日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB007] アジアの日本語幼稚園に通う幼児の異文化体験と異文化適応

首藤敏元1, 伊多波美奈#2 (1.埼玉大学, 2.埼玉大学大学院)

キーワード:多文化教育, 適応, 幼児教育

目的
本研究は,日本人駐在家族が急増するアジア地域,特にバンコクと上海に焦点を当て,日本語幼稚園に通う幼児の異文化体験の様相を明らかにし,それと彼らの異文化適応との関連について検討することを目的とする。
方法
参加者 バンコクと上海にあるOISCA日本語幼稚園,合計4園に在籍する3歳から6歳の幼児360名(平均年齢 4歳10カ月,男子211名 女子149名)の保護者が調査に協力した。
質問項目 子どもの異文化体験18項目,文化的差違体験と異文化感情10項目,幼児の文化的差違体験時の親の関わり方12項目,幼児の異文化適応12項目を作成した。評定はすべて6件法であった。
手続き 調査は2013年7月と9月に実施された。質問紙は幼児を通して家庭に配布され,1週間後に回収された。回収率は85%であった。
結果
1.調査協力者のプロフィール
幼児の65%が2名きょうだい,20%が一人っ子。子どもの現地滞在期間の平均は2年,3歳,4歳,5歳の年齢別に,滞在期間1年未満,1年以上2年未満,2年以上の3群を設定した。
2.幼児の異文化体験
幼児の日常生活での文化的体験に関する18項目を因子分析し,4因子を抽出した。第1因子-深い異文化体験,第2因子-表面的異文化体験,第3因子-日本人コミュニティ経験,第4因子-日本のメディア接触。全体的に異文化体験の低さ,異文化においても自文化に触れる機会の多さが顕著であった。
3.幼児の文化的差違体験と異文化感情
文化的差違体験に関する項目は一因子構造であった。ANOVAの結果,年齢の主効果のみ有意となり,5歳児(M=2.25)は3歳児(M=1.46)と4歳児(M=1.70)よりも文化的差違体験を多く経験していた。異文化差違感情の10項目も一因子構造,全体の平均値は-1.16であり,幼児の異文化差違感情は全体的にnegativeであった(Figure1)。
4.幼児の文化的差違体験時の親の関わり方
12項目について因子分析し,第1因子-共感的・積極的対応,第2因子-抑制回避的対応,第3因子-自文化中心的対応の3因子を抽出した。幼児の年齢が高くなるほど,親の共感的・積極的対応と抑制回避的対応の両方が強くなった。
5.幼児の異文化適応
12項目について因子分析し,現地の文化と生活に積極的に関心を示す「異文化指向」と,現地文化との接触を避けようとする「自文化指向」の2つの因子を抽出した。ANOVAの結果,滞在期間が1年以上2年未満の3歳児よりも,2年以上滞在している3歳児の方が現地文化に積極的な指向性を示していた。4歳児と5歳児は3歳児よりも自文化指向を強く示した。また3歳児と4歳児では滞在期間の長いほど自文化指向ではなくなっていたものの,5歳児ではその傾向は認められなかった。
6.幼児の異文化適応と文化的差違体験,異文化感情,親の関わり方との関連
幼児の異文化指向を目的変数とした重回帰分析の結果,幼児の異文化体験と親の関わり方,及びpositiveな異文化差違感情は積極的な異文化指向を有意に説明できることが示された。
考察
本研究の結果は,帰国を前提とする駐在員の家庭では,幼児を積極的に現地社会に連れて行くことが少ないことを示唆している。
幼児の異文化感情は一様にnegativeであったが,5歳児を除いて滞在期間が長いほど幼児はpositiveな異文化感情を持つようになっていた。小学校就学をひかえた5歳児では,文化的差違体験の意味づけが4歳児までとは異なることが示唆される