日本教育心理学会第57回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

学校でうまく生活するために必要なスキルと環境は何か

学校不適応や発達障害のアセスメント・支援について考える

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 303・304 (3階)

企画・司会:橋本創一(東京学芸大学), 話題提供:石津憲一郎(富山大学), 熊谷亮(東京学芸大学), 工藤浩二(東京学芸大学), 石本豪(新潟医療福祉大学), 指定討論:堀田香織(埼玉大学)

10:00 〜 12:00

[JG05] 学校でうまく生活するために必要なスキルと環境は何か

学校不適応や発達障害のアセスメント・支援について考える

橋本創一1, 石津憲一郎2, 熊谷亮3, 工藤浩二4, 石本豪5, 堀田香織6 (1.東京学芸大学, 2.富山大学, 3.東京学芸大学, 4.東京学芸大学, 5.新潟医療福祉大学, 6.埼玉大学)

キーワード:学校不適応, 発達障害, 支援

KEY WORD;学校不適応,発達障害,アセスメント,支援

【企画趣旨/討論;橋本創一/堀田香織】
児童・生徒・学生の学校・大学生活の適応を考える場合,本人の適応感や適応スキルの獲得状況,自身の特性などを自己評価する方法,本人に気づきを促すために教師らによる他者評価をおこなった上で本人・保護者と共に考えていく手立て等があろう。自分らしく活動し表現しながら,環境とうまく折り合いをつけて振る舞うことが必要であり,それを周囲が支援する。第一におこなうべき支援とは,本人が生活しやすくなるように環境を調整することであろう。個人の適応スキルの獲得状況・行動特性と,学級学校の活動・集団参加で要請される行動やスキルにおいて,どちらかに偏る,あるいは無理をすることなく,調節しながらうまく折り合いをつけることが求められる。小学校・中学校・高等学校・大学といった学校システムの違いによって,個人に求められるスキルは異なる。一方で,現況において各々の教育の場における支援の質や量が大きく異なっていることが問題視されている。支援が必要とされる児童・生徒・学生は,個人活動と集団参加のスキルの獲得そのものに不充分さや偏りがあるなかで,発達期ごとの課題をうまく乗り越えることができず,なおかつ,学校による支援がまちまちである場合,適切な支援の導入や環境設定に至れない。本シンポジウムでは,学校適応の観点を整理すると共に,アセスメント法の導入,実際に学校不適応を示している者や発達障害者への実践的研究,学校適応の支援のあり方などを紹介・提案し,討論する。

【Rep.1;子どもの学校適応を「生きる」という視点から考えてみる/石津憲一郎】
子どもは生活の多くの時間を学校という場で過ごし,社会の中で必要とされる様々なスキルを学校生活の中で身につけていくこととなる。それゆえ,学校という社会や学校文化に適応していくこと(子どもにとっての社会的適応)は重要といえる。一方で,学校文化には適応しながらも心身の不調を訴えたりする子たちは過剰適応の側面から研究されてきた。そうした研究からは,社会的適応を保つために心理的適応を犠牲とする子どもたちが存在していることが示され,環境に受動的に合わせるだけの適応方略には限界も指摘される。
さて,学校の中で身につけていく種々のスキルは,児童期から思春期,青年期において様々な役割を担う中で育っていくものである。一方で,自分が担ってきたり期待されてきたりした役割やキャラクターに違和感を覚えることもある。「自らのありよう」についてときに悩みながら,それまでの役割を再構成しつつ,キャリアを形成していくことも若者の発達課題である。
上述したように学校に適応することは重要と言えるが,「自らの人生を生きていく」という少しマクロな視点に立脚した場合,子どもの学校適応を支えるということはどのように捉えられるのだろうか。ここでの話題提供では,子どもの学校適応の支援について,「学校場面への適応」という文脈と,「自らの人生を生きる」という文脈の両側面から扱えないかを考えてみたい。具体的には,転校した高校生のケースと受験期に行った中学生向けグループワークの実践から,キャリア形成と教育臨床心理学をどのようにコラボレートさせていくかについて,話題の提供を試みたいと考えている。

【Rep.2;学校適応スキルに基づいたアセスメント/熊谷 亮】
発達障害や学校不適応を示した児童・生徒は,学校現場において学習面や生活面,対人関係面など様々な困難を抱えることが多い。支援の際には,他者評定に基づく客観的なアセスメントにより個々の適応スキルの獲得状況や特別な支援ニーズを把握した上で支援策を考え実践することが求められる。そのようなスキルやニーズを把握し,支援の場や強度を測定するアセスメントツールであるASIST学校適応スキルプロフィール(橋本他,2014)が開発・活用されている。ただし,適応という視点で考えたとき,他者から見てうまくやっているかを評価するだけでは不十分であり,本人自身の感じ方や特性理解が同様に重要となる。小学校段階など,発達段階の低い子どもの場合には本人を代弁する形で教師や保護者が評価する事が必要であろう。しかし,他者との違いに気づき始める中高生では主観的評価を実施することで,本人のニーズをよりくみ取ることができると考えられる。同時に,自分自身の特性に気づき,得意な面・不得意な面を認識することが学校適応につながると考えられる。本シンポジウムでは,学校適応スキルという視点から評価するASISTを用いて,学校不適応や発達障害のアセスメントについて,他者評定と自己評定という視点から話題提供を行う。

【Rep.3;不登校経験のある生徒に対する高等学校での支援/工藤浩二】
高等学校は中等教育の最終段階であり,生徒たちはそこにいたるまでに多様な経験を経ている。そこには学校(あるいは教師)に関連する様々な経験そして思いの集積がある。学校歴のみならず家族歴においても同様である。高々十代後半といえども,彼/彼女らなりの“過去の人生”を背負って毎日を生きている。高等学校の教員は,そういった“過去から継続した今を生きる生徒を支援する”という思いで生徒支援に当たらなければならない。さらに言えば,小学校・中学校と異なり高等学校の場合は,その後の進路選択の問題も多様であり,その選択の多くは,より強く現実社会に向き合うことを要求されるものとなっている。つまり,高校生の支援については,高等学校の3年間(あるいは4年間)のみを切り取った支援では十分には機能しない。
発達段階的にみれば高校生はそのような時期にあるわけであるが,そのような中で不適応状態にある高校生たちをどのように支援していくことができるのだろうか。すでに述べたように高校生たちは多様であり一律に扱うことは困難である。そもそも“学校不適応”にも多様な生徒像(状態像)が含まれて良いだろう。そこで,ここでは,“過去に不登校を経験したことのある高校生”を対象として,そのような高校生たちが“学校に行きたい”と思えるような支援とはどのようなものであろうかということについて話題提供をしたい。

【Rep.4;発達障害を抱える大学生への就労支援/石本 豪】
平成17年に施行された発達障害者支援法を契機として発達障害学生への支援が注目されるようになった。現在,大学では2,000名を超える発達障害学生(診断有)が在籍している(日本学生支援機構,2014)。大学における発達障害学生への支援の方向性を分類した研究によると,これまでは,学生本人の修学意欲を高め,学生生活をサポートする修学支援が中心になされてきた(坂本,2014)。
一方,今後の課題としては就労支援の充実が挙げられることが多い(たとえば須田ら,2011;山崎,2011;吉永,2011)。発達障害の診断がある卒業生の54%が進学や就職などの進路が決まっていないという報告もある(日本学生支援機構,2013)。つまり発達障害学生への支援においては大学生活への適応に加え,社会への適応も視野に入れる必要があるだろう。
筆者はこれまで,自閉症スペクトラムが疑われる大学生を対象とした支援実践を経験してきた(高橋・石本ら,2010;2012)。しかし,いずれの事例においても就労には至らなかった。そこで本シンポジウムでは,筆者が行った大学生への就労支援に関する研究を紹介する。具体的には発達障害を抱える大学生への就労支援に携わっている地域就労支援機関相談員へのインタビューデータの分析を通じ,支援に関するひとつの視点を提示する。そのうえで,発達障害学生の就労に向け,大学における支援の可能性について議論したい。

(HASHIMOTO Soichi, ISHIZU Kenichiro, KUMAGAI Ryo, KUDO Koiji, ISHIMOTO Go, HOTTA Kaori)