行われることに貢献できると願うものである。

小学校における帰りの会を使った15分モジュールのCBTスキル訓練
松本有貴(千葉大学)
心理教育的アプローチには主にCBTの理論やスキルが用いられており,社会的情動的スキル(コミュニケーションや感情に関するスキル)を育成することで不安症やうつ病などの介入・予防に貢献している。CBTとは,認知と感情と行動の関係に注目し,その特有の関連性に働きかけて,その人が困っている状況や問題に変化をもたらそうとする心理療法である。このアプローチを用いて学級の問題に対応することができると考える(Webster-Stratton, 2013など)。
しかし,学校では教科指導の時間数を確保することが優先されるために,心理教育に使える時間が限られている。そこで,短時間で効果的な応用が期待されるのだが,帰りの会などを使った短い時間でできるCBTスキル訓練の授業は子どものメンタルヘルスに効果を発揮するのだろうか。本研究では,4年生のクラス(30名)で15分モジュール6回を実施したCBTスキル訓練群と,10回セッションの子どものCBTプログラム群,コントロール群としての待機群の効果を比較検証した。各群とも,実践者は学級担任であった。
効果測定として,児童は担任の監督のもと,授業の前後で,子どもの不安尺度(SCAS: Spence, 1997),児童用抑うつ性尺度(DSRS: Birleson, 1981),子どもの強さと困難さのアンケート(SDQ: Goodman, 1997)に答えた。
上記の実践研究について結果を報告し,日本の学校現場に合ったCBTの応用を提案する。

不登校の中学生をもつ親を対象とするCBT支援プログラム
南谷則子(千葉大学)
不登校のきっかけとなった原因はさまざまであり,また複合的なものである(Kearney, 2003)。我が国においては,原因として,本人の不安などの情緒的混乱が25.1%,親子関係をめぐる問題など家庭に関わる状況が17.4%と報告され,学校でのいじめや友人関係の問題だけではなく,家族に関する要因が占める割合は低くないものとなっている。
欧米においては,認知行動的アプローチに基づく心理教育プログラムが,子どもや青少年のメンタルヘルスの向上と予防に効果があること(Webster-Stratton,2002,佐藤ら監訳,2013)は実証されており,親セッションも伴う不登校に対してのCBTによるグループへの介入(king et al.,1998)も行われている。しかし,不登校の生徒自身にCBTプログラムに参加を促すことは難しいと思われる。
親の不安と子どもの不安の関連性については多くの知見(Livingston et al., 1985等)が指摘しており,家庭や地域の要因が子どもの不安感の形成に関わるという報告(Drake&Ginsburg, 2012)もある。更に親と子どもは双方向的に相補的な影響を与え合っているとも主張されている。(Wendy et al., 2009)そうであるならば,親の行動を変えようとしない介入は効果的であるとは考えにくく(Spence et al., 2000),保護者支援は非常に有効な支援方法であると思われる。(磯部,2012)
本研究では,不登校の中学生を抱える親に対して,認知行動療法に基づくメンタルヘルス向上のためのグループアプローチを行い,親自身の心理状態の改善を検証した。親の不安感や抑うつ感を和らげることを通して家族内の心理的緊張のレベルを低下させ,子どもの心理的な健康度の向上に寄与することも間接的な効果として期待している。具体的にはストレスマネジメントを主な目的とする,隔週6回120分のグループプログラムを実施した。
効果測定は,参照群は設置せずにプログラム実施前後,フォローアップ後のWHO QOL26(Geneva,WHO,1997),DASS(Lovibond&Lovibond, 1995)及び日本語版WCCLコーピングスケール(Nakano.K, 1991)の数値を比べた。
上記の実践研究の報告を行う。

小学校教員のもつ心理プログラムへの受容感―パッケージ化されたプログラムと短時間プログラムの比較―
石本雄真(鳥取大学)
現在日本では中学生の不登校率が2.6%(文部科学省,2013),中学1年生のうつ病時点有病率が4.1%(傳田ら,2008)など,学齢期の不適応問題が拡がっている。児童生徒の不適応問題への対策として,欧米を中心に学校で行われる心理プログラムが広く実施されており,日本においても導入が期待される。
しかしながら,日本の学校環境と欧米の学校環境は同一ではなく,欧米のプログラムをそのまま日本において実施することは困難な場合がある。たとえば,日本においては1授業時間をすべて使うプログラムを10回15回と実施することに対しては時間の確保の面で困難であるとする学校が多い。このことから,日本においては1授業時間をすべて使わず,短時間で実施が可能であるプログラムを開発,導入していくことも必要とされよう。また,日本の実態に合わせたプログラムを導入するうえで,教員がプログラムに対して受容感をもつことは重要な条件であると考えられる。心理プログラムを学校で行う場合,プログラムを実施するのは教員であり,教員がプログラムに対する受容感をもつことで持続的に利用され定着する可能性を強くするといえる。
本報告では,10回セッションの子どものCBTプログラム(フレンズ・フォー・ライフ),15分モジュール6回の短時間CBTスキル訓練のそれぞれを実施した教員やそれらが実施された学校に在籍する教員のプログラムに対する受容感についての調査結果をもとに,それぞれのプログラムの優れている点,日本の学校環境において実施するうえで改善を必要とする点について報告を行う。それらに基づき,日本の学校環境に適応した心理プログラムとはどのようなものであるのかについて議論を深めたい。