The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム

身体性を重視した学校内でのグループワーク

アクティビティを授業にどう生かすか

Fri. Aug 28, 2015 1:30 PM - 3:30 PM 301A (3階)

企画・司会・指定討論:守谷賢二(淑徳大学), 企画・話題提供:吉田梨乃(東京学芸大学大学院), 話題提供:高尾隆#(東京学芸大学), 斎藤富由起(千里金蘭大学), 高橋佳三#(びわこ成蹊スポーツ大学), 指定討論:吉森丹衣子(諏訪赤十字看護専門学校), 飯島博之#(伊勢崎市民病院)

1:30 PM - 3:30 PM

[JH03] 身体性を重視した学校内でのグループワーク

アクティビティを授業にどう生かすか

守谷賢二1, 吉田梨乃2, 高尾隆#3, 斎藤富由起4, 高橋佳三#5, 吉森丹衣子6, 飯島博之#7 (1.淑徳大学, 2.東京学芸大学大学院, 3.東京学芸大学, 4.千里金蘭大学, 5.びわこ成蹊スポーツ大学, 6.諏訪赤十字看護専門学校, 7.伊勢崎市民病院)

Keywords:身体性, グループワーク

企画趣旨
(守谷賢二)
近年「開かれた学校」のもとで,「総合の時間」などを利用して外部講師と協同的に授業を行う試みが増加している。この背景には協同的な知性の重視や支援的な知性の獲得など,「学びの在り方」について多様なパラダイムの提唱が指摘できる(吉田,2014)。こうした「多様なパラダイム」に共通するキーワードは「生きる力」や「コミュニケーションスキルの獲得」であり,従来のグループワークの手法以外にも「楽しさ」と「驚き」を強調する新しいグループワークも登場している(守谷他,2012)。
教育と身体性というテーマは,1980年代から90年にかけての身体哲学の中ですでに語られている。1990年代から2000年代の認知科学上の発展を背景として,知識蓄積型の学習から経験的で身体性に根付いた知識の獲得や物語的な知性が強調され,あらためて身体性は脚光を浴びた。これに生態学派の登場やembody worksの提唱などが加わり,身体性と心理および教育の関係は,伝統的であり,かつ,常に新しい話題を提供している心理学の中心テーマの一つといえる(守谷,2015)。
他方,学校には「学校文化」があり,外部講師との協同的な授業は,学校と外部講師の双方に影響を与え合い,新しい学校文化に創造にもつながっている。学校に外部講師として入り,新しいグループワークを実践することは,開かれた学校のなかでの社会資源(外部講師)と学校との相互作用ともいえる。「(あまり知られていない)新しいグループワークがどのように学校に受けとめられているのか」という論点もグループワークを語る上で欠かせない。
本シンポジウムでは,長年学校で身体性を重視したワークショップを実践して,高い評価を得ている話題提供者(インプロ教育:SST:体育・部活動の指導と古武術)にお集まりいただき,
⑴ なぜ身体性を重視したグループワークをおこなっているのか。
⑵ それは,どのような実践なのか。
⑶ その結果(効果)はどのようなものか。
⑷ 学校内のグループワークを実践する際の留意点はどのようなものか。
という4点について,アクティビティの体験学習も含めてお話いただく。

【学校で行うインプロ教育とインプロの知】
(話題提供:吉田梨乃・高尾隆)
インプロ(即興演劇)は,かつて俳優のためのトレーニング技法だったが,近年では自己表現力やコミュニケーションスキルの向上,創造性の発現の学びを目的として,日本でも学校や企業研修などで幅広く実践されるようになってきた(e・g.,高尾,2011:高尾,2012)。その特徴として,SSTが公的なコミュニケーションスキルの獲得に効果的であるならば,インプロは私的な親密圏のコミュニケーションスキルの獲得に適している。これは,インプロを含む演劇が,日常的には失敗と見なされる振る舞いについても,演劇的なまなざしにおいては肯定的に受け止める性質を持つためである(高尾,2012)。
2011年には,文部科学副大臣によるコミュニケ-ション教育推進委員会(以下,委員会と略)が設置され,この審議の中で「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために―『話し合う・創る・表現する』ワークショップの取組」が報告された。そこで子どものコミュニケーション能力を育む具体的手法として「演劇活動など表現手法を豊富に取り入れていること」や「グループ単位(小集団)で協同して,正解のない課題に創造的・創作的に取り組む活動を中心とするワークショップ型の手法を取り入れること」などが指摘された。この委員会の議論がコミュニケーション能力の育成と演劇ワークショップを学校現場において具体的に結び付ける制度的基盤となり,インプロ教育をはじめとする「演劇的手法」が学校現場で発展するようになった。
演劇教育の手法であったため,インプロ教育の理論に身体性を強調するものが多い。例えば学校のクラス単位で行われるインプロ教育の代表的な実践家としては,アメリカの演劇教育実践家であるSpolin(1986)がいる。Spolin(1986)は演劇の経験がない教師のために『授業のためのシアターゲーム:教師のための手引き』をまとめたがこの手法の本質の一つを「身体化(physicalization)を指摘した。Spolin(1986)に限らず,代表的なインプロ教育は極めて身体的であり,かつ,行為的である。
教育学者であり認知心理学者のSawyer(2004)は,イギリス,アメリカ,カナダなどの学校でインプロ教育が盛んになってきたことを受け,「統制されたインプロ」という概念を提唱している(Sawyer,2004)。「統制されたインプロ」とは「教師が思いもよらない発想が子どもから生み出されるような,創造的な授業を行うために,インプロの手法を授業に応用した取り組み」である(Sawyer,2004)。日本でも,適応指導教室におけるグループワークの実践として,「統制されたインプロ」が行われている(吉田,2015)。
さらに近年ではIMPROV WISDOM(即興の知:Madson,2005)が注目されている。即興の知とは,「自分を信じて即興的に行為する」ための知性であり,13のルールからなる学習可能なスキルでもある。即興の知は「生きる力」との共通性も高く,児童生徒に学んでほしい知性として,多くの教員がインプロの研修を受けている。
本シンポジュウムでは実際に小・中学校で行われた「統制されたインプロ」のアクティビティを紹介するとともに,「IMPROV WISDOM」を重視した教員研修の内容を報告する。

【学校で行う身体性を重視したSST】
(話題提供:斎藤富由起)
SST(Social Skills Training)は実践のフォーマットも標準化されており,多くの研究に基づきその効果が安定している手法である。SSTでは,ニーズを把握し,オーダーメイドのプログラムを作成し,質問紙や行動観察,仲間媒介法などの手法で効果を確認する方法論も確立している。SSTは構成的エンカウンターと並び,学校現場で使用される頻度が多いグループワークと言える。
一方,学級サイズのSSTを学校現場で行う際には,いくつかの課題も指摘されてきた(斎藤,2014)。例えば「荒れ気味のクラスに適用しづらい」「やや形式的なスキルになりがち」などはよく聞かれる指摘である(斎藤,2014)。
また外部講師として学校に出向くと,「数回のイベント参加ではなく,長期的に児童生徒とかかわってほしい」という現場の率直なニーズに出会うことがある。さまざまな制約があるにしても,長期的な効果を期待するならば,外部講師として学校と協働体制をとり,SSTを学校現場での日常的な指導に結びつけなければならない。数回の授業で社会性のスキルを学習するのではなく,学校が日常的に行っている子どもの社会性への指導に肯定的な影響を及ぼすように,数回のSSTを位置づけ,実践している。
以上のような視点で,現場からの指摘と実践上のニーズに基づき,小・中学生および教員研修で身体性を重視したSSTを導入したところ,(追試が必要であるにしても),児童生徒への効果もより明確になり,教員研修での満足度も向上した。身体に焦点をあてることにより,異化作用が生まれ,「驚き」と「楽しさ」が生まれている。
本シンポジュウムでは,普通学級における小学校高学年から中学生へのリラクセーションスキルとコミュニケーションスキルを題材にして,そのアクティビティを紹介する。
またビジョントレーニングなどの技法も紹介し,SSTの枠組みにとどまらない技法間の協働と,その効果について,「ことばの教室」での実践について話題提供を行う。

【古武術的身体操法による体育・スポーツ指導】
(話題提供:高橋佳三)
近年,小学生の体力低下,運動習慣の二極化が深刻な問題となっている。歩くことや走ることは,日常生活だけでなく,スポーツをする上でも基本的な動作といえる。とりわけ走能力の低下の改善は小学生の体力低下につながるといえる。
そこで継続的な古武術的身体操法の指導が小学生の走能力に与える影響を検証する実験を行った。実験協力者は古武術未経験で,少年サッカーチームに所属している小学校5年生(12名)であった。実験試技は30メートル走とした。
ベースライン測定の後,4回の古武術的身体操法を行った。t検定の結果,指導後のタイムはベースラインより速くなっていた。これは古武術的身体操法の指導を通じて⑴全身重心移動距離が大きくなった。⑵股関節角度の最大角度が大きくなったなどの変化が生じたためと考えられる(高橋他,2011)。
以上のように,古武術的身体操法は体育や部活動,スポーツの指導に生かせるものであり,子どもの体力低下の改善に役立つといえる。
本シンポジウムでは古武術における身体操法を小学校や体育,野球の指導に反映してきた経験と古武術的身体操法のアクティビティを紹介したい。

【指定討論】
本シンポジュウムの指定討論は,学校現場のSSTとボディワークに造形の深い吉森丹衣子と,解離性症状の研究者であり,身体性に課題を持つ離人性障害の患者の語りを研究している飯島博之である。吉森はボディワークの観点から,飯島は,身体性の観点からそれぞれ質問を行う。また守谷賢二は長年スクールカウンセラーを勤め,学校文化を熟知した立場から「学校内で行う」ことの意義や困難な点,効果測定について検討する。
学校が教科指導や総合の時間,道徳の時間に外部講師を入れて協働的に授業を行う試みは,注目されているほどには一般的ではない。互いに手探りしながら,協働のあり方が問われているのだろう。こうした中で新しいグループワークを学校内で実践することや,グループワークを提案することはチャンレンジングな試みと思われる。
本シンポジュウムが,学校現場でグループワークを行っている教員と外部講師へのヒントとなれば幸いである。