日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB020] 想定する読み手の違いが説明文の内容理解と産出に与える影響

大西康平 (河原医療大学校)

キーワード:説明予期, 協同学習, 自己説明

問題と目的
学ぶ内容を,後で他者に説明してもらうという条件を加えることで,学習効果が高まるとされている(深谷,2014)。これは,説明予期として研究されており,効果をもたらす変数を同定することが今後の課題とされている。本研究は,自分より既有知識の少ない者を説明相手とすることが,効果をもたらす変数になると想定し実験を行った。
全般的手続き
実験は,既有知識の少ない者を想定するという文脈で後輩(来年入学してくる後輩),対照群として,既有知識の多い者である教員(専門家である大学教授),誰も想定させず説明予期のみを与える統制群の3群を比較した。実験手順は,記憶に関する文章を学習材料とし,まず最初に説明予期の想定相手を教示した。学習後に,内容の説明を原稿用紙に説明文として記述し,続いて内容理解度を確認するための事後テストを実施した。
実 験 1
方法
デザイン 課題文読解前に想定する読み手の違い(教員,後輩,読み手を特定しない統制群)を要因とする参加者間1要因計画。
参加者 専門学校生の3学科1から4年生の79名が実験に参加した(男性49名,女性30名,年齢18-25歳,中央値20)。
従属変数 理解度を問う事後テスト得点を従属変数として用いた。事後テストは,文章理解における状況モデル(福田,2009)に基づき,理解の浅いものから順に表層理解得点,テキストベース得点,状況モデル得点として採点した。その他,生成された説明文をIU(アイデア・ユニット)に分解し分析に用いた。
結果
各事後テスト得点について,想定する読み手を要因とした被験者間1要因3水準の分散分析を実施した結果,状況モデル得点のみ群の主効果が有意であった。(F(2,69)= 6.45,p<.05)。Bonferroni法による多重比較を行ったところ,後輩想定群>教員想定群(p<.05),後輩想定群>統制群(p<.01)の間に有意差が認められた。IUの出現数を同様に分散分析したところ,同一表現IUで主効果が有意傾向となり,具体化IU,個性的IUでは主効果が有意になった。多重比較の結果,具体的IUでは後輩想定群と統制群(p<.05),統制群と教員想定群(p<.01)の間に有意差がみられた。個性的IUにおいては,後輩想定群と教員想定群(p<.05),後輩想定群と統制群(p<.01)の間に有意差がみられた。

考察
上記結果から,説明予期を与える際に教示によって想定させる読み手は,既有知識の低い後輩に設定することで深い処理を用いた学習が促進されることが示唆された。
実 験 2
実験1で得られた説明予期の効果が読解時の効果なのか,説明文生成時の効果なのか,もしくは両者の相互効果なのかが不明である。そこで,実験2では,読解時の効果の有無を検討した。実験手続きや材料は実験1と同様だが,説明予期を与えて文章を学習させたあとに,説明文を生成させることなく事後テストを行った。その結果,各事後テスト得点において群差は有意にならなかった。
実 験 3
実験3では,説明文生成時の読み手を想定する効果の有無を検討した。実験1と同様の手続きを用いたが,説明予期を与える際の読み手の操作は,文章学習後の,説明文生成直前にした。その結果,各事後テスト得点における主効果は有意にならなかった。
全体的考察
以上の結果より,説明予期を与える際に教示する想定相手の違いにより得られる効果は,学習材料となる文章の読解時と説明文生成時単独では生起せず,読解と説明文生成の相互作用であることが示唆された。