[PA056] 就職活動不安と他者との比較が就職活動意欲に及ぼす影響
キーワード:就職活動不安, 社会的比較, 意欲
問題と目的
就職活動に際し,ストレスや不安などの心理的問題を抱える者も多い。しかし,就職不安が高いと活動が促進されるという影響があることも報告されている(Blustein & Philips, 1988)。森田(2014)は,自己効力感の高さと就職活動不安が関連し,就職活動においてどのような対処方略をとるかに影響を与える可能性を示している。就職活動中に,自己効力感の高さを左右する要因として,他者との比較が挙げられる。特に近年はSNSの普及により,他者の情報が多く得られる。そこで本研究では,次の2点について質問紙実験を行って検討する。第1点は,SNSで得られる他者の就職活動状況の情報によって社会的比較が生じた場合,それが就職活動への意欲にどのような影響を及ぼすかである。第2点は,就職活動不安の高さにより,社会的比較が意欲に及ぼす影響が異なるかである。
方法
参加者 一般企業への就職が内定している4年生131名が実験に参加した。
質問紙と手続き 質問紙は,第1部の仮想場面法を用いた実験と,第2部の就職活動不安測定の2部から構成されていた。第1部では,就職活動中にSNSを通じ,社会的比較が生じやすい情報を得たという仮想場面を提示した。2(心理的距離:遠・近)×2(社会的比較:優・劣)の4場面を準備した。心理的距離として,SNSの発信者すなわち社会的比較が生じるであろう相手との就職活動の類似性(所属大学および業種)を参加者間で操作した。社会的比較の優劣については,SNSで受け取った情報において,相手より自分のほうが高パフォーマンスを示している優条件と,相手のほうが高パフォーマンスを示している劣条件を設けて参加者内で操作した。それぞれの仮想場面の後,就職活動意欲を測定した。6種類の就職活動準備行動に対する意欲の変化を,それぞれ5件法で回答させた。第2部では,松田・永作・新井(2010)が作成した就職活動不安尺度20項目に回答させた。アピール不安・サポート不安・活動継続不安・試験不安・準備不足不安の5つの下位尺度4項目ずつから構成される尺度であった。
結果
就職活動不安尺度の5つの下位尺度それぞれの得点(高いほど不安が高いことを示す)に基づき,5種類の不安についてそれぞれ参加者を不安高群,不安低群に割り当てた。まず2(不安:高・低)×2 (心理的距離:遠・近)×2(社会的比較:優・劣)の3要因分散分析を行ったところ,いずれの不安に関しても,心理的距離の遠い条件においては,不安や社会的比較の効果はみられなかった。そこで以降は,社会的距離の近い他者との比較(近条件)についての結果について述べる。
5つの不安ごとに,2(不安:高・低)×2(社会的比較:優・劣)の4条件の意欲得点を算出した(Table 1)。2要因分散分析を行ったところ,すべての不安において,社会的比較の主効果が有意であった。劣条件のほうが優条件より意欲得点が高かった。不安の主効果は有意ではなかったが,活動継続不安においてのみ不安と社会的比較の交互作用が有意であった。活動継続不安低群においてのみ社会的比較の単純主効果が有意であり,劣条件のほうが優条件より意欲得点が高かった。高群ではそのような差がみられなかった。
考察
SNSによって,心理的距離が比較的近い他者の情報を得た場合,全般的に自分より相手のほうが優れたパフォーマンスを示す情報を得たときに,就職活動への意欲が高まりやすかった。他者の情報を得て自信を失い,意欲が減衰するという現象は,全体的にはあまり生じなかったことになる。
ただし,活動継続不安が高い者については,そのような意欲の高まりやすさがみられなかった。活動継続不安は,“就職活動を途中で諦めてしまわないか不安である”などの項目から構成されている。この不安が高い人は就職活動全体についての自己効力感が低い者であった可能性がある。したがって,自分が相手より劣っているという情報を得ても,意欲が高まりにくかったと推測される。
就職活動に際し,ストレスや不安などの心理的問題を抱える者も多い。しかし,就職不安が高いと活動が促進されるという影響があることも報告されている(Blustein & Philips, 1988)。森田(2014)は,自己効力感の高さと就職活動不安が関連し,就職活動においてどのような対処方略をとるかに影響を与える可能性を示している。就職活動中に,自己効力感の高さを左右する要因として,他者との比較が挙げられる。特に近年はSNSの普及により,他者の情報が多く得られる。そこで本研究では,次の2点について質問紙実験を行って検討する。第1点は,SNSで得られる他者の就職活動状況の情報によって社会的比較が生じた場合,それが就職活動への意欲にどのような影響を及ぼすかである。第2点は,就職活動不安の高さにより,社会的比較が意欲に及ぼす影響が異なるかである。
方法
参加者 一般企業への就職が内定している4年生131名が実験に参加した。
質問紙と手続き 質問紙は,第1部の仮想場面法を用いた実験と,第2部の就職活動不安測定の2部から構成されていた。第1部では,就職活動中にSNSを通じ,社会的比較が生じやすい情報を得たという仮想場面を提示した。2(心理的距離:遠・近)×2(社会的比較:優・劣)の4場面を準備した。心理的距離として,SNSの発信者すなわち社会的比較が生じるであろう相手との就職活動の類似性(所属大学および業種)を参加者間で操作した。社会的比較の優劣については,SNSで受け取った情報において,相手より自分のほうが高パフォーマンスを示している優条件と,相手のほうが高パフォーマンスを示している劣条件を設けて参加者内で操作した。それぞれの仮想場面の後,就職活動意欲を測定した。6種類の就職活動準備行動に対する意欲の変化を,それぞれ5件法で回答させた。第2部では,松田・永作・新井(2010)が作成した就職活動不安尺度20項目に回答させた。アピール不安・サポート不安・活動継続不安・試験不安・準備不足不安の5つの下位尺度4項目ずつから構成される尺度であった。
結果
就職活動不安尺度の5つの下位尺度それぞれの得点(高いほど不安が高いことを示す)に基づき,5種類の不安についてそれぞれ参加者を不安高群,不安低群に割り当てた。まず2(不安:高・低)×2 (心理的距離:遠・近)×2(社会的比較:優・劣)の3要因分散分析を行ったところ,いずれの不安に関しても,心理的距離の遠い条件においては,不安や社会的比較の効果はみられなかった。そこで以降は,社会的距離の近い他者との比較(近条件)についての結果について述べる。
5つの不安ごとに,2(不安:高・低)×2(社会的比較:優・劣)の4条件の意欲得点を算出した(Table 1)。2要因分散分析を行ったところ,すべての不安において,社会的比較の主効果が有意であった。劣条件のほうが優条件より意欲得点が高かった。不安の主効果は有意ではなかったが,活動継続不安においてのみ不安と社会的比較の交互作用が有意であった。活動継続不安低群においてのみ社会的比較の単純主効果が有意であり,劣条件のほうが優条件より意欲得点が高かった。高群ではそのような差がみられなかった。
考察
SNSによって,心理的距離が比較的近い他者の情報を得た場合,全般的に自分より相手のほうが優れたパフォーマンスを示す情報を得たときに,就職活動への意欲が高まりやすかった。他者の情報を得て自信を失い,意欲が減衰するという現象は,全体的にはあまり生じなかったことになる。
ただし,活動継続不安が高い者については,そのような意欲の高まりやすさがみられなかった。活動継続不安は,“就職活動を途中で諦めてしまわないか不安である”などの項目から構成されている。この不安が高い人は就職活動全体についての自己効力感が低い者であった可能性がある。したがって,自分が相手より劣っているという情報を得ても,意欲が高まりにくかったと推測される。