日本教育心理学会第57回総会

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2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA058] 保育士の母親とのコミュニケーションが母親の育児ストレスに与える影響

大内善広1, 野澤義隆2, 萩原康仁3 (1.城西国際大学, 2.立正大学, 3.国立教育政策研究所)

キーワード:育児ストレス, 傾聴, 母親理解

目 的
本研究では,保育所を利用している母親について,保育士の保護者支援としてのコミュニケーションが母親にどのように受けとめられ,その結果,育児ストレスやマルトリートメントにどのような影響を与えるのかを検討する。その際,子どもの年齢について3歳未満児クラスと3歳以上児クラスに群分けを行い,その違いについても検討する。
方 法
調査方法 調査は2013年7月から8月にかけてT県内の保育所を対象に行われた。各保育所の以上児クラスと未満児クラスの1クラスずつを対象に母親および保育士に対して質問紙の配布・回収した。104箇所の保育所より母親2882件,保育士630件データが得られた。
調査項目 以下の全ての因子については5件法にて回答を求めた。
1.母親
傾聴の受けとめ(3項目):保育士が傾聴してくれていると思うかについて尋ねた。
母親理解の受けとめ(3項目):保育士が母親の仕事や価値観などの子育て以外の部分について理解を示してもらっていると思うかについて尋ねた。
育児ストレス:負担感,時間のなさ,不安感についてそれぞれ3項目で尋ねた。
マルトリートメント(3項目):子どもへの不適切な関わりについての認識を尋ねた。
2.保育士
傾聴(3項目):母親に対して傾聴していると思うかについて尋ねた。
母親理解(3項目):母親の仕事や価値観などの子育て以外の部分について理解を示していると思うかについて尋ねた。
なお,質問項目は全て母親と対応させるように作成した。
結果と考察
Figure 1のモデルで,以上児クラスと未満児クラスの2つの母集団を想定したマルチレベルSEMによる分析を行った。最終的なモデルの適合度は,CFI=.977,RMSEA=.014,SRMR(within)=.030,SRMR(between)=.080であった。

クラス間で共通した結果として,負担感を傾聴の受けとめが,時間のなさと不安感を母親理解の受けとめが低めていた(p<.05)。負担感を母親理解の受けとめが低めることについては,以上児クラスでは有意な効果(p<.05),未満児クラスでは有意傾向(p<.10)が見られた。また,負担感や不安感がマルトリートメントを高めていた(p<.05)。
未満児クラスのみ見られた結果としては,負担感への保育士の傾聴の負の影響(p<.05),時間のなさへの保育士の母親理解の正の影響(p<.05),マルトリートメントへの時間のなさの負の影響(p<.05),傾聴の受けとめへの保育士の傾聴の負の影響(p<.05)と保育士の母親理解の正の影響(p<.05),母親理解の受けとめへの保育士の母親理解の正の影響(p<.10)であった。
以上の結果から,保育士の傾聴や母親理解が必ずしも母親に適切に受けとめられてはいないが,保育士に傾聴してもらい,母親自身のことを理解してもらえていると母親が認識することが,育児ストレスを軽減し,マルトリートメントの抑制に繋がっているという傾向が示された。