1:30 PM - 3:30 PM
[JH06] 青年期の自己変容としての化粧行動
青年心理学の新展開(8)
Keywords:青年期, 自己変容, 化粧行動
企画趣旨
現代において,化粧行動は程度の差はあれ,多くの女性が行っており,男性の一部も習慣的な化粧行動を行っている。これまでの化粧行動に関する心理学的研究では,対人魅力,自己呈示・印象形成,コミュニケーション,精神的健康・適応などの観点から,主に社会心理学領域に活発に行われてきた。
一方,化粧行動は幅広い年齢で行われる行動であり,そこには心理発達的な背景が存在すると推測される。例えば,ポーラ文化研究所(2008)では,若い年代ほど,リップグロスやマスカラ,アイライナー,チークカラーなどの化粧アイテムを,高校生までに使用している割合が高いことが明らかにされており,若い年代ほど,中・高校生の頃から活発に化粧行動を行っていることが示されている。また,ポーラ文化研究所(2007)では,10代・20代前半の女性ほど,「自分に自信をもちたい」,「周りから良く思われたい」,「周りから外れたくない・浮きたくない」などの理由で化粧を行っていることが明らかにされている。
10代や20代前半という青年期では,外見・容姿を含めた自己に対する意識が高まり,特に女性では,外見・容姿が自己受容感に強い影響力をもっていることが明らかにされている(眞榮城, 2000)。しかし,自己を見つめる目は否定的評価につながりやすく,容姿に対する劣等感や自己を変えたい気持ちを生み,さらには周囲からの評価懸念や周囲との同調が加わり,青年(特に女性)は,化粧行動へと駆り立てると考えられる。
これらの点を考慮し,本シンポジウムは,化粧行動について発達的観点からアプローチし,化粧行動を通して青年・若者の心理・適応・発達などについて理解を深めようとするものである。
自己変容を望む気持ちの発達と化粧行動
:千島雄太
青年期においては,自己と他者の比較によって自己評価を行うことや,他者から見られている自分に対する意識が高まることが知られている。女子においては,特に外見や容姿への意識が高まり,それに伴って化粧行動が現れるようになる。化粧行動とは程度の差はあれ,容姿を変えることであり,化粧行動の効用の1つとして,「変身願望」の充足に役立つことが指摘されている。また,発達的視座に基づくならば,特に青年期において,今よりも美しい自分になりたい,新しい自分に出会いたいという気持ちが化粧行動の背景にあることが推察される。本発表ではこのような自己変容を望む気持ちについて,生涯発達的な観点から,化粧行動との関連を考察する。
本発表では,3つのデータを提示する。1つ目は,変容を望む気持ちの生涯発達に関するデータである。青年期から老年期までの幅広い年代をサンプリングした上で,自己変容を望む気持ちや変容への関心度がどのように推移するかについて示す。ここから,青年期の自己意識の特異性に関して論じる。
2つ目は,変容を望む気持ちと自我同一性の関連に関する大学生のデータである。特に,理想の他者に憧れを持つことや,自分らしさを追求する気持ちが,自我同一性発達度合いによってどのように異なるかについて,実証的知見を提示する。ここから,他者の存在を内在化することで自己を確立していく発達プロセスについて議論する。
3つ目は,自己変容を望む気持ちと化粧行動に関する大学生のデータである。特に,他者の存在を参照することで変容を望むことと,化粧行動と関連があるかどうかについて示す。その際,化粧の効用をどのように認知しているかという事に関しても検討を行う。ここから,青年期における自己変容を望むことと化粧行動の関連が詳細に明らかにされる。
以上の実証的な分析結果に基づいて,化粧行動の効用の1つである変身願望の充足に関して話題提供を行う。
劣等感の補償としての化粧行動
:髙坂康雅
青年期では,身体的変化とともに,これまでの価値観・自己像が崩れ,内省や他者との関わりを通して,自分なりの価値観・自己像を再構築していく。その過程のなかで,他者との比較(社会的比較)は,これらの再構築に重要な役割を果たしているが,一方で,他者との比較によって,劣等感が生じることも指摘されている。
劣等感は,個人の特定の,あるいは全体的な領域について他者よりも劣っていると評価することにより,自己全体に価値・魅力がないとする感情である。他者と比較する自己の領域は,その個人にとって重要な領域であり,青年女子においては,容姿・容貌が重要な領域とされやすく,成年男子に比べ,青年女子は容姿・容貌に対する劣等感を感じやすいことが明らかにされている(髙坂, 2008a)。
容姿・容貌に対する劣等感の解決方法として,①直接的努力,②代理補償,③他者からの直接的承認,④他者からの間接的承認,⑤劣性の消失,⑥重要度の低下,の6つがあることが指摘されている(髙坂, 2008b)。このうち,①直接的努力には,ダイエットや化粧行動などが含まれている。松井・山本・岩男(1983)でも,化粧をする理由として,「外見の欠点を補うため」が最も多く挙げられており,特に化粧行動の程度の高い女性ほど,化粧により外見的欠点を補うという意識が強いことが明らかにされている。また,杉山・小林(1996)では,化粧をしたときの気持ちとして,「自信がでる」,「優越感を感じる」などからなる「積極性の上昇」が抽出されている。これらから,化粧をすることには,容姿に対する劣等感低減効果があると考えられるが,実際に,容姿に対する劣等感と化粧行動との関連を検討した研究は行われていない。
そこで,本話題提供では,大学生を中心とした青年女子における化粧行動について,容姿に対する劣等感と化粧動機・化粧行動との関連について,実証的なデータをもとに,論じていく。これにより,化粧行動の容姿に対する劣等感低減効果を明らかにし,青年女子にとって化粧することの心理発達的意義について,議論を深めていきたい。
化粧を媒介とした青年期の発達
:木戸彩恵
化粧は,自己と他者の関係性の相互作用のなかで実践されていく。化粧により自らの身体に手を加えることは,身体の表層的な変容のみではなく,心理的な自己の変容を生じさせる。本発表では,化粧を自己と他者そして社会との関係性を媒介する道具として捉え,化粧が青年期の発達(適応と変容)に与える影響について考察する。
発表では,第一に,生涯発達の観点から化粧をする上で最も大切だと感じる項目がどのように変容していくかを示す。具体的には,20代から60代までの女性を調査協力者とした研究をもとに,人生発達を見通したときに,青年期の化粧のなかで女性が何を目指すかを説明する。
第二に,青年期における化粧行動の形成過程について説明する。はじめに,その過程のなかでも調査協力者が自らの属する社会・文化的文脈のなかで適応的な化粧行動の形成に至るまでにどのように自らと向き合い,どのように化粧行動を決定していくか,その選択のあり方について焦点化し,質的研究に基づくモデルと事例を紹介する。次いで,社会・文化的文脈が変容せざるを得ない状況に置かれた場合に,新たな文脈に適応するために化粧行動をどのように変容させているか,そこに元いた社会・文化的文脈がどのように関連しているかについて述べる。
最後に,化粧研究では多くの場合,調査協力者は女性に限定されるが,本発表では青年期男性の化粧のあり方とその課題について触れる。ここから,男女の化粧に対する認識と用い方の違いを明らかにし,性差により異なる化粧の意味づけとその利用方法について考察するきっかけをつくる。
本発表を通して,化粧という媒介の用い方,ならびに青年期の自己の発達の関連について議論をしたい。
付 記
本自主企画シンポジウムには,日本青年心理学会研究委員会のご後援をいただいた。
現代において,化粧行動は程度の差はあれ,多くの女性が行っており,男性の一部も習慣的な化粧行動を行っている。これまでの化粧行動に関する心理学的研究では,対人魅力,自己呈示・印象形成,コミュニケーション,精神的健康・適応などの観点から,主に社会心理学領域に活発に行われてきた。
一方,化粧行動は幅広い年齢で行われる行動であり,そこには心理発達的な背景が存在すると推測される。例えば,ポーラ文化研究所(2008)では,若い年代ほど,リップグロスやマスカラ,アイライナー,チークカラーなどの化粧アイテムを,高校生までに使用している割合が高いことが明らかにされており,若い年代ほど,中・高校生の頃から活発に化粧行動を行っていることが示されている。また,ポーラ文化研究所(2007)では,10代・20代前半の女性ほど,「自分に自信をもちたい」,「周りから良く思われたい」,「周りから外れたくない・浮きたくない」などの理由で化粧を行っていることが明らかにされている。
10代や20代前半という青年期では,外見・容姿を含めた自己に対する意識が高まり,特に女性では,外見・容姿が自己受容感に強い影響力をもっていることが明らかにされている(眞榮城, 2000)。しかし,自己を見つめる目は否定的評価につながりやすく,容姿に対する劣等感や自己を変えたい気持ちを生み,さらには周囲からの評価懸念や周囲との同調が加わり,青年(特に女性)は,化粧行動へと駆り立てると考えられる。
これらの点を考慮し,本シンポジウムは,化粧行動について発達的観点からアプローチし,化粧行動を通して青年・若者の心理・適応・発達などについて理解を深めようとするものである。
自己変容を望む気持ちの発達と化粧行動
:千島雄太
青年期においては,自己と他者の比較によって自己評価を行うことや,他者から見られている自分に対する意識が高まることが知られている。女子においては,特に外見や容姿への意識が高まり,それに伴って化粧行動が現れるようになる。化粧行動とは程度の差はあれ,容姿を変えることであり,化粧行動の効用の1つとして,「変身願望」の充足に役立つことが指摘されている。また,発達的視座に基づくならば,特に青年期において,今よりも美しい自分になりたい,新しい自分に出会いたいという気持ちが化粧行動の背景にあることが推察される。本発表ではこのような自己変容を望む気持ちについて,生涯発達的な観点から,化粧行動との関連を考察する。
本発表では,3つのデータを提示する。1つ目は,変容を望む気持ちの生涯発達に関するデータである。青年期から老年期までの幅広い年代をサンプリングした上で,自己変容を望む気持ちや変容への関心度がどのように推移するかについて示す。ここから,青年期の自己意識の特異性に関して論じる。
2つ目は,変容を望む気持ちと自我同一性の関連に関する大学生のデータである。特に,理想の他者に憧れを持つことや,自分らしさを追求する気持ちが,自我同一性発達度合いによってどのように異なるかについて,実証的知見を提示する。ここから,他者の存在を内在化することで自己を確立していく発達プロセスについて議論する。
3つ目は,自己変容を望む気持ちと化粧行動に関する大学生のデータである。特に,他者の存在を参照することで変容を望むことと,化粧行動と関連があるかどうかについて示す。その際,化粧の効用をどのように認知しているかという事に関しても検討を行う。ここから,青年期における自己変容を望むことと化粧行動の関連が詳細に明らかにされる。
以上の実証的な分析結果に基づいて,化粧行動の効用の1つである変身願望の充足に関して話題提供を行う。
劣等感の補償としての化粧行動
:髙坂康雅
青年期では,身体的変化とともに,これまでの価値観・自己像が崩れ,内省や他者との関わりを通して,自分なりの価値観・自己像を再構築していく。その過程のなかで,他者との比較(社会的比較)は,これらの再構築に重要な役割を果たしているが,一方で,他者との比較によって,劣等感が生じることも指摘されている。
劣等感は,個人の特定の,あるいは全体的な領域について他者よりも劣っていると評価することにより,自己全体に価値・魅力がないとする感情である。他者と比較する自己の領域は,その個人にとって重要な領域であり,青年女子においては,容姿・容貌が重要な領域とされやすく,成年男子に比べ,青年女子は容姿・容貌に対する劣等感を感じやすいことが明らかにされている(髙坂, 2008a)。
容姿・容貌に対する劣等感の解決方法として,①直接的努力,②代理補償,③他者からの直接的承認,④他者からの間接的承認,⑤劣性の消失,⑥重要度の低下,の6つがあることが指摘されている(髙坂, 2008b)。このうち,①直接的努力には,ダイエットや化粧行動などが含まれている。松井・山本・岩男(1983)でも,化粧をする理由として,「外見の欠点を補うため」が最も多く挙げられており,特に化粧行動の程度の高い女性ほど,化粧により外見的欠点を補うという意識が強いことが明らかにされている。また,杉山・小林(1996)では,化粧をしたときの気持ちとして,「自信がでる」,「優越感を感じる」などからなる「積極性の上昇」が抽出されている。これらから,化粧をすることには,容姿に対する劣等感低減効果があると考えられるが,実際に,容姿に対する劣等感と化粧行動との関連を検討した研究は行われていない。
そこで,本話題提供では,大学生を中心とした青年女子における化粧行動について,容姿に対する劣等感と化粧動機・化粧行動との関連について,実証的なデータをもとに,論じていく。これにより,化粧行動の容姿に対する劣等感低減効果を明らかにし,青年女子にとって化粧することの心理発達的意義について,議論を深めていきたい。
化粧を媒介とした青年期の発達
:木戸彩恵
化粧は,自己と他者の関係性の相互作用のなかで実践されていく。化粧により自らの身体に手を加えることは,身体の表層的な変容のみではなく,心理的な自己の変容を生じさせる。本発表では,化粧を自己と他者そして社会との関係性を媒介する道具として捉え,化粧が青年期の発達(適応と変容)に与える影響について考察する。
発表では,第一に,生涯発達の観点から化粧をする上で最も大切だと感じる項目がどのように変容していくかを示す。具体的には,20代から60代までの女性を調査協力者とした研究をもとに,人生発達を見通したときに,青年期の化粧のなかで女性が何を目指すかを説明する。
第二に,青年期における化粧行動の形成過程について説明する。はじめに,その過程のなかでも調査協力者が自らの属する社会・文化的文脈のなかで適応的な化粧行動の形成に至るまでにどのように自らと向き合い,どのように化粧行動を決定していくか,その選択のあり方について焦点化し,質的研究に基づくモデルと事例を紹介する。次いで,社会・文化的文脈が変容せざるを得ない状況に置かれた場合に,新たな文脈に適応するために化粧行動をどのように変容させているか,そこに元いた社会・文化的文脈がどのように関連しているかについて述べる。
最後に,化粧研究では多くの場合,調査協力者は女性に限定されるが,本発表では青年期男性の化粧のあり方とその課題について触れる。ここから,男女の化粧に対する認識と用い方の違いを明らかにし,性差により異なる化粧の意味づけとその利用方法について考察するきっかけをつくる。
本発表を通して,化粧という媒介の用い方,ならびに青年期の自己の発達の関連について議論をしたい。
付 記
本自主企画シンポジウムには,日本青年心理学会研究委員会のご後援をいただいた。