日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA035] 記憶に及ぼす自己生成された人物情報の効果

豊田弘司 (奈良教育大学)

キーワード:意図記憶, 人物情報, 自己生成

記憶成績は,記銘語に付加される情報型によって規定され,多くの情報型の有効性が検討されてきた(豊田, 1998)。有効性の高い情報は,差異性(distinctiveness)の高い情報であるが,そこには人物情報が含まれる。Toyota(2011)は,記銘語から想起される過去の出来事に人物情報が含まれている場合が,含まれていない場合よりも再生率が高いことを見いだしている。この結果は,記銘語に付加する情報として,人物情報の有効性が高いことを示唆している。豊田・喜田(2010)は,偶発記憶事態において,有名人名を人物情報として,記銘語に付加する場合を社会的精緻化条件として設け,意味情報を付加する場合と比較した。その結果,人物情報を付加する場合が意味情報を付加する場合よりも再生率が高いことを見いだした。ただし,豊田・喜田(2010)では,有名人名が差異性の高い情報なので,その効果が反映されているのか,人物情報ならば,有名人でなくても,有効であるのかが明確でない。また,実験者が提示した情報であって,参加者自身が生成した情報ではない。自己生成された情報は,実験者によって提示された情報よりも有効性が高いことが知られている(Pressley et al., 1987; 豊田, 1998)。さらに,意図記憶事態の方が検索手がかりとしての人物情報の有効性が高いと考えられる。
本報では,記銘語から連想する人物を生成させる条件(人物),意味的連想語を生成させる条件(意味)を設け,意図記憶に及ぼす自己生成された人物情報と意味情報の有効性を比較する。
方 法
a)実験計画2(情報型;人物,意味)×2(生成の有無)の2要因計画で,両要因ともに,参加者内要因。b)参加者 2つの看護学校の女子学生52名。平均年齢は19.56歳。c)材料 北尾ら(1977)から選択された漢字28語を記銘語とした。人物及び意味情報条件に14語ずつを割り当てるが,割り当てる条件を入れ替えて,2リストが作成された。いずれのリストでも,最初と最後にバッファー語を1語ずつ追加し,30語からなるリストとなった。各語はPower Point のスライドにして提示された。Fig.1には,提示されたスライド例が示されている。自由再生テスト用紙はA6判。自己生成確認用紙はB5判であり,提示された記銘語の横に,人物及び単語が想起されたか否かを記入する欄が印刷。d)手続 意図記憶手続きによる集団実験。1)記銘試行 参加者は,スライドによって提示される記銘語(漢字)の下に指示された情報(人物,単語(意味的連想語))を想起しながら,記銘するように教示が与えられた。記銘語が1語につき5秒のペースで提示された。2)自由再生テスト 3分間の書記自由再生。3)自己生成確認試行 各記銘語に対して,指示された情報を想起したか,想起していないかを○印でチェック。実験終了後,本実験の意図を解説し,全員が再生テスト及び想起エピソード確認用紙を提出してくれた。
結 果
Table 1。分散分析の結果,生成の有無及び情報型の主効果(p<.001)及び生成の有無×情報型の交互作用が有意傾向(p<.08)であった。この交互作用について単純主効果検定を行ったところ,生成有では情報型の単純主効果が有意であったが(人物>意味),生成無では有意でなかった(人物=意味)。
考 察
意図記憶においても,参加者が自己生成した人物情報は意味情報よりも有効であることが明らかになった。人物情報は意味情報よりも差異性が高く,意図記憶事態において記銘語の検索手がかりとして有効に機能したと解釈された。また,豊田・喜田(2010)では,有名人名を人物情報として提示したが,参加者が自己生成した人物であれば,有名人でなくても検索手がかりとして有効であることが明らかになった。