The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PA

Wed. Aug 26, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PA068] 児童における道徳的・慣習的な違反行為の判断

日常と異なる場面での判断の発達的変化

中道圭人1, 村越真#2, 藤井基貴#3 (1.静岡大学, 2.静岡大学, 3.静岡大学)

Keywords:小学生, 道徳, 安全教育

【目 的】
子ども達は日常の中で多くの社会的規範(ルール)に接する。この社会的ルールは,正義の概念に基づく道徳領域(例:他者の福祉,信頼)や,社会システムに基づく慣習領域(例:校則,食事のマナー)といった複数の領域から構成される(e.g. Turiel, 1983)。慣習領域のルールは,集団の合意や権威をはじめ,状況に影響される特徴を持つ。これらの特徴を児童がどう理解しているかを知ることは,地震等の普段の状況とは異なる場面での行動ルールを教授したり,意思決定を育む上で重要となる。そこで本研究では,児童の道徳的・慣習的なルールやその違反に関する判断が,日常的な場面と非日常的な場面で変化するかを検討した。
【方 法】
参加者:公立小学校に通う3年生147名(女84;M=8.65歳,SD=.48),4年生115名(女55;M=9.74歳,SD=.67),5年生129名(女60;M=10.61歳,SD=.54),6年生126名(女64;M=11.71歳,SD=.46),およびS大学教育学部の大学生109名(女67;M=19.42歳,SD=1.39)の計626名。
手続き:小学生にはクラス毎に,大学生には講義毎に,統制文脈あるいは非日常文脈の質問紙を集団で実施した。各年齢群の約半数(248名)には統制文脈の質問紙,残り(378名)には非日常文脈の質問紙を実施した。
統制文脈の質問紙では,道徳領域の違反に関する物語(A.人を叩く,B.人の物を盗む)や,慣習領域の違反に関する物語(A.決まった場所以外に自分の物を置く,B.廊下を走る)を提示した後,それぞれの行為に関する違反性(その行為は良いことか,悪いことか:2件法),規則可変性(皆で話し合えば,その行為をしていいか:3件法),権威依存性(先生が許可すれば,その行為をしていいか:3件法)を尋ねた。道徳・慣習それぞれの物語は,A・Bのいずれか1つを提示され,参加者間でカウンターバランスされた。
非日常文脈の質問紙は,規則可変性と権威依存性の質問の前に「地震や台風等,普段とは違う状況である」ことの説明文があることを除き,統制文脈と同様であった。
【結 果】
行為の違反性:道徳領域の物語の行為に対して99.5%(623名)が,慣習領域の物語の行為に対して98.4%(615名)が「悪い」を選択した。これらから,本研究で設定した違反行為の妥当性が確認された。
行為の規則可変性および権威依存性:「してはいけない」から「していい」をそれぞれ1~3点に得点化し,各質問の行為許容得点を算出した(Table 1)。
規則可変性・権威依存性それぞれの得点を用いて,領域(2)×年齢群(5)×文脈(2)の分散分析を行った。規則可変性に関して,領域(F (1, 612)=44.20, p<.01)および文脈(F (1, 612)=21.21, p<.01)の主効果が有意で,道徳より慣習で,統制文脈より非日常文脈で得点が高かった。また,領域×年齢群×文脈の交互作用(F (4, 612)=12.94, p<.01)が有意であった。下位検定によると,3・4年生の得点は領域・文脈による違いはないが,5・6年生の得点は非日常文脈の慣習領域で高く,大学生の得点は非日常文脈の慣習領域で高いと共に,統制文脈の道徳領域で低かった。
権威依存性に関して,領域(F (1, 615)=90.09, p<.01)および文脈(F (1, 615)=56.92, p<.01)の主効果が有意で,道徳より慣習で,統制文脈より非日常文脈で得点が高かった。また,領域×年齢群×文脈の交互作用(F (4, 615)=10.65, p<.01)が有意であった。下位検定によると,統制文脈の得点は全体的に低い一方で,非日常文脈では,3・4年生の得点は統制文脈と同程度で,5・6年生の得点は道徳・慣習のいずれにおいても統制文脈より高く,大学生の得点は非日常文脈の慣習領域で最も高かった。
【考 察】
中学年の児童は,高学年や大学生に比べて,慣習領域の行為の判断が文脈(状況)によって変化しなかった。彼らの慣習的なルールに対する傾倒は,日常では尊重されるものだが,非常時にはネガティブに作用する可能性がある。子どもの判断の発達を踏まえた指導が必要であろう。
〔付記:本研究は科研費・萌芽研究(25590263)の助成を受けた〕