日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB003] 小学校から中学校への移行期における学級内での児童・生徒の関係性の変化

Q-Uを用いたクラス内関係性の分析

河合優年1, 寺井朋子2, 高井弘弥3 (1.武庫川女子大学, 2.武庫川女子大学, 3.武庫川女子大学)

キーワード:小中接続, 縦断研究, Q-U

問題と目的
小学校と中学校の接続が新たな教育の課題となっている中で,小中の移行過程における子どもたちの心理的揺れについての研究を早急に進める必要がある。同じ構成員からなる小中連携学校では,小学校時代の良好な友人関係が,中学での新たな学習環境への適応と関係すると考えられる。
本研究では,小学校入学時点から中学3年生までの学級内の関係性を縦断的に追跡している研究の中から,小学校から中学校への移行期を含む2学年についての2年間のデータを比較し,学年集団の特徴が中学校にも持ち越されるのかどうかの検討をおこなった。
方法
調査時期 2012~2014年度の春(6月)と冬(12月)の合計6回。
対象者 関西にある公立A小学校と進学先の公立B中学校の全校生徒。対象は,2012・2013年度時点に小学校6年生であった児童のうち,小6(2回)と中1(2回)の計4回分がそろっている合計200名(2012年度小6が105名,2013年度小6が95名。男子99名,女子101名)であった。
手順 本調査は小中学校との共同研究として行われており,毎年6月と12月に調査を実施している。Q-U調査の実施は担任によってなされ,校長がとりまとめて保管する。データの受け渡しについては,個人情報保護のため,名表に対応したID数字を記した調査票を研究グループが直接受領し,入力をおこなった。保管は,研究室の保管庫で行い,入力後,学校に返却される。
今回の分析対象 本研究においては,児童・生徒の学級内での関係性を取り出すために,河村・田上(1997)によって開発されたQ-Uの中の,承認得点と被侵害得点を,学級内の児童・生徒の関係性の指標とした。承認・被侵害得点は,それぞれ,小学校は4件法×6項目=24点満点,中学校は5件法×10項目=50点満点であった。
結果
QUでは,縦軸に承認得点,横軸に被侵害得点をおき,第1象限(承認得点が高く被侵害得点が低い学級生活満足群)から第4象限の中に対象児を位置づけている。承認得点と被侵害得点は小中で異なるため,2軸の交点からの距離で児童・生徒の関係性把握を行った。基準点は,小学校高学年は承認が18.5点,被侵害が11.5点,中学校は承認33.5点,被侵害21.5点となっている。
ここでは,素点から基準点を引いた得点を承認相対得点,被侵害相対得点と呼ぶこととする。承認相対得点はプラスであれば基準以上に承認されていることが示され,被侵害相対得点の場合はプラスであれば基準以上に被侵害を受けていることとなる。4回の調査とも承認相対得点がプラスであったのは57名(男子22名,女子35名)であり,4回とも被侵害相対得点がプラスであったのは27名(男子17名,女子10名)であり,全体的に女子の方が良好な関係性を築けているようであった。
相対得点について,4時点の相関関係を調べた。全体的な傾向としては,男女ともに小学校の12月時点での結果が中学校での結果と相関を持っており,中1の春がその年度の12月の結果と高い相関を持つことが読みとれる。さらに学年集団別に見てみたところ,2012年グループの安定性が低く,進学後もその傾向が見られることが示唆された。
このことは,小学校から中学校への移行が必ずしも,子どもにとって心機一転の機会となるのではなく,キャリーオーバー的な形で関係の不安定さを持ち越す可能性のあることを示唆するものと考えられる。