[PA041] 自伝的記憶の機能と達成動機との関連性
キーワード:自伝的記憶, アイデンティティ, 達成動機
【目 的】
これまでの人生において自分が経験した出来事に関する記憶は自伝的記憶と呼ばれる。自伝的記憶には自己機能(自己の連続性や一貫性を支える機能),方向づけ機能(判断や行動を方向づける機能),社会機能(対人コミュニケーションに用いる機能)の3つの機能の存在が指摘されている(Bluck, 2003)。これらの機能の使用頻度を測定する尺度としてTALE(Thinking About Life Experience)が開発され(Bluck & Alea, 2011),邦訳版が作成されている(落合・小口, 2013)。
中でも自己機能はアイデンティティの達成を支える意味で極めて重要である。実際に,自伝的記憶を想起することで,アイデンティティの達成度が促進されることが実証的研究から報告されている(e.g., 山本, 2015)。
ところで,近年,大学生における主体的な学習を促す心理的要因に関する研究の一環として,アイデンティティと学習の動機づけとの関連性が検討されている(e.g., 畑野・原田, 2014; 溝上, 2010)。これらの知見では,両者の関連性が示唆されるが,だとすれば,アイデンティティが動機づけに影響を及ぼす過程の中で,自伝的記憶による影響を考慮する必要がある。
そこで本研究では,動機づけの中でも達成動機(achievement motives)に注目し,自伝的記憶の自己機能との関係性を検討する。具体的には,想起された自伝的記憶がどの程度アイデンティティの中心成分をなしているかを出来事中心性尺度日本語版(The Centrality of Event Scale, 以下CES, Rubin & Berntsen, 2008/ 2008)を用いることにより測定する。そして,TALEと達成動機尺度(掘野・森, 1991)を用いて,それらの三者間の関係性を検討した。
【方 法】
参加者と手続き 大学生220名(男性74名・女性145名,不明1名)であった。平均年齢は19.41歳(SD=1.30)であった。授業時間を用いて一斉に調査を行った(約15分)。
調査用紙 調査項目はA3用紙に両面印刷された。用紙には年齢と性別の記入欄,自伝的記憶想起課題欄,CES7項目(1=“全く違う”,5=“全くその通り”の5段階),TALE(自己継続機能,行動方向づけ機能,社会的結合機能の3因子から構成)8項目と付属の質問として想起頻度と話す頻度(いずれも1=“ほとんどしない”,5=“非常に頻繁にする”の5段階),達成動機尺度(自己充実的達成動機と競争的達成動機の2因子から構成)23項目(1=“全然当てはまらない”,7=“非常によく当てはまる”の7段階)が印刷されていた。自伝的記憶想起課題欄では,“あなたの人生におけるターニングポイントとなる出来事を思い出して簡単に述べて下さい”と教示し,100字程度の自由記述を求めた。
【結果と考察】
自己機能がCESを媒介して達成動機を促すのかを検討するために,共分散構造分析を行った(Figure 1)。その結果,自己機能を示す自己継続機能からCESへの係数が有意であり(p<.05),またCESから自己充実的達成動機にも有意な効果(p<.05)が確認された。すなわち,自己機能として自伝的記憶を活用するほど,その記憶がアイデンティティに強く影響し,その結果,自己充実的達成動機が促される可能性が示唆された。
これまでの人生において自分が経験した出来事に関する記憶は自伝的記憶と呼ばれる。自伝的記憶には自己機能(自己の連続性や一貫性を支える機能),方向づけ機能(判断や行動を方向づける機能),社会機能(対人コミュニケーションに用いる機能)の3つの機能の存在が指摘されている(Bluck, 2003)。これらの機能の使用頻度を測定する尺度としてTALE(Thinking About Life Experience)が開発され(Bluck & Alea, 2011),邦訳版が作成されている(落合・小口, 2013)。
中でも自己機能はアイデンティティの達成を支える意味で極めて重要である。実際に,自伝的記憶を想起することで,アイデンティティの達成度が促進されることが実証的研究から報告されている(e.g., 山本, 2015)。
ところで,近年,大学生における主体的な学習を促す心理的要因に関する研究の一環として,アイデンティティと学習の動機づけとの関連性が検討されている(e.g., 畑野・原田, 2014; 溝上, 2010)。これらの知見では,両者の関連性が示唆されるが,だとすれば,アイデンティティが動機づけに影響を及ぼす過程の中で,自伝的記憶による影響を考慮する必要がある。
そこで本研究では,動機づけの中でも達成動機(achievement motives)に注目し,自伝的記憶の自己機能との関係性を検討する。具体的には,想起された自伝的記憶がどの程度アイデンティティの中心成分をなしているかを出来事中心性尺度日本語版(The Centrality of Event Scale, 以下CES, Rubin & Berntsen, 2008/ 2008)を用いることにより測定する。そして,TALEと達成動機尺度(掘野・森, 1991)を用いて,それらの三者間の関係性を検討した。
【方 法】
参加者と手続き 大学生220名(男性74名・女性145名,不明1名)であった。平均年齢は19.41歳(SD=1.30)であった。授業時間を用いて一斉に調査を行った(約15分)。
調査用紙 調査項目はA3用紙に両面印刷された。用紙には年齢と性別の記入欄,自伝的記憶想起課題欄,CES7項目(1=“全く違う”,5=“全くその通り”の5段階),TALE(自己継続機能,行動方向づけ機能,社会的結合機能の3因子から構成)8項目と付属の質問として想起頻度と話す頻度(いずれも1=“ほとんどしない”,5=“非常に頻繁にする”の5段階),達成動機尺度(自己充実的達成動機と競争的達成動機の2因子から構成)23項目(1=“全然当てはまらない”,7=“非常によく当てはまる”の7段階)が印刷されていた。自伝的記憶想起課題欄では,“あなたの人生におけるターニングポイントとなる出来事を思い出して簡単に述べて下さい”と教示し,100字程度の自由記述を求めた。
【結果と考察】
自己機能がCESを媒介して達成動機を促すのかを検討するために,共分散構造分析を行った(Figure 1)。その結果,自己機能を示す自己継続機能からCESへの係数が有意であり(p<.05),またCESから自己充実的達成動機にも有意な効果(p<.05)が確認された。すなわち,自己機能として自伝的記憶を活用するほど,その記憶がアイデンティティに強く影響し,その結果,自己充実的達成動機が促される可能性が示唆された。