[PB036] 朗読らしさとは何か?
朗読音声特性と音読音声特性の比較
Keywords:朗読, 印象評価, 感情
小学校国語の学習指導要領第5学年および第6学年の「C読むこと」で,音読や朗読の重要性が示されている。では,音読と朗読の読み方の相違は何に帰するのであろうか。
朗読は発声をともなうという点では音読と類似し,深い理解という点では味読に類似している(福田, 2014)。しかし,他の読み方との類似という観点からだけでは,朗読の特性を明確にできない。また,藪中(2008)は小学6年生にプロのアナウンサーによる朗読音声を聞かせ,その印象を評価させ,親しみやすさ因子と聞きやすさ因子を抽出している。しかし,音読等の他の読み方との比較をしていないため,朗読固有の特性が明確ではない。一方,山田(2009)は4種類の音声について大学生を対象に音声評定を行ったが,統計的な分析を行っていない。そこで,本研究では音読との比較を通じて,朗読の特性について統計的手法を用い,探索的に検討を行う。
方法
参加者 大学生・大学院生の女性7名,男性9名,計16名。22歳4ヶ月から28歳6ヶ月であった。
音声材料 「幸福の使者(西本, 2004)1,771文字」中,会話がある場面を選び,プロのアナウンサーに朗読および音読をしてもらい,ビデオに収録した。朗読音声は60秒,音読音声は53秒であった。
質問紙 藪中(2008)と山田(2009)の用いた質問項目の中で,重複する内容はまとめた。また,音声材料作成の協力者に朗読するときの注意点を尋ねた。その結果から,「抑揚がある」「強弱がある」「登場人物ごとに声色が変わっている」「発声が明確である」の項目を追加した。さらに「音読である」「朗読である」という評価を含め22項目を用意した。評定は,「全然そう思わない」1点から「とてもそう思う」5点の5件法を使用した。
手続き 参加者に音声を提示,その印象を評価させた。参加者の半数は朗読音声を始めに評定させ,その後音読音声を評定させた。残りの参加者への音声提示の順番は逆にし,順序効果を相殺した。また,項目の順番を変えた質問紙を2種類作成し,順序効果が顕在化しないように工夫をした。
結果・考察
因子分析 朗読音声と音読音声に対する評定値をまとめ,「音読である」「黙読である」という項目を抜かし,20項目に関し,重みなし最小二乗法,プロマックス回転で分析を行った。その結果,スクリープロットの値より,2因子解を採用した。また,負荷量.40以下の項目,および2因子ともに.40以上の負荷量があった項目を削除し,再度同様の因子分析を行った。その結果,音声によって感情を表現している「感情関連因子:登場人物ごとに声色が変わっている,声に抑揚がある,声に強弱がある,力強い,味がある,楽しい,印象的,感動的,暖かい,お話にぴったりあっている,続きを聞きたい」と音声の自然さを表している「自然さ因子:自然である,好き,聴きやすい」が抽出された。両因子の相関係数は.207であった。なお,削除された項目は,「発声が明確である,親しみやすい,おおげさな話し方である,おしつけがましい,うるさい」の6項目であった。
朗読の特性 朗読の特性を明らかにするため,「朗読である」「音読である」を独立変数として,各因子に含まれる項目の合計得点を従属変数として強制投入法による重回帰分析をそれぞれ行った。その結果,朗読音声でも音読音声でもVIFは2以下であり,多重共線性の可能性は低いと考えられる。また,調整済みの重決定係数は朗読音声R2=.620,音読音声R2=.508で両方とも1%水準で有意であった。表1に標準偏回帰係数を示した。これらの結果より,朗読という読み方では感情を表現し,一方,音読では感情を抑えた読み方であると考えられる。つまり,2つの読み方を判別する特性として,音声の自然さというよりも,どれだけ発声に感情が表現されているかが重要であることが示唆された。
主な引用文献
福田由紀(2014).暗唱の言語心理学的検討 -行動指標と脳神経学的指標を用いて- 野間教育研究所紀要, 第54集.
藪中征代(2008).朗読聴取に関する教育心理学的研究 風間書房
山田彩子(2009).「朗読者の意図」と「聞き手の評価」 仏教大学大学院紀要 文学研究科篇,37,125-139.
朗読は発声をともなうという点では音読と類似し,深い理解という点では味読に類似している(福田, 2014)。しかし,他の読み方との類似という観点からだけでは,朗読の特性を明確にできない。また,藪中(2008)は小学6年生にプロのアナウンサーによる朗読音声を聞かせ,その印象を評価させ,親しみやすさ因子と聞きやすさ因子を抽出している。しかし,音読等の他の読み方との比較をしていないため,朗読固有の特性が明確ではない。一方,山田(2009)は4種類の音声について大学生を対象に音声評定を行ったが,統計的な分析を行っていない。そこで,本研究では音読との比較を通じて,朗読の特性について統計的手法を用い,探索的に検討を行う。
方法
参加者 大学生・大学院生の女性7名,男性9名,計16名。22歳4ヶ月から28歳6ヶ月であった。
音声材料 「幸福の使者(西本, 2004)1,771文字」中,会話がある場面を選び,プロのアナウンサーに朗読および音読をしてもらい,ビデオに収録した。朗読音声は60秒,音読音声は53秒であった。
質問紙 藪中(2008)と山田(2009)の用いた質問項目の中で,重複する内容はまとめた。また,音声材料作成の協力者に朗読するときの注意点を尋ねた。その結果から,「抑揚がある」「強弱がある」「登場人物ごとに声色が変わっている」「発声が明確である」の項目を追加した。さらに「音読である」「朗読である」という評価を含め22項目を用意した。評定は,「全然そう思わない」1点から「とてもそう思う」5点の5件法を使用した。
手続き 参加者に音声を提示,その印象を評価させた。参加者の半数は朗読音声を始めに評定させ,その後音読音声を評定させた。残りの参加者への音声提示の順番は逆にし,順序効果を相殺した。また,項目の順番を変えた質問紙を2種類作成し,順序効果が顕在化しないように工夫をした。
結果・考察
因子分析 朗読音声と音読音声に対する評定値をまとめ,「音読である」「黙読である」という項目を抜かし,20項目に関し,重みなし最小二乗法,プロマックス回転で分析を行った。その結果,スクリープロットの値より,2因子解を採用した。また,負荷量.40以下の項目,および2因子ともに.40以上の負荷量があった項目を削除し,再度同様の因子分析を行った。その結果,音声によって感情を表現している「感情関連因子:登場人物ごとに声色が変わっている,声に抑揚がある,声に強弱がある,力強い,味がある,楽しい,印象的,感動的,暖かい,お話にぴったりあっている,続きを聞きたい」と音声の自然さを表している「自然さ因子:自然である,好き,聴きやすい」が抽出された。両因子の相関係数は.207であった。なお,削除された項目は,「発声が明確である,親しみやすい,おおげさな話し方である,おしつけがましい,うるさい」の6項目であった。
朗読の特性 朗読の特性を明らかにするため,「朗読である」「音読である」を独立変数として,各因子に含まれる項目の合計得点を従属変数として強制投入法による重回帰分析をそれぞれ行った。その結果,朗読音声でも音読音声でもVIFは2以下であり,多重共線性の可能性は低いと考えられる。また,調整済みの重決定係数は朗読音声R2=.620,音読音声R2=.508で両方とも1%水準で有意であった。表1に標準偏回帰係数を示した。これらの結果より,朗読という読み方では感情を表現し,一方,音読では感情を抑えた読み方であると考えられる。つまり,2つの読み方を判別する特性として,音声の自然さというよりも,どれだけ発声に感情が表現されているかが重要であることが示唆された。
主な引用文献
福田由紀(2014).暗唱の言語心理学的検討 -行動指標と脳神経学的指標を用いて- 野間教育研究所紀要, 第54集.
藪中征代(2008).朗読聴取に関する教育心理学的研究 風間書房
山田彩子(2009).「朗読者の意図」と「聞き手の評価」 仏教大学大学院紀要 文学研究科篇,37,125-139.