[PB010] 心の減災教育プログラムの効果測定に関する研究(8)
成人対象プログラムの開発・試行実施と効果の検討
Keywords:心の減災教育, 災害ストレス, 認知の修正
問題と目的
筆者ら(吉武ら,2013,2014他)は,災害時に生じる心理的被害を減らし,さらに,日常的な心の健康を増進させる心理教育〈心の減災教育〉プログラムを開発し,小学校高学年を対象に試行実施・効果検証を行ってきた。次の段階として,中高生用プログラム及び,災害発生時に避難所の運営や子どもたちのサポートなどの重要な役割を担う親や地域の大人たちを対象とするプログラムを開発した。本プログラムは,1)災害ストレスの理解,2)災害ストレスに対処するため対処方略(認知の修正,10秒呼吸法,他者との信頼関係)の理解といった構成となっている。
本研究では,成人対象「心の減災教育プログラム」について,実施前後の調査結果から,プログラムの効果について検討すると共に,今後の課題を明らかにする。
方法
【実施】2014年9月~2014年12月にかけて,プログラムを施行し,実施前・後の2時点で効果測定を行った。プログラムの詳細は坪井ら(2015)同名タイトル⑺を参照。
【質問紙調査協力者】A県内で市民講座などに参加した175名(女性63名,男性111名,不明1名,年齢構成は20代16名,30代25名,40代44名,50代34名,60代36名,70代18名,80代2名。回答に不備のなかった175名を分析対象とした。
結果と考察
本プログラムで効果測定に用いた7つの尺度のプログラム実施前/実施後の信頼性係数は「一般的な効力感2項目(α=.61/.52)」「ストレス反応の理解4項目(α=.64/.83)」「対人的信頼感5項目(α=.67/.77)」「他者との信頼関係4項目(α=.73/.81)」「認知の修正5項目(α=.72/.72)」「自尊感情4項目(α=.73/.73)」であった。このほか,「ストレス対処への不安」「避難行動の効力感」「呼吸法の対処効力感」「平常時の呼吸法の行動意図」を1項目で測定した。また,「呼吸法の対処効力感」「平常時の呼吸法の行動意図」はプログラム実施後のみ測定した。Table 1に実施前後の平均値と標準偏差を示した。また,実施したプログラムの効果を検討するため,実施前・実施後を比較した対応のあるt検定を行った(Table 1)。その結果,「ストレス反応の理解」を除く,すべての項目で有意な差が見られた。「ストレス対処への不安」は実施前よりも実施後が低く,「一般的な効力感」「対人的信頼感」「他者との信頼関係」「認知の修正」「自尊感情」は実施前よりも実施後が高かった。いずれも期待方向への有意な変化であり,一時的である可能性はあるにせよ,プログラム実施効果が認められたと言える。
「ストレス反応の理解」には有意な差が見られなかった。これは,本研究の調査協力者が,地域の防災に関心を持ち積極的に市民講座を受講したり,企業内での防災活動を担う立場にあったりしたため,事前にストレスに対する知識を十分に持っていた(平均得点3.58点)可能性が考えられる。
【今後の課題】本研究では,調査実施上の制約から,フォローアップ調査が行えなかった。プログラムの効果を適切に捉えるためには,フォローアップを含めた詳細な検討を行う必要がある。
筆者ら(吉武ら,2013,2014他)は,災害時に生じる心理的被害を減らし,さらに,日常的な心の健康を増進させる心理教育〈心の減災教育〉プログラムを開発し,小学校高学年を対象に試行実施・効果検証を行ってきた。次の段階として,中高生用プログラム及び,災害発生時に避難所の運営や子どもたちのサポートなどの重要な役割を担う親や地域の大人たちを対象とするプログラムを開発した。本プログラムは,1)災害ストレスの理解,2)災害ストレスに対処するため対処方略(認知の修正,10秒呼吸法,他者との信頼関係)の理解といった構成となっている。
本研究では,成人対象「心の減災教育プログラム」について,実施前後の調査結果から,プログラムの効果について検討すると共に,今後の課題を明らかにする。
方法
【実施】2014年9月~2014年12月にかけて,プログラムを施行し,実施前・後の2時点で効果測定を行った。プログラムの詳細は坪井ら(2015)同名タイトル⑺を参照。
【質問紙調査協力者】A県内で市民講座などに参加した175名(女性63名,男性111名,不明1名,年齢構成は20代16名,30代25名,40代44名,50代34名,60代36名,70代18名,80代2名。回答に不備のなかった175名を分析対象とした。
結果と考察
本プログラムで効果測定に用いた7つの尺度のプログラム実施前/実施後の信頼性係数は「一般的な効力感2項目(α=.61/.52)」「ストレス反応の理解4項目(α=.64/.83)」「対人的信頼感5項目(α=.67/.77)」「他者との信頼関係4項目(α=.73/.81)」「認知の修正5項目(α=.72/.72)」「自尊感情4項目(α=.73/.73)」であった。このほか,「ストレス対処への不安」「避難行動の効力感」「呼吸法の対処効力感」「平常時の呼吸法の行動意図」を1項目で測定した。また,「呼吸法の対処効力感」「平常時の呼吸法の行動意図」はプログラム実施後のみ測定した。Table 1に実施前後の平均値と標準偏差を示した。また,実施したプログラムの効果を検討するため,実施前・実施後を比較した対応のあるt検定を行った(Table 1)。その結果,「ストレス反応の理解」を除く,すべての項目で有意な差が見られた。「ストレス対処への不安」は実施前よりも実施後が低く,「一般的な効力感」「対人的信頼感」「他者との信頼関係」「認知の修正」「自尊感情」は実施前よりも実施後が高かった。いずれも期待方向への有意な変化であり,一時的である可能性はあるにせよ,プログラム実施効果が認められたと言える。
「ストレス反応の理解」には有意な差が見られなかった。これは,本研究の調査協力者が,地域の防災に関心を持ち積極的に市民講座を受講したり,企業内での防災活動を担う立場にあったりしたため,事前にストレスに対する知識を十分に持っていた(平均得点3.58点)可能性が考えられる。
【今後の課題】本研究では,調査実施上の制約から,フォローアップ調査が行えなかった。プログラムの効果を適切に捉えるためには,フォローアップを含めた詳細な検討を行う必要がある。