10:00 〜 12:00
[JG01] 再考,学校教育相談の固有性・独自性(その2)
隣接領域(特別支援教育)との異同の検討を通して
キーワード:学校教育相談, 特別支援教育
【企画趣旨】
大野(1996)が,日本における学校教育相談の展開史を総括するとともに,学校教育相談の包括的な概念規定を社会に発信して,学校教育相談の混沌とした固有性・独自性を明確にしてから早20年が経とうとしている。
その後,学校教育相談の隣接領域と考えられる様々な領域で,新たな動きが展開されてきている。石隈(1999)は,『学校心理学-教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス』を刊行し,学校心理学を広く紹介した。また,『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』(文部科学省,2003)を受け,特殊教育から特別支援教育へ移行し,2007年度より全ての学校で本格実施となった。さらに,約30年ぶりに『生徒指導の手引』が改訂され,生徒指導の基本書として『生徒指導提要』(文部科学省,2010)が刊行され,新たな展開が始まっている。加えて,『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について』(中央教育審議会,2011)等に見られるように,従来の進路指導からキャリア教育への移行が進み,その実践が蓄積されようとしている。
こうした流れの中,生徒指導,学校教育相談,特別支援教育,キャリア教育の各々の活動の明確な整理がなされないまま,学校現場は混乱した状況にある。そのため,学校教育相談の固有性・独自性というものが,再び混沌とした状況に陥っており,学校教育相談の立場としても,他の隣接領域の立場としても,この状況を整理することの意義は大きいと考える。
そこで,本自主シンポジウムでは,3年計画で学校教育相談と隣接領域との異同を検討し明確にする。そして,学校教育相談の固有性・独自性を再度整理し直し,学校現場の混乱の収拾に寄与するとともに,学校教育相談の将来展望を示す契機とする。なお,隣接領域としては,生徒指導,キャリア教育(進路指導),特別支援教育,学校心理学の4領域に注目する。そして,1年次に生徒指導とキャリア教育,2年次に特別支援教育,3年次に学校心理学を取り上げて検討する。そして,総括と展望を示す予定である。
【話題提供要旨】
特別支援教育の理念と意義
福岡教育大学 納富恵子
日本の特別支援教育は,「従来の特殊教育の対象の障害だけでなくLD,ADHD,高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて,その一人一人の教育的ニーズを把握して,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである。」対象となる児童生徒は,通常の学級にも約6%在籍し,就学先の決定も,障害種別や重症度による学ぶ場の決定から個のニーズに応じるという大転換が起こった。
この変化の背景には,米国と比較し通常の学級に在籍する発達障害のある児童生徒への教育や臨床サービスの遅れや乏しさ,脳科学や遺伝子研究の進歩による脳機能不全の解明,脳の情報処理の特性を反映する心理検査の開発,二次障害による不適応や非行や犯罪や成人期におよぶ影響への認知等があったと考えられる。さらに日本の現状を憂慮した,保護者や関係者の権利擁護活動も推進力となった。
特別支援教育は,対象児と家族を中心におき,学際的な横のチーム連携と,自立や社会参加に向けて,就学前から,成人期まで個別の支援計画を引き継いでいく計画的支援が中心となる。未来志向で組織的・予防的・計画的である。一方,学校教育相談は,障害の有無にかかわらず,不適応が顕在化しての支援の開始が多いのではないだろうか。共通点は,児童生徒一人一人の健やかな成長を目指したものであるところと考える。
当日は,具体例として,大学の特別支援教育支援センターの実践および福岡県下で教育委員会と協力して行った特別支援教育推進の実践も一部紹介したい。
特別支援教育における支援の実際,及び学校教育相談における児童生徒支援との異同
早稲田大学 高橋あつ子
学校教育相談は,その内容が問題解決的教育相談(三次支援)から予防的(二次支援)・開発的教育相談(一次支援)へ,その実践主体が教師個人から校内組織へ軸足を移してきた過程にその成熟を見ることができる。特別支援教育の推進は,この2つが基盤になると同時に,それらをさらに盤石にしていく可能性を有している。
通常の学級における特別支援教育は,個別的な三次支援の発想から,集団場面で行う支援を工夫する潮流を作り,一次支援を強固にする契機となる。教室内で多様なニーズに応じる程に,ユニバーサルデザインをも取り入れた指導につながっていく。これらの工夫は,教師個人に依存していては不十分である。組織レベルでニーズの把握,実態把握の方法,個別の指導計画作成と支援の実行と評価などを共有し,支援体制を築き充実させてきている。
しかし,特別支援教育が学校教育相談と異なる点もある。学校教育相談における児童生徒支援では,問題行動を起こさざるをえなかった子どもの心を見つめ,それに寄り添う支援を行ってきた。それによって,自ら次の一歩を踏み出せるからである。
一方,特別支援教育では,これだけではなく「先を照らす支援」が求められる。例えば,LDの場合,強み,弱みの把握から,合理的配慮を検討する必要がある。ADHDには,自己を振り返り行動調整に役立つ対処法を選ぶ援助が求められる。ASDには,見通しを立て,モニタリグを機能させ,共感性や対人関係スキルの開発を念頭におく必要がある。
組織レベルでは,目標設定の重要性を再確認したい。例えば,別室登校の子に,情緒の安定や教室復帰を願う方向性は共有できていた。が,それに加え,達成できる水準と時期を明示する目標を立てることが求められる。これによって,子どもの問題から達成させうるかどうか教師の問題に転換される。また,自らを成長させたい主体を育てる視点では,本人と目標を立て,振り返る実践も求められる。
学校教育相談に立脚した相談室担当教員として取り組んだ特別支援教育の実践から
東京都立新宿山吹高等学校 茅野眞起子
本校は単位制・無学年制の都立高校であり,入学する生徒の70%以上が不登校経験者である。そのため,開校当初(平成2年)から相談室が設置され,専属の相談室担当教員が2名常駐し,新入生全員面談や生徒・保護者の相談,教員へのコンサルテーション,作戦会議(石隈,1999),教員研修,生徒へのソーシャルスキル教育の実施など,学校の総合デパートとして学校教育相談に取り組んでいる。
生徒は不登校経験者が多いため,ほとんどの生徒が集団生活や人間関係への不安を抱えている。そして,近年,特別支援教育対象の生徒も増えている。しかし,特別支援教育対象の生徒に対しても,大野(1998)のいう,子どもと丁寧に〈関わる〉,学校を組織的に〈耕す〉,チーム支援で〈凌ぐ〉,関係機関と〈繋げる〉という学校教育相談が基本になっていることは言うまでもない。その上で,自閉傾向が強くパニックを起こしやすい生徒なども,相談室をキーステーションにしながら,学習や生活面でのサポートを校内全体で共有し対応していくことで,学校生活を通して成長し,大学などへの進学に至るケースが多い。特別支援教育と学校教育相談は多くの点で共通性があると考える。
しかし,個別相談における支援内容については,重点の置き方に違いがある。特別支援教育対象の生徒への支援は,環境調整や枠組み作り,学習面や生活面での具体的な支援に重点を置くが,心理面での不安や悩みを抱えた生徒への支援は,カウンセリングによる生徒の心のエネルギーの回復に重点を置いている。
学校教育相談と特別支援教育の校内体制づくり
―スクール・カウンセラーの経験をふまえて―
福岡教育大学 西山久子
学校教育相談の要は,教師である。彼らが,問題解決にととどまることなく,より良い成長のために学習面・進路面・生活面の課題に対して,包括的な支援を行うことが主要な視座である。
学校での様々な役割において,学校教育相談への関与の仕方は異なる。教育相談担当者らは,体制づくりから教育相談プログラム(当該学校の教育相談の全体像)の構築までを担うことができると,校内の学校適応援助は促進される。そして校長などの管理職も,ミドルリーダーも,最前線で子どもたちの成長を支援する学級担任も,それぞれが行うべき役割をはたすことで,強固な教育相談体制は完成する。
しかし,学習面・進路面・生活面で,課題解決からより良い成長までを包括的に網羅した学校教育相談では,「解(支援策)」の見出しにくい一群の子どもたちがいる。特別支援教育の知見は,そこに示唆を与えることができる。子どものより良い社会適応を包括的に促進する学校教育相談では,全ての子どもに必要に応じた支援を行い,同時に成長促進的な心理教育的なアプローチを学校場面で提供する。
特別支援教育と比較すると,いずれも成長促進的取組と言えるが,学校教育相談における支援は,被援助者が自身の課題を自ら把握し,受け入れられるよう「寄り添う」が,特別支援教育では,むしろコーチング的に課題の気づきに迫ることから,両者の課題解決のアプローチに異なる点があると考える。
大野(1996)が,日本における学校教育相談の展開史を総括するとともに,学校教育相談の包括的な概念規定を社会に発信して,学校教育相談の混沌とした固有性・独自性を明確にしてから早20年が経とうとしている。
その後,学校教育相談の隣接領域と考えられる様々な領域で,新たな動きが展開されてきている。石隈(1999)は,『学校心理学-教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス』を刊行し,学校心理学を広く紹介した。また,『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』(文部科学省,2003)を受け,特殊教育から特別支援教育へ移行し,2007年度より全ての学校で本格実施となった。さらに,約30年ぶりに『生徒指導の手引』が改訂され,生徒指導の基本書として『生徒指導提要』(文部科学省,2010)が刊行され,新たな展開が始まっている。加えて,『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について』(中央教育審議会,2011)等に見られるように,従来の進路指導からキャリア教育への移行が進み,その実践が蓄積されようとしている。
こうした流れの中,生徒指導,学校教育相談,特別支援教育,キャリア教育の各々の活動の明確な整理がなされないまま,学校現場は混乱した状況にある。そのため,学校教育相談の固有性・独自性というものが,再び混沌とした状況に陥っており,学校教育相談の立場としても,他の隣接領域の立場としても,この状況を整理することの意義は大きいと考える。
そこで,本自主シンポジウムでは,3年計画で学校教育相談と隣接領域との異同を検討し明確にする。そして,学校教育相談の固有性・独自性を再度整理し直し,学校現場の混乱の収拾に寄与するとともに,学校教育相談の将来展望を示す契機とする。なお,隣接領域としては,生徒指導,キャリア教育(進路指導),特別支援教育,学校心理学の4領域に注目する。そして,1年次に生徒指導とキャリア教育,2年次に特別支援教育,3年次に学校心理学を取り上げて検討する。そして,総括と展望を示す予定である。
【話題提供要旨】
特別支援教育の理念と意義
福岡教育大学 納富恵子
日本の特別支援教育は,「従来の特殊教育の対象の障害だけでなくLD,ADHD,高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて,その一人一人の教育的ニーズを把握して,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである。」対象となる児童生徒は,通常の学級にも約6%在籍し,就学先の決定も,障害種別や重症度による学ぶ場の決定から個のニーズに応じるという大転換が起こった。
この変化の背景には,米国と比較し通常の学級に在籍する発達障害のある児童生徒への教育や臨床サービスの遅れや乏しさ,脳科学や遺伝子研究の進歩による脳機能不全の解明,脳の情報処理の特性を反映する心理検査の開発,二次障害による不適応や非行や犯罪や成人期におよぶ影響への認知等があったと考えられる。さらに日本の現状を憂慮した,保護者や関係者の権利擁護活動も推進力となった。
特別支援教育は,対象児と家族を中心におき,学際的な横のチーム連携と,自立や社会参加に向けて,就学前から,成人期まで個別の支援計画を引き継いでいく計画的支援が中心となる。未来志向で組織的・予防的・計画的である。一方,学校教育相談は,障害の有無にかかわらず,不適応が顕在化しての支援の開始が多いのではないだろうか。共通点は,児童生徒一人一人の健やかな成長を目指したものであるところと考える。
当日は,具体例として,大学の特別支援教育支援センターの実践および福岡県下で教育委員会と協力して行った特別支援教育推進の実践も一部紹介したい。
特別支援教育における支援の実際,及び学校教育相談における児童生徒支援との異同
早稲田大学 高橋あつ子
学校教育相談は,その内容が問題解決的教育相談(三次支援)から予防的(二次支援)・開発的教育相談(一次支援)へ,その実践主体が教師個人から校内組織へ軸足を移してきた過程にその成熟を見ることができる。特別支援教育の推進は,この2つが基盤になると同時に,それらをさらに盤石にしていく可能性を有している。
通常の学級における特別支援教育は,個別的な三次支援の発想から,集団場面で行う支援を工夫する潮流を作り,一次支援を強固にする契機となる。教室内で多様なニーズに応じる程に,ユニバーサルデザインをも取り入れた指導につながっていく。これらの工夫は,教師個人に依存していては不十分である。組織レベルでニーズの把握,実態把握の方法,個別の指導計画作成と支援の実行と評価などを共有し,支援体制を築き充実させてきている。
しかし,特別支援教育が学校教育相談と異なる点もある。学校教育相談における児童生徒支援では,問題行動を起こさざるをえなかった子どもの心を見つめ,それに寄り添う支援を行ってきた。それによって,自ら次の一歩を踏み出せるからである。
一方,特別支援教育では,これだけではなく「先を照らす支援」が求められる。例えば,LDの場合,強み,弱みの把握から,合理的配慮を検討する必要がある。ADHDには,自己を振り返り行動調整に役立つ対処法を選ぶ援助が求められる。ASDには,見通しを立て,モニタリグを機能させ,共感性や対人関係スキルの開発を念頭におく必要がある。
組織レベルでは,目標設定の重要性を再確認したい。例えば,別室登校の子に,情緒の安定や教室復帰を願う方向性は共有できていた。が,それに加え,達成できる水準と時期を明示する目標を立てることが求められる。これによって,子どもの問題から達成させうるかどうか教師の問題に転換される。また,自らを成長させたい主体を育てる視点では,本人と目標を立て,振り返る実践も求められる。
学校教育相談に立脚した相談室担当教員として取り組んだ特別支援教育の実践から
東京都立新宿山吹高等学校 茅野眞起子
本校は単位制・無学年制の都立高校であり,入学する生徒の70%以上が不登校経験者である。そのため,開校当初(平成2年)から相談室が設置され,専属の相談室担当教員が2名常駐し,新入生全員面談や生徒・保護者の相談,教員へのコンサルテーション,作戦会議(石隈,1999),教員研修,生徒へのソーシャルスキル教育の実施など,学校の総合デパートとして学校教育相談に取り組んでいる。
生徒は不登校経験者が多いため,ほとんどの生徒が集団生活や人間関係への不安を抱えている。そして,近年,特別支援教育対象の生徒も増えている。しかし,特別支援教育対象の生徒に対しても,大野(1998)のいう,子どもと丁寧に〈関わる〉,学校を組織的に〈耕す〉,チーム支援で〈凌ぐ〉,関係機関と〈繋げる〉という学校教育相談が基本になっていることは言うまでもない。その上で,自閉傾向が強くパニックを起こしやすい生徒なども,相談室をキーステーションにしながら,学習や生活面でのサポートを校内全体で共有し対応していくことで,学校生活を通して成長し,大学などへの進学に至るケースが多い。特別支援教育と学校教育相談は多くの点で共通性があると考える。
しかし,個別相談における支援内容については,重点の置き方に違いがある。特別支援教育対象の生徒への支援は,環境調整や枠組み作り,学習面や生活面での具体的な支援に重点を置くが,心理面での不安や悩みを抱えた生徒への支援は,カウンセリングによる生徒の心のエネルギーの回復に重点を置いている。
学校教育相談と特別支援教育の校内体制づくり
―スクール・カウンセラーの経験をふまえて―
福岡教育大学 西山久子
学校教育相談の要は,教師である。彼らが,問題解決にととどまることなく,より良い成長のために学習面・進路面・生活面の課題に対して,包括的な支援を行うことが主要な視座である。
学校での様々な役割において,学校教育相談への関与の仕方は異なる。教育相談担当者らは,体制づくりから教育相談プログラム(当該学校の教育相談の全体像)の構築までを担うことができると,校内の学校適応援助は促進される。そして校長などの管理職も,ミドルリーダーも,最前線で子どもたちの成長を支援する学級担任も,それぞれが行うべき役割をはたすことで,強固な教育相談体制は完成する。
しかし,学習面・進路面・生活面で,課題解決からより良い成長までを包括的に網羅した学校教育相談では,「解(支援策)」の見出しにくい一群の子どもたちがいる。特別支援教育の知見は,そこに示唆を与えることができる。子どものより良い社会適応を包括的に促進する学校教育相談では,全ての子どもに必要に応じた支援を行い,同時に成長促進的な心理教育的なアプローチを学校場面で提供する。
特別支援教育と比較すると,いずれも成長促進的取組と言えるが,学校教育相談における支援は,被援助者が自身の課題を自ら把握し,受け入れられるよう「寄り添う」が,特別支援教育では,むしろコーチング的に課題の気づきに迫ることから,両者の課題解決のアプローチに異なる点があると考える。