[PB019] 概念構造生成における学習対象概念の構造の影響2
Keywords:概念図, 生成効果, 精緻化
目 的
概念学習においては,学習者自らが対象概念を図として書き起こすと学習促進効果があることが知られている(概念地図,マインドマップ,KJ法など)。しかし,概念の構造は,階層,下位概念,リンクの数など様々であり,その違いによっては,概念図生成の学習効果に差がある可能性が明らかになった。大津(2014)では,家系図問題(階層型概念),工程表問題(直列型概念)を刺激とし,提示した概念図を文章化して覚える条件,文章を提示して概念図を生成する条件の学習効果を, 問題ごとに事後テスト成績により比較した。その結果,直列型の工程表の場合,両条件間に事後テスト成績の差はなく,概念図生成の学習効果は得られなかったと考えられる。対して,階層化され全ての下位概念同志がつながりを持つ家系図の場合,生成条件の方が事後テストの成績が良く,より深い理解につながったと考えられる。但し,問題間で記憶する要素(家系図問題は名前,工程表問題は工程名)に違いがあり,誤差変数となって結果に影響を与えている可能性がある。
そこで本実験では,家系図問題と同一の要素を用いた直列型概念の学習課題として駅伝の走順表問題を作成し,大津(2014)と同様の手続きで結果の検証を行った。実験に際する仮説は以下の通りである。走順表は工程表と同一の単純で理解しやすい構造であり,概念図を生成する効果はない。
方 法
参加者: 18~45歳までの男女60名(平均年齢20.8歳SD3.7,男27女33)
材料:各問題冊子,筆記用具
要因:概念図提示条件と生成条件による学習方法
手続きと課題:実験者の指示の下,10~15人ずつ集団実験を行った。参加者は30人ずつランダムに各条件に振り分けられた。問題の教示は全て問題冊子に記載した。問題冊子の主な内容は以下の通りであった。
・走順表の学習(4分間)
架空の6名の名前(ラベル)と順序を学習
提示条件…ラベル名入りの概念図を提示し課題文のカッコ内にあてはまるラベル名を書き込ませた(例「一番足が速いのは( )である」)。
生成条件…課題文を読ませて走順表を作成させた(例「二番目に足が速いのは○○である」)。
・事後テスト
関係理解問題…ラベル間の関係正誤判断37問(うち12問はディストラクタ)
・再生問題…空欄の走順表にラベル名記入
結 果
再生問題で正解した参加者のみを分析対象とした。再生問題の不正解者数は提示条件6名,生成条件4名であり,カイ二乗検定を行ったが有意差はなかった。関係理解問題について,参加者の平均正答率(正答率1:正答を正答と回答,正答率2:誤答を誤答と回答)を角変換し,平均値をt検定により比較したところ条件間に差はみられなかった(Table 1参照)。
考 察
条件間で事後テストの成績に差がなかったことから,仮説の通り,工程表と同構造の走順表問題では概念図生成の学習効果は得られないことがわかった。走順表問題の正答率は,大津(2014)での家系図問題の提示条件と同程度であった。学習効果については,あくまでも今回行った事後テストのみが基準となっており,今後は他の学習内容についての検討も必要だと思われる。また,他の概念構造についても同様に学習効果の違いを観察したい。
大津嘉代子(2015)概念構造生成における学習対象概念の構造の影響.日本教育心理学会第56回総会発表論文集,387.
概念学習においては,学習者自らが対象概念を図として書き起こすと学習促進効果があることが知られている(概念地図,マインドマップ,KJ法など)。しかし,概念の構造は,階層,下位概念,リンクの数など様々であり,その違いによっては,概念図生成の学習効果に差がある可能性が明らかになった。大津(2014)では,家系図問題(階層型概念),工程表問題(直列型概念)を刺激とし,提示した概念図を文章化して覚える条件,文章を提示して概念図を生成する条件の学習効果を, 問題ごとに事後テスト成績により比較した。その結果,直列型の工程表の場合,両条件間に事後テスト成績の差はなく,概念図生成の学習効果は得られなかったと考えられる。対して,階層化され全ての下位概念同志がつながりを持つ家系図の場合,生成条件の方が事後テストの成績が良く,より深い理解につながったと考えられる。但し,問題間で記憶する要素(家系図問題は名前,工程表問題は工程名)に違いがあり,誤差変数となって結果に影響を与えている可能性がある。
そこで本実験では,家系図問題と同一の要素を用いた直列型概念の学習課題として駅伝の走順表問題を作成し,大津(2014)と同様の手続きで結果の検証を行った。実験に際する仮説は以下の通りである。走順表は工程表と同一の単純で理解しやすい構造であり,概念図を生成する効果はない。
方 法
参加者: 18~45歳までの男女60名(平均年齢20.8歳SD3.7,男27女33)
材料:各問題冊子,筆記用具
要因:概念図提示条件と生成条件による学習方法
手続きと課題:実験者の指示の下,10~15人ずつ集団実験を行った。参加者は30人ずつランダムに各条件に振り分けられた。問題の教示は全て問題冊子に記載した。問題冊子の主な内容は以下の通りであった。
・走順表の学習(4分間)
架空の6名の名前(ラベル)と順序を学習
提示条件…ラベル名入りの概念図を提示し課題文のカッコ内にあてはまるラベル名を書き込ませた(例「一番足が速いのは( )である」)。
生成条件…課題文を読ませて走順表を作成させた(例「二番目に足が速いのは○○である」)。
・事後テスト
関係理解問題…ラベル間の関係正誤判断37問(うち12問はディストラクタ)
・再生問題…空欄の走順表にラベル名記入
結 果
再生問題で正解した参加者のみを分析対象とした。再生問題の不正解者数は提示条件6名,生成条件4名であり,カイ二乗検定を行ったが有意差はなかった。関係理解問題について,参加者の平均正答率(正答率1:正答を正答と回答,正答率2:誤答を誤答と回答)を角変換し,平均値をt検定により比較したところ条件間に差はみられなかった(Table 1参照)。
考 察
条件間で事後テストの成績に差がなかったことから,仮説の通り,工程表と同構造の走順表問題では概念図生成の学習効果は得られないことがわかった。走順表問題の正答率は,大津(2014)での家系図問題の提示条件と同程度であった。学習効果については,あくまでも今回行った事後テストのみが基準となっており,今後は他の学習内容についての検討も必要だと思われる。また,他の概念構造についても同様に学習効果の違いを観察したい。
大津嘉代子(2015)概念構造生成における学習対象概念の構造の影響.日本教育心理学会第56回総会発表論文集,387.