日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PB

2015年8月26日(水) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PB034] アウトラインツールが大学生の文章産出困難感に与える影響

冨永敦子1, 大塚裕子#2, 椿本弥生3 (1.公立はこだて未来大学, 2.公立はこだて未来大学, 3.公立はこだて未来大学)

キーワード:高等教育, 文章産出, アウトライン

1.アウトラインツールを利用した文章作成
大学生のレポート執筆作業に,マップ,アウトラインマップ,詳細化アウトラインからなる一連のアウトラインツールを導入し,学習者の文章産出困難感の変化を検討した。対象は公立大学情報学部1年生必修(半期15回)の授業,履修者数は306人(約100人×3クラス)であった。
本授業では,1500~2000字の科学技術に関する自由テーマの意見文を以下の手順で作成した。
1)マップの作成:自分の書きたいテーマを明確にし,レポートでの主張文を決定するため,テーマについて調べたこと・それに対する書き手自身の意見や疑問を図にしたものである。文献やデータ等から新しく得た知識も加え,情報を整理した。
2)アウトラインマップの作成:アウトラインマップは,主張文・証拠・理由づけの対応を図解したものである。用紙の一番上に主張文を書き,その主張文を支える理由づけと証拠を書いた。これらの証拠からこの主張を導き出せるのか,主張文・理由づけ・証拠が適切に対応しているかをアウトラインマップで確認した。
3)詳細化アウトラインの作成:詳細化アウトラインは,表計算ソフトを用いて,文章に含める内容を網羅的・構造的に整理したものである(藤田ほか,2015)。まず,アウトラインマップに書いた主張文,理由づけ,証拠を第1層に入力した。第2層以降には,主張文や理由づけ,証拠の内容を詳しく入力した。次に,「係り先」と「論理的関係の種類」を用いて,各セルに入力した内容同士がどのような関係になっているかを検討した。詳細化アウトライン上でセル同士の関係や全体の流れを検討することにより,内容のダブり・モレ・ズレのない,論理的な文章構成を目指した。
2.方法
一連のアウトラインツールの利用が,学習者にどのような影響を与えたのかを調べるために,初回授業(pre)および最終授業後(post)に文章産出困難感尺度(岸ほか,2012)に回答させた。
3.結果および考察
pre・postの両方に回答した235人を分析対象とし,文章産出困難感尺度の各因子の下位尺度得点についてpre・postを比較した。対応のあるt検定の結果,全体構成,読み手意識,アイディアは1%水準で有意(t (234)=4.86, p<.01; t (234)=5.36, p<.01; t (234)=5.07, p<.01)であった。いずれもpreよりpostが高くなった。表現選択,推敲は有意ではなかった。マップ,アウトラインマップ,詳細化アウトラインといった一連のツールを使ったことにより,レポート全体のまとまりや一貫性に対する意識が高まったと推測される。また,一連のツールは,文献の内容とそれに対する書き手の疑問や意見を視覚化できるため,アイディアが生まれず「何を書いてよいかわからない」という学習者でも,書く内容を少しずつ形にできたのではないかと推測される。
引用文献
藤田篤・柏野和佳子・大塚裕子・冨永敦子・椿本弥生(2015)文章作成・推敲教育に向けた詳細なアウトラインの仕様設計と修辞構造情報付与の試み.言語処理学会第21回年次大会(印刷中)
岸学・梶井芳明・飯島里美(2012)文章産出困難感尺度の作成とその妥当性の検討.東京学芸大学総合教育科学系Ⅰ,63: 159-169.
「係り先」(C列)はどのIDに結びついているか,「論理的関係の種類」(D列)は係り先とどのような関係なのかを示している。たとえば,ID0の「音楽的感性」は何を指すのかがあいまいである。そこで,ID2の第2層で音楽的感性の意味を説明している。ID0を詳しく説明しているので,ID2の係り先は「0」,論理的関係の種類は「定義」になる。