日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB018] PC実習におけるピア・ティーチング

太田伸幸 (中部大学)

キーワード:PC実習, ピア・ティーチング

問題と目的
小学校学習指導要領(文部科学省, 2008)によると,「各教科の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」となっており,情報活用能力の基本的部分は,教科の学習を通して習得することとなる(鹿野, 2009)。したがって,小学校教員を希望する児童教育学科学生は,自らの情報リテラシー能力を高めるだけでは不十分で,情報活用能力,情報教育を展開する能力,教科の指導の中に情報活用を盛り込む能力が求められるのである。
そこで,PC実習においてピア・ティーチングを実践し,教えることによって学ぶことの効果について検討する。
方法
調査対象 「教育コンピュータ活用」に履修登録した92名(46名ずつの2クラス)のうち,事前・事後調査の両方に回答した86名を分析対象とした。
調査内容 太田(2009)で用いたネットワーク利用に関する項目(6項目)とOfficeソフトウェア(Word,Excel,PowerPoint)の操作に関する項目(各8項目,計24項目)に対して,4段階で自己評価を求めた。
講義内容 講義初回に調査を実施し,その得点に基づいてどのグループにもPCスキルの自己評価の高い者と低い者が含まれるように12グループ(1グループ3~4名)に分けた。Word,Excel,PowerPointのいずれかをグループ単位で教師役として担当した。実習の前半回ではグループ毎に担当ソフトウェアの実習教材の作成と進め方の検討を行い,後半回ではソフトウェア毎に持ち回りで教師となり実習を進めた。実習では1グループ(3~4人)で2グループ(7~8人)の学生を相手にするため,PCスキルの自己評価の低い学生も。教材の内容について指導できることが求められた.そして,講義最終回では初回と同じ調査を実施した。
結果と考察
実習時の様子 準備段階では,PCスキルの高い学生が中心となって教材準備を進めていたが,教材の内容についてグループ内で共有する必要があるため,PCスキルが低い者に対して教える様子が多く見られた。実習を担当する回では,説明する者はほぼ固定であったが,実習中の質疑応答やサポートについては全員が参加しており,個々のスキルの高さに応じた関与をしていた。ただし,教材の内容,実習の進め方についてはグループ間で共有をする機会を設けていなかったため,実践として今後継続するためには,講義内容の等質性を担保する働きかけが必要となると考えられる。
自己評価の変化 事前調査の結果をもとにPCスキルの高さで3群に分割して比較した(Table1)。事前調査では明確な差であったものが,事後調査では下位群の自己評価の伸びが高く,操作に関して自信を付けてきたことがうかがえる。2要因分散分析を用いて確認したところ,全ての項目で交互作用が有意であり,下位群の自己評価の伸びを裏づける結果であった。教える側では,他の学生に教えるために自分が理解していないと教えられないため,グループ内および個人での自修が進んだことが理由として考えられる。教わる側では,質問できる対象が同じ学生であることに加え,常に近くにいるためサポートをうけやすかったことが原因であると考えられる。