日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA020] 演劇ワークショップの効果について

参加者の性別および社会的スキルの自己評価による検討

加藤知佳子 (豊橋創造大学)

キーワード:演劇ワークショップ, 社会的スキル, 性別

問題
対人援助職の養成においては,コミュニケーション能力の涵養が必須である。限られた期間での指導を前提とすると,自らのコミュニケーションに関する能動的な気づきと日常生活におけるコミュニケーションの自発的な見直しを促す演劇ワークショップが注目される。演劇ワークショップでは,参加者が他者からの評価を恐れることなく自らを表出することによって,自分の現状に気づくことが期待されることから,参加者の行動の客観的評価はむしろ忌避される。ワークショップの成否や効果測定についても,第三者によって客観的に行われることは非常に少ない。しかし,演劇ワークショップの利点をより効果的に活かすためにも,効果測定を工夫して実施することは必要だと考えられる。
そこで,本研究では社会的スキルの自己評価,被受容感および被拒絶感を手がかりとして,演劇ワークショップの効果について検討した。

方法
被験者 演劇ワークショップに参加した医療系対人援助職養成課程3年生 61名の内,無効な回答を含む者を除く55名(男性35名,女性20名,平均年齢20.9歳)。
質問項目 質問紙は,①年齢,性別等の基本属性,②菊池(1988)の社会的スキル尺度KiSS-18,③杉山・坂本(2006)の被受容感・被拒絶感尺度,④学外実習への不安(実習前不安),演劇ワークショップの主旨の理解と楽しかったかどうか(この2つは実施後のみ)等についての質問項目によって構成された。④の一部を除いて,演劇家によるコミュニケーションゲームを中心とした演劇ワークショップ(3時間x2回)実施前と後に同じものを実施した。
倫理的配慮 調査は個人が特定できない方法で実施し,被験者には事前に調査目的を説明した上で,参加は自由意志であり不参加であっても不利益は一切生じないこと等を含む,インフォームド・コンセントを実施した。

結果
KiSS-18,被受容感尺度,被拒絶感尺度のα係数を算出したところ,KiSS-18はα=.92,被受容感尺度はα=.91,被拒絶感尺度はα=.91であった。十分な内的整合性が確認されたことから,各尺度の合計得点を算出して分析を行った。
KiSS-18得点について,性別,ワークショップ前後で差があるかどうかを2要因混合計画の分散分析(UMA)を行って検討したところ,群間に有意な差は見られなかった。
実習前不安,被受容感,被拒絶感については,ワークショップの効果,性別,KiSS-18得点の高さ(3群)による違いを3要因の混合計画分散分析(UMA)を行って検討した。被受容感については,性別の主効果のみ有意であった(F(1, 49)=13.39, p<.01)。被拒絶感については,ワークショップの主効果とそれとの交互作用はなかったが,性別(F(1, 49)=9.33, p<.01)の主効果,KiSS-18得点の主効果(F(2, 49)=3.25, p<.05)および両者の交互作用(F(2, 49)=3.81, p<.05)は有意であった。実習前不安については,ワークショップの主効果のみ有意であった(F(1, 49)=10.71, p<.01)。
その他,ワークショップを楽しんだかについては,KiSS-18得点(r=.29)および被拒絶感(r=-.30)との間に相関が認められたが(p<.05),主旨の理解については,両者との相関は認められなかった。

考察
学外実習に対する不安の内容として「コミュニケーション」を挙げたのは55名中9名であり,コミュニケーションに関する不安は「知識不足」(19名)に次いで多かった。コミュニケーション能力そのものの向上よりも,不安による萎縮を解消する方が先決と考えられるが,本研究においては,受容的な雰囲気の中でコミュニケーションゲームを実施することによって,学外実習に対する不安が低減したという形で,演劇ワークショップの効果が現れたと言える。
また,被拒絶感について,本研究では社会的スキルの自己評価による違いが示された。ワークショップ前後での変化は認められなかったものの,ワークショップの楽しさを左右するこれらの要因に対する配慮は必要であると考えられる。
総じて,演劇ワークショップは,性別や社会的スキルの自己評価などの要因の影響を受けながら,コミュニケーションを要する新しい経験に対する不安といったネガティブな構えを解消する効果があることが示唆された。