[PB024] 小学校授業における授業進行のための発話とフェイス配慮
教師による発話着目してポライトネス理論の視点から
キーワード:教室談話, ポライトネス理論, 指示
問 題
小学校授業において学習内容に従事するための十分な時間の確保が求められている(佐藤, 2006; Dillenbourg, 2012)。そのためには,活動間の移行をスムーズにすることが一つの解決策となろう。一方で,子どもに対する注意の仕方を工夫することで子どもを授業に参加させる研究も行われている(吉川・三宮,2007; 山田,2006など)。
授業進行のための発話である指示と注意は,教師が児童に特定の行為を促している「フェイス脅威発話」(face-threatening act, FTA)として,扱うことが出来る。FTAは,円滑なコミュニケーションのためのグラウンド・ルールを提示したポライトネス理論が対象とする発話行為である(Brown & Levinson, 1987/邦訳2011)。ポライトネス理論では,フェイスという普遍的欲求(良い評価をされたい「有能性」への欲求,仲間になりたい「親密性」への欲求,他人に邪魔されたくない「自律性」欲求)を前提に,話し手が聞き手のフェイスに配慮しつつFTAを行う(Lim&Bower, 1991)。移行の指示や注意は,児童の自律性を侵害するため,何らかのフェイス配慮を同時に行うことが想定される。
本研究ではフェイス配慮という視点から教師の指示や注意を分析することで, 一貫性を持って児童のフェイスに対している様子を明らかにする。
方 法
対象:教師A(教歴7年:3年生担任)と教師B(25年以上:1年生)に協力いただいた。週1回2ヶ月観察したフィールドノーツ及び映像・音声8授業分ずつを分析対象とする。
方法:授業を活動に分割し,活動移行に用いた教師の指示と注意発話を抜粋する。発話に見られるフェイス配慮をポライトネス理論を用いて分析する。注意発話は,教師が促す活動に従事しない児童に対して行われる発話とした。
結果と考察
教師Aの1授業(3校時保健)について特に示す。教師Aは多くの指示(8/15指示)で「では読みましょう」といった勧誘の表現を用いて,親密性への配慮を示していた。他3指示は「目次を見てください」「一回下ろしてください」といった命令形が用いられていた。促す活動の容易さから,フェイス配慮の少ない表現が用いられたと推測される。他の指示では,「はてなマーク読んでくれる人います?」といった疑問形が代表者を選ぶ3場面において用いられ, 児童が音読を「してあげる」という自律的な行為を求める発話であった。
以上の指示は単独で用いられることから,児童が指示を一度で理解し行為できると教師が考えていることが示唆される。指示に共通するこの特徴は,児童の有能性への配慮である。
注意発話は,授業のまとめを書く活動へ従事していない児童の事例を引用する (事例)。
事例:理科40分41秒,有能性へ働きかける注意
教師Aは,児童aが自分が逸脱していることに「気付く」ことを予想し,期待していたことを伝え,逸脱を続けることにより児童の有能性への欲求が 満たせない状況にあることを伝えている。
以上から,教師Aは児童が課題を理解し,それに取り組むことができることを前提に指示を行い,逸脱した場合それを伝えることで児童を活動に向かわせようとしていることが分かる。
一方で教師Bは,授業内容に関わる活動の指示では親密性への配慮をしていた。注意では,児童の気持ちへの理解を示し,教師の気持ちについて伝えることで, 親密性への欲求へ働きかけていた。
以上から,教師AおよびBは,普段の指示において共通して配慮するフェイスがあり,注意においてもそのフェイスに働きかけることが示唆された。児童にとっては,注意をされることで,普段満たされているフェイスが満たされなくなり,求められる行為を促されている可能性が示唆された。
小学校授業において学習内容に従事するための十分な時間の確保が求められている(佐藤, 2006; Dillenbourg, 2012)。そのためには,活動間の移行をスムーズにすることが一つの解決策となろう。一方で,子どもに対する注意の仕方を工夫することで子どもを授業に参加させる研究も行われている(吉川・三宮,2007; 山田,2006など)。
授業進行のための発話である指示と注意は,教師が児童に特定の行為を促している「フェイス脅威発話」(face-threatening act, FTA)として,扱うことが出来る。FTAは,円滑なコミュニケーションのためのグラウンド・ルールを提示したポライトネス理論が対象とする発話行為である(Brown & Levinson, 1987/邦訳2011)。ポライトネス理論では,フェイスという普遍的欲求(良い評価をされたい「有能性」への欲求,仲間になりたい「親密性」への欲求,他人に邪魔されたくない「自律性」欲求)を前提に,話し手が聞き手のフェイスに配慮しつつFTAを行う(Lim&Bower, 1991)。移行の指示や注意は,児童の自律性を侵害するため,何らかのフェイス配慮を同時に行うことが想定される。
本研究ではフェイス配慮という視点から教師の指示や注意を分析することで, 一貫性を持って児童のフェイスに対している様子を明らかにする。
方 法
対象:教師A(教歴7年:3年生担任)と教師B(25年以上:1年生)に協力いただいた。週1回2ヶ月観察したフィールドノーツ及び映像・音声8授業分ずつを分析対象とする。
方法:授業を活動に分割し,活動移行に用いた教師の指示と注意発話を抜粋する。発話に見られるフェイス配慮をポライトネス理論を用いて分析する。注意発話は,教師が促す活動に従事しない児童に対して行われる発話とした。
結果と考察
教師Aの1授業(3校時保健)について特に示す。教師Aは多くの指示(8/15指示)で「では読みましょう」といった勧誘の表現を用いて,親密性への配慮を示していた。他3指示は「目次を見てください」「一回下ろしてください」といった命令形が用いられていた。促す活動の容易さから,フェイス配慮の少ない表現が用いられたと推測される。他の指示では,「はてなマーク読んでくれる人います?」といった疑問形が代表者を選ぶ3場面において用いられ, 児童が音読を「してあげる」という自律的な行為を求める発話であった。
以上の指示は単独で用いられることから,児童が指示を一度で理解し行為できると教師が考えていることが示唆される。指示に共通するこの特徴は,児童の有能性への配慮である。
注意発話は,授業のまとめを書く活動へ従事していない児童の事例を引用する (事例)。
事例:理科40分41秒,有能性へ働きかける注意
教師Aは,児童aが自分が逸脱していることに「気付く」ことを予想し,期待していたことを伝え,逸脱を続けることにより児童の有能性への欲求が 満たせない状況にあることを伝えている。
以上から,教師Aは児童が課題を理解し,それに取り組むことができることを前提に指示を行い,逸脱した場合それを伝えることで児童を活動に向かわせようとしていることが分かる。
一方で教師Bは,授業内容に関わる活動の指示では親密性への配慮をしていた。注意では,児童の気持ちへの理解を示し,教師の気持ちについて伝えることで, 親密性への欲求へ働きかけていた。
以上から,教師AおよびBは,普段の指示において共通して配慮するフェイスがあり,注意においてもそのフェイスに働きかけることが示唆された。児童にとっては,注意をされることで,普段満たされているフェイスが満たされなくなり,求められる行為を促されている可能性が示唆された。