日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA077] セルフコンパッションと学業的延引行動との関係

学業的動機づけ要因を媒介として

龍祐吉1, 河野順子2, 小川内哲生3 (1.東海学園大学, 2.東海学園大学, 3.尚絅大学短期大学部)

キーワード:セルフコンパッション, 学業的延引行動

問題と目的
学業的延引行動とは,先延ばしともいい,重要な課題の着手や完了を不必要に遅らせる行動である(Lay, 1986)。近年,セルフコンパッション(自己への慈しみ)(Neff, 2003)との関係が注目されている。セルフコンパッションが機能することよって,非機能的な認知や情緒が緩和され,学業に関わる資源の投入が促され学業的延引行動が抑制される(Williams et al., 2008)。しかし,従来の研究(Williams et al., 2008; Iskender, 2011)は一貫した結果を報告していない。そこで,本研究は,2変数間の関係が,研究間で不一致の場合には共通の関連要因を媒介変数として仮定すべきという見解(Seo, 2008)に則り,媒介要因として学業に関わる動機づけ要因(自己効力感と自律的動機づけ)を組み込む。さらにセルフコンパッションの3つの対極的下位尺度ごとに学業的延引行動との関係を検討することを目的とした。
方 法
調査対象者 大学生246名(男59名 女158名 不明29名)平均年齢 20.6歳 標準偏差 1.97
手続き 授業時間の一部を活用し,研究倫理を踏まえて実施した。調査時期 2014年12月~1月
調査に用いた測定尺度
⑴ 学業的延引行動:Schouwenburg(1995)のThe Academic Procrastination State Inventory(APSI)の中で学業的延引行動に直接関連する邦訳版(龍・小川内・橋元, 2006)を用いた。全13項目から構成され,「遅延する」「他の事をする」という観点から作成されている。
⑵ セルフコンパッション:有光(2014)を用いた。6つの下位尺度,合計26項目から構成される。本研究では,3つの対極的下位尺度(Self-kindness [self-kindness vs. self-judgemen, Common Humanity [common humanity vs. .isolatio, Mindfulness [mindfulness vs. self-identificatio)について得点化した。
⑶ 自律的動機づけ:伊藤(2010)を用いた。4つの下位尺度(外的調整,取入れ的調整,同一化的調整,内発的動機づけ),各3項目から構成させる。本研究では,先行研究(伊藤, 2010など)に則り,自律性という観点から下位尺度ごとに得点の重みづけを行い,自律的動機づけ(SDI)得点を算出した。
⑷ 自己効力感:伊藤(1996)の動機づけ尺度の中で,学業に関わる自己効力感に関する9項目を用いた。
結 果
セルフコンパッション⇒動機づけ⇒学業的延引行動のモデルを検証するために,パス解析(AMOSによる)を実施した。その結果, (1)Mindfulnessは,直接的そして自律的動機づけと自己効力感を共に促すことを通じて間接的に学業的延引行動を抑制する。(2)Self-Kindnessは学業的延引行動を直接的に高めることが示された。(3) Common Humanityは有意な関係が見られない 。以上Figure 1参照
考 察
セルフコンパッションの3つの対極的下位尺度ごとに学業的延引行動に対して,影響の仕方が異なることが示された。学業的場面においては,失敗に拘泥せず,むしろ受容して適度なバランス状態を維持して関わること(Mindfulness)が,自己効力感を促し,学業的動機づけを自律的に駆り立てることを媒介として,なおかつ直接的に学業的延引行動を低減させる。しかし自分自身に対して「自己批判をしないで,自分自身にやさしくする」(Self-Kindness)などの考えを向けることが,却って学業的成果に対する安直さや回避傾向を増大させて,能動的な姿勢を妨げ,最終的に学業的不適応状態に陥らせる可能性があることを示している。本邦においては自己批判が肯定的なものとして捉えられている(有光, 2014)。そのため自己批判によって,自己への省察が行われ学業に集中することを促すものと推察される。