[PA032] ICTによって拡大された大学での経験と日常生活との関わり
放送大学学生を事例にして
Keywords:生涯学習, 日常生活, ICT
問題と目的
放送大学における教育は,テレビ・ラジオによる放送授業と学習センターにおける対面での面接授業(スクーリング)とによって行われている。2015年度からはさらに「オンライン授業」という第三の形態の教育を行うことになった。
高橋(2010)は,放送大学を事例として,担当教員と受講学生とへのインタビュー調査によって,遠隔での教授学習過程を記述した。
本研究も,高橋(2010)と同じ,教員と学生との立場から遠隔教授学習過程を記述することを大きな目的としている。オンライン授業の比較対象として従来の放送授業を取り上げたが,放送大学での経験が日常生活において持つ意味について興味深い結果が得られたので,学生の結果のみ報告するものである。
方法
科目と参加者 高橋(2010)が対象とした学部の科目(以下,元科目)が2014年度から改訂されて開設した(以下,改訂科目)。元科目を受講した学生(以下学生A)と改訂科目を受講した学生(以下学生B)とが1名ずつ参加した。学生は,筆者が行っている面接授業の受講者であり,授業時に調査協力を依頼した。学生Aは既婚50代女性で,事務職として勤務している。学生Bは未婚40代男性であり,調査時には無職であるが,求職活動をしている。
手続き 参加者2名それぞれが所属する学習センターにおいて約1時間の半構造化インタビューを,1週間程度を挟んで2回実施した。1回目のインタビューでは,放送大学入学前の学歴と職歴,放送大学入学の動機や目的,学習の進め方や困っていることについて話すことを求め,その後,対象科目について履修した動機や目的,視聴や学習の仕方や感想を自由に話すことを求めた。さらに参加者には,15分毎行動記録を1週間取ることを求めた。行動記録には,高橋・小松(2006)での表計算ソフトのシート利用による書式を採用した。この記録を取った後,2回目のインタビューを実施し,行動記録の内容について詳しく話すことを求めた。
データ分析 インタビューについては,書き起こしを作成後,内容分析を行った。
結果と考察
まず,参加者の学習の進め方については,先行研究(高橋,2010など)を追認する結果となった。すなわち,有職者である学生Aは,片道90分ほどの電車通勤の際に,印刷教材を読む,放送授業を携帯端末にて聴く,という方法を取っている。学生Bは,近所の公共施設を利用して,印刷教材を読む,という方法を取っている。このように,学習は一定の決まった時間と場所とを確保して行うことが効果的であることは,学生自身が認識していることである。
学生Aは,高校卒業と同時にソフトウェア会社に勤務し始めて現在の会社まで,SEなどとしての実務に携わってきた。自分の趣味を紹介するブログを開設していた経験を持つ。またパートナーは自宅にて会社経営をしており,その業務のため,自宅においてネットワークサーバを立ち上げており,学生Aも利用している。学生Aは,放送大学においては,Web技術に関するクラブ活動にも参加している。クラブ活動では,一般公開の講演会の企画も行っており,学生Aは,放送大学の学生ではないがパートナーと一緒に講演会に参加することもあったとのことである。講演会の内容がパートナーの仕事にも役立つからというばかりでなく,講演会後の外食を一緒に楽しむことができるから,という理由を上げた。
学生Bは公共施設において放送大学の学習のみをしているのではない。本来の利用目的のためにその施設に来ている高齢者とのコミュニケーションを続けていたり,自宅近隣の高齢者を定期的に見守る活動を行っている。そのために,その地域を離れることはできないという意識も強い。心理的な悩みを抱えている人を助けることができるような仕事をしたい,直接的には心理カウンセラーになりたいという目標を立てて,放送大学に入学したということである。
このように,生涯学習かつ公開学習の機関である放送大学での学習などの経験は,学生の日常生活と相互作用していること,さらに,ICTによって,その相互作用が拡大されることも起こりやすいと言えるだろう。
文 献
高橋 2010 教心52回総会/高橋・小松 2006 認科23回大会
謝 辞
本研究は,平成26年度放送大学教育振興会助成金を得て実施したものである。
放送大学における教育は,テレビ・ラジオによる放送授業と学習センターにおける対面での面接授業(スクーリング)とによって行われている。2015年度からはさらに「オンライン授業」という第三の形態の教育を行うことになった。
高橋(2010)は,放送大学を事例として,担当教員と受講学生とへのインタビュー調査によって,遠隔での教授学習過程を記述した。
本研究も,高橋(2010)と同じ,教員と学生との立場から遠隔教授学習過程を記述することを大きな目的としている。オンライン授業の比較対象として従来の放送授業を取り上げたが,放送大学での経験が日常生活において持つ意味について興味深い結果が得られたので,学生の結果のみ報告するものである。
方法
科目と参加者 高橋(2010)が対象とした学部の科目(以下,元科目)が2014年度から改訂されて開設した(以下,改訂科目)。元科目を受講した学生(以下学生A)と改訂科目を受講した学生(以下学生B)とが1名ずつ参加した。学生は,筆者が行っている面接授業の受講者であり,授業時に調査協力を依頼した。学生Aは既婚50代女性で,事務職として勤務している。学生Bは未婚40代男性であり,調査時には無職であるが,求職活動をしている。
手続き 参加者2名それぞれが所属する学習センターにおいて約1時間の半構造化インタビューを,1週間程度を挟んで2回実施した。1回目のインタビューでは,放送大学入学前の学歴と職歴,放送大学入学の動機や目的,学習の進め方や困っていることについて話すことを求め,その後,対象科目について履修した動機や目的,視聴や学習の仕方や感想を自由に話すことを求めた。さらに参加者には,15分毎行動記録を1週間取ることを求めた。行動記録には,高橋・小松(2006)での表計算ソフトのシート利用による書式を採用した。この記録を取った後,2回目のインタビューを実施し,行動記録の内容について詳しく話すことを求めた。
データ分析 インタビューについては,書き起こしを作成後,内容分析を行った。
結果と考察
まず,参加者の学習の進め方については,先行研究(高橋,2010など)を追認する結果となった。すなわち,有職者である学生Aは,片道90分ほどの電車通勤の際に,印刷教材を読む,放送授業を携帯端末にて聴く,という方法を取っている。学生Bは,近所の公共施設を利用して,印刷教材を読む,という方法を取っている。このように,学習は一定の決まった時間と場所とを確保して行うことが効果的であることは,学生自身が認識していることである。
学生Aは,高校卒業と同時にソフトウェア会社に勤務し始めて現在の会社まで,SEなどとしての実務に携わってきた。自分の趣味を紹介するブログを開設していた経験を持つ。またパートナーは自宅にて会社経営をしており,その業務のため,自宅においてネットワークサーバを立ち上げており,学生Aも利用している。学生Aは,放送大学においては,Web技術に関するクラブ活動にも参加している。クラブ活動では,一般公開の講演会の企画も行っており,学生Aは,放送大学の学生ではないがパートナーと一緒に講演会に参加することもあったとのことである。講演会の内容がパートナーの仕事にも役立つからというばかりでなく,講演会後の外食を一緒に楽しむことができるから,という理由を上げた。
学生Bは公共施設において放送大学の学習のみをしているのではない。本来の利用目的のためにその施設に来ている高齢者とのコミュニケーションを続けていたり,自宅近隣の高齢者を定期的に見守る活動を行っている。そのために,その地域を離れることはできないという意識も強い。心理的な悩みを抱えている人を助けることができるような仕事をしたい,直接的には心理カウンセラーになりたいという目標を立てて,放送大学に入学したということである。
このように,生涯学習かつ公開学習の機関である放送大学での学習などの経験は,学生の日常生活と相互作用していること,さらに,ICTによって,その相互作用が拡大されることも起こりやすいと言えるだろう。
文 献
高橋 2010 教心52回総会/高橋・小松 2006 認科23回大会
謝 辞
本研究は,平成26年度放送大学教育振興会助成金を得て実施したものである。