The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PA

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PA016] 英語を母語とする中級日本語学習者におけるパーソナルコンピューターと手書きでの作文の量および所要時間の差異

石毛順子 (国際教養大学)

Keywords:作文, 第二言語習得, パーソナルコンピューター

先行研究と目的
石毛(2014)は中国語を母語とする上級日本語学習者におけるパーソナルコンピューター(以下PC)と手書きでの作文の量と所要時間の差異を分析した。その結果手書きのほうがPCで書いた時より作文の文字数が多くなるにも関わらず,所要時間は有意差が見られなかった。その理由を,石毛(2014)は4つ挙げている。1.手書きの場合,上級なら漢字で書けるだろう語彙をひらがなで書いていたこと,2.手書きの場合は語彙単位の削除や修正に留まっていたがPCの場合は大幅な削除や修正を行っていたこと,3.wordで作文を書いた際に誤りがあれば表示される赤の波線によって,手書きでは気が付かない誤りに気づいて対応したこと,4.手書きなら読み仮名が分からなくても書ける漢字の語彙の入力にPCの場合は時間を要したこと,である。中国語を母語とする中級日本語学習者を対象とした石毛(印刷中)では量に有意差はないがPCの方が時間を要した。その理由を,上級より中級のほうが石毛(2014)の理由4がさらに顕著であるからとしていた。
「漢字の読み方がわからなくても手書きなら漢語を書くことができる」というのは中国語母語話者の特性であり,同様の結果が異なる母語の学習者では得られない可能性がある。そこで本研究では,上記の中国語母語話者を対象とした結果を,中級の英語母語話者でも支持するか検証することを目的とする。
方法
参加者 英語を母語とする中級日本語学習者で,PCを用いて作文を書いた者(PC群)6名,手書きで作文を書いた者(手書き群)5名。
作文のテーマ 自国の食べ物と日本の食べ物,田舎の生活と都会の生活,高校生活と大学生活等の7つの比較のテーマから,調査時に1つを選択。
手続き 作文に必要なものの持ち込み,使用を事前に許可しておいた。作文時に考えていることを日本語でも母語でもよいので,できる限り話す(発話思考法)よう依頼した。参加者が沈黙した際は話すようにカードで指示すると伝えた。発話思考法を四則計算・母語での作文・日本語での作文で約1時間練習した後,上記の7つのテーマから1つを選んで作文を書いてもらい,ビデオ,IC レコーダー,録画ソフトで記録した。作文執筆終了後,インタビューを行った。
分析方法 発話思考法で記録された思考をスクリプト化した。作文の量と所要時間(分数)の平均を算出し,統計的な差を検討した。そして作文とスクリプトを参考に,PC群と手書き群の差の要因を考察した。
結果と考察
表1によると,量の平均はPC群が572.8字,手書き群が291.2字で有意傾向にある差が認められた(t (7.179)=-2.078, p<.1)が,所要時間の平均はPC群が41.5分,手書き群が26.7分で有意差が見られなかった(t (9)=-1.333,n.s.)。本研究の結果は,中級の中国語母語話者の「量に有意差はないが手書きの方が時間を要した」,上級の中国語母語話者の「所要時間に有意差はないが,手書きの方が量が多かった」という先行研究の結果をいずれも支持しなかった。
中級の英語母語話者の作文がPCの方が量の多い理由は,石毛(2014)における中国語母語話者が手書きの方が量が多い理由4「手書きなら読み仮名が分からなくても書ける漢字の語彙の入力にPCの場合は時間を要したこと」と逆の理由が考えられる。手書きで漢字を書くことに困難がある英語母語話者は多いが,PCでなら読み仮名を覚えていてかつ正しい漢字と同定できれば漢字を書くことができる。そのため,漢字を思い出すことに思考の流れを途切れさせられることが少なく,スムーズに文を書けたのではなかろうか。
引用文献
石毛順子(2014)「中国語を母語とする上級日本語学習者におけるパソコンと手書きでの作文の量と所要時間の差異」『日本発達心理学会第25回大会論文集』507.
石毛順子(印刷中)「中国語を母語とする中級日本語学習者におけるパソコンと手書きでの作文の量と所要時間の差異」『日本発達心理学会第26回大会論文集』
付 記
本研究は科研費若手研究B21720189「第二言語作文のプロセスモデルの構築」およびB24720237「日本語学習者のパソコンを用いた作文過程の探求」の助成を受けている。