日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PA022] 子どもの思考を反映した教授介入

割合の概念的理解の保持について

栗山和広1, 吉田甫2, 中島淑子3 (1.愛知教育大学, 2.立命館大学, 3.名古屋大学大学院)

キーワード:子どもの思考, 教授介入, 概念的理解

割合概念は子どもにとって理解することが極めて困難な概念である。数学教育では,教科の論理体系の構造による指導を行っており,子どもの思考や知識を基にした指導は行われてこなかった。本研究は,子どもの思考や知識を考慮したカリキュラム構成による教授介入が,割合の概念的理解に効果をもつかについて検討することである。
栗山・吉田・中島(2015)は,(1)子どものインフォーマルな知識として量的な概念から指導する,(2)割合の認知的障害としての等全体を考慮する,という2つの視点を取り入れたカリキュラム構成に基づく教授介入をおこなった。その結果,子どもの概念的理解を大きく促進させ,等全体の理解の獲得に効果のあることが示された。
本研究は,子どもの思考を基にしたカリキュラム構成による教授介入が,これまでの研究では明確になっていない割合の概念的理解の保持に効果があるかについて検討する。
方 法
被験者:実験群にはA小学校の5年生60名,テキスト群にはB小学校の5年生63名が参加した。
課題:5年生の割合単元(啓林館)16時間。事前テストでは,割合の単元を学習する前に,割合に関するインフォ-マルな知識について尋ねた。割合単元を学習して,5ヶ月経過して保持テストを実施した。保持テストでは以下の内容の一斉テストが行われた。(1)割合の3用法の解決課題3問。(2)作図課題2問。(3)表における等全体の課題1問。(4)グラフにおける等全体の課題1問。(5)割合の構成要素の課題3問。
手続き:テキスト群は,最初の1時間で割合の意味を導入し,その後の4時間で小数倍としての割合の3用法を指導した。第5時から第9時まで,%としての小数倍の関係を指導し,%としての割合の3用法を指導した。第10時から第16時までは割合のグラフについて指導された。実験群は,教科書の第1時から第8時まで新しいカリキュラムが導入された。第1時から第3時までは,量概念を強調する割合モデルに基づく教材を用いて,割合を部分と全体といった点から指導した。第4時では,比較すべき割合について,基にする量が異なると%を比較することはできないことを,子ども同士の討論から引き出すように指導した。これらの4時間では,割合の公式は教えられず,割合の意味及び量としての大きさが指導された。第5時で,小数倍が導入された。第6時で第2用法,第7時で第1用法,第8時で第3用法が教えられ,第9時がまとめであった。第10時から第16時まではテキスト群と同じであった。
結 果
事前テスト:意味的表象の正答率は,実験群,テキスト群とも90%であった。量的表象の正答率は,実験群,テキスト群とも67%であった。両群は等質であるといえる。
保持テスト:割合の3用法の解決において,実験群は55%,テキスト群は49%であった。両群における統計的な差は見られなかった。作図課題の平均正答率は,実験群が63%,テキスト群が22%で,実験群とテキスト群の差は有意であった(t=(121)=5.83, p<.01)。3用法の構成要素課題,等全体において全体の一致してない表課題とグラフ課題の正答率を示した(Figure 1)。3用法の構成要素課題において,実験群はテキスト群より成績の高いことが示された(t (121) =4.15, p<.01)。等全体の表課題とグラフ課題において,それぞれ,実験群はテキスト群より成績の高いことが示された(χ2=6.25, df=1, p<.05; χ2=14.67, df=1, p<.01)。
考 察
子どもがもつインフォーマルな知識を利用してカリキュラムを構成した教授介入は,子どもの概念的理解における保持においても,大きく理解を促進させることが実証された。保持については,効果が見みられていない研究もあるが,本研究では,理解することが困難な等全体の理解においても効果のあることが示された。