日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA066] 青年期における変容を志向する自己概念の発達

現実自己と理想自己の個人差に着目して

千島雄太 (筑波大学大学院・日本学術振興会)

キーワード:青年期, 自己変容, 個人差

問題と目的
これまで,自己概念の変容を志向することについては,大きく二つの観点から検討が行われてきた。第1に,現実自己に着目した検討である(千島, 2014; Kiecolt&Marbry, 2000; 水間, 2003; Taylor, Neter, Wayment, 1995)。第2に,理想自己に着目した検討である(Higgins, 1987; 水間, 1998; Moretti& Higgins, 1990)。両者を統合し,今のどのような自分を(現実自己),この先どのような自分へ(理想自己)と変えたいのかを尋ねることで,自己概念の変容を望む気持ちに関する理解が一層深まると考えられる。そのため,本研究では,現実自己の変容志向性(例: 人見知りな自分を変えたい)と,理想自己への変容志向性(例: 社交的な自分に変えたい)を区別し,両者の特徴を比較する。
また,Zentner& Renaud(2007)は,青年期以前には安定した理想自己の表象が生成されにくいことを指摘しており,青年期前期では必ずしも皆が理想自己を具体的に記述できるとは限らないことが考えられる。そこで,本研究では,変容を志向する現実自己・理想自己の回答様式の個人差について,青年期発達の観点から検討する。
方 法
手続き 2014年6―9月に質問紙調査を実施した。対象は,中学生433名,高校生597名,大学生393名,計1423名であった。
調査内容 1.現実自己の変容志向性:“現在,私は“ 自分”を変えたいと思っています。”という空欄を用意し,一つ記述を求めた。“変えたいと思っていない,思いつかない,質問の意味が理解できない”のチェック欄も設けた。
2.理想自己への変容志向性:“この先,私は“ 自分”を,“ 自分”に変えたいと思っています。”という空欄を用意し,調査内容1と対応させる形で一つ記述を求めた。“思いつかない,質問の意味が理解できない”のチェック欄も設けた。3.自尊感情(10項目,5件法):Rosenberg(1965)で作成され,桜井(2000)によって翻訳された尺度を使用した。4.未来焦点(4項目, 7件法):Shipp, Edwards, & Lambert(2009)で作成された時間的焦点尺度のうち,未来焦点の下位尺度を翻訳して使用した。
結果と考察
対象者を,現実自己,理想自己の回答様式によって4群に分類した(A群:変容への志向性を持たない者,B群:変えたい現実自己が思いつかない者,C群:現実自己は具体的であるが,理想自己が思いつかない者,D群:両方の自己が具体的な者)。
学校段階×4群のクロス集計表を作成し,χ2分析を行った結果,連関が有意であった(χ2= 53.05, p< .001, V = .14)。残差分析の結果,中学生においてA群とB群の割合が多く,大学生においてC群とD群の割合が多かった。
学校段階と4群を要因とし,自尊感情と未来焦点を従属変数とした分散分析を行った。分析の結果,自尊感情と未来焦点ともに交互作用が有意であった(Figure1, 2)。以上の結果から,具体的な理想自己を持って自己変容を志向することは,特に中学生において,自尊感情や未来焦点の向上をもたらすことが明らかになった。
Key word 青年期,自己変容,個人差